第6話 無限スライム

 翌朝、庭から聞こえてくるマメゾウの鳴き声で目が覚める。


「なんだ……?」


 ベッドからもぞもぞと起き上がり、悠真はカーテンを開けた。部屋に差し込む光が、寝起きの双眸そうぼうに突き刺さる。


「ん、だよ! うるさいな」


 二階にある悠真の部屋からは、マメゾウがいる裏庭が見える。窓を開けて見下ろすと、やはりマメゾウが何かに吠えているようだ。

 悠真は仕方なく階段で一階に下り、裏庭に通じる居間に向かう。


「ちょっと悠真、マメゾウがうるさいのよ。どうしかしたのかしら?」


 台所で朝食を作っていた母親が、いぶかしげに聞いてきた。


「俺、見てくるよ」


 縁側に出てサンダルを履き、昨日段ボールで閉じた穴の前までいく。マメゾウは予想通り穴に向かって吠えていた。


「やっぱり、こいつか……」


 重しにしていた石をどけ、段ボールをはぐる。穴の中を見つめると、なにかが動いているようだ。悠真は一旦家に戻り、懐中電灯を持って再び穴の前まで行く。

 暗闇を照らせば、昨日散々見たがそこにいた。


「また出やがったな。金属スライム!」


 確かにダンジョンのモンスターはいつのまにか復活すると聞いたことはあったが、一匹しかいないこんな小さなダンジョンでも同じなのか……。ずっとモンスターが庭にいるのは嫌だけど、倒しても次の日復活するなら意味ないよな?

 悠真はめんどくせえ、と思ったが、あることに気づく。


「待てよ! 一日一回倒してたら、いつか『魔宝石』がドロップするんじゃないか? この珍しい魔物の『魔宝石』なら一億はするかもしれない」


 確か魔物のドロップ率は1%ぐらいだと聞いたことがある。だとしたら毎日倒していけば100日で一個の『魔宝石』が手に入るぞ。

 悠真は少し興奮気味で家に戻る。


「どうだった? マメゾウは?」母親が心配そうに聞くが、悠真は「ああ、大丈夫だったよ。心配しないで」と言って自分の部屋に行く。


 昨日使ったガスバーナーと冷却スプレーを押し入れから引っ張り出し、意気揚々と庭に向かう。

 わんわんと鳴くマメゾウを横目に、穴の中に手を突っ込む。

 冷却スプレーを噴射すると、金属スライムはうねうねと体を動かした後、飛び跳ねて逃げようとするが、徐々に動きが鈍くなる。

 全身が白く染まり、凍り付いて動きを止めた。「よしよし」と悠真は頷き、今度はガスバーナーのノズルをスライムに向け、点火トリガーを引く。

 青い炎が噴き出し、金属スライムの体を炙っていく。体は真赤に染まり、解凍されたスライムは再び動き出す。

 悠真が冷却と過熱をもう一度繰り返すと、金属スライムの体の表面にヒビが入る。


「あ! 金槌、忘れてきたな……」


 辺りをキョロキョロと見回すと、少し大きめの石があった。

 その石を手に取って金属スライムに叩きつける。瞬間―― スライムの体は粉々に砕け散った。


「やった!」


 金属の破片は黒い砂となり、最後には消えていく。

 昨日と同じだな、と悠真は思いながら、懐中電灯を使って辺りを照らす。


「う~ん、やっぱり無いか……」


 欲しかった『魔宝石』はどこにもない。そう簡単にはいかないかと思いながら悠真は穴から這い出した。


「マメゾウ、取りあえず魔物はやっつけたぞ。また明日も出てくるかもしれないけどな……」

「くうぅ~ん」と鳴くマメゾウの頭を撫で、悠真は家へと戻る。


 俺にも運が向いてきたんじゃないのか? 一日一回、金属スライムを倒せば大金が転がり込んでくるかもしれない。


 ニタニタとほくそ笑む悠真を見て、母親は困惑の表情を浮かべた。

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