第140話 日本の重大危機
その後、全てのヘル・ガルムは討伐され、地上に出てきた魔物は全滅した。
しかし
Dマイナーを始めとする中小企業は‶探索者の街″から出て帰路につく。
今後どうなるかは分からないが、次の計画では大手と準大手だけで対処する案も出ているらしい。
「まあ、俺らの仕事もこれで終わりだろう」
ジープを運転しながら神崎が呟く。
「正直、もう来たくないですね」
助手席に座る田中が苦笑いを浮かべる。だが後部座席に座る悠真は、身を乗り出して会話に入ってきた。
「でも俺は友達に会えて嬉しかったですね。天王寺さんみたいな有名人も見られましたし!」
「ああ、確かに……やっぱり‶雷獣の咆哮″の戦いは凄かったからね」
田中も同意する。二人の会話を聞きながら、神崎はフッと目を細めた。
「なんにせよ疲れたぜ……さっさと帰って飯食って寝るぞ!」
「「はい!」」
三人を乗せた車は常磐自動車道を南下し、千葉の会社へと戻っていった。
◇◇◇
探索者の街、中央管理センター対策本部。
そこは大問題に直面していた。『黒の
「それで自衛隊や警察から新しい情報はないのか?」
「は、はい。今のところ……」
本部に詰めていた本田は頭を抱えた。周辺の捜索を茨城県警や近隣の駐屯地にいる自衛隊などで行ったが、手掛かりは一切ない。
「一体、どうなっているんだ?」
本田が困惑している中、部下の男が近づいて来る。
「部長、内閣府の橋爪事務次官からお電話です」本田は顔をしかめながら、スマホを取り、電話に出た。
「はい……ええ、分かりました」
それは政府からの呼び出しだった。電話を切った本田は大きな溜息をつく。
地上に大災害を巻き起こすと言われる魔物が解き放たれたのだ、政府も対応におおわらわだろう。
本田は重い腰を上げ、東京へ行く準備を始めた。
同日、午後――
内閣危機管理監の統制の下、内閣官房及び内閣府が総合調整を行い、緊急事態に際して各省庁から局長等の幹部が官邸に集められた。
初動対応に関する情報集約を行うためだ。
話し合われたのは当然の如く、地上に現れた魔物‶
ここで合意された見解が、直ちに総理の元へと上げられ、緊急の閣僚会議が行われることになる。
内閣総理大臣、岩城が重々しく口を開く。
「その黒い魔物……本当にそれほどの脅威があるのか?」
答えたのは防衛大臣の高倉だった。
「まだ分からない部分も多くありますが、専門家の見方ではかつてない脅威だとする意見が大半です。最大限の対応をするべきかと」
「そうか……」
会議では様々な意見も出し合われたが、結局のところ門外漢。防衛省以外の省庁ではダンジョンの詳しいことまでは分からない。
ダンジョンにもっとも精通している防衛省が舵を取ることで合意し、予算と人員の投入が決定された。
会議が終わり、国会の廊下を並んで歩いていたのは、防衛大臣の高倉と防衛審議官の芹沢だ。
「エルシード社の統括本部長、本田を待たせています」
「そうか」
高倉は短くそう答えると、さっそく本田の待つ部屋へと
開かれた扉の先、本田は緊張した面持ちで待っていた。座っていた椅子から立ち上がり、背筋を伸ばして対面する。
高倉は本田の前に立ち、鋭い眼光を向けた。
「閣僚会議で決定したことを伝える」
高倉の言葉に本田は、ただ「はい」とだけ答えた。
◇◇◇
東京都大手町にあるDeNAエルシードの本社ビル。
官邸から戻った本田は八階フロアの会議室へと足を進め、扉を開く。そこにはエルシード最強の
数名は先の戦いで負傷し欠席しているが、天王寺や泰前、美咲ブルーウェル、そしてルイなどは顔を揃えていた。
「今、官邸から戻った。防衛大臣から国の方針を伝えられたので、君たちにも情報を共有しておく」
座っていた天王寺たちも立ち上がり、姿勢を正して本田を見る。
「政府は『黒の
「討伐……では」
天王寺が真剣な顔で問い返すと、本田は頷いた。
「日本中の上位探索者を動員してヤツを倒す! 自衛隊は捜索のサポートはしてくれるが、戦闘には参加しない。彼らでは勝てないからな」
その言葉に天王寺は生唾を飲む。本田はより厳しい表情になった。
「これは国からの正式な依頼だ。討伐対象の『黒の
「黒……鎧……」
天王寺はその名を反芻する。
「そして討伐の責任者としてエルシードが指名された。つまり――」
会議室はシンと静寂に包まれる。
「君たち‶雷獣の咆哮″が中心となって‶黒鎧″を倒すんだ!!」
天王寺や泰前の顔が強張る。それは後ろにいたルイも同じだった。
あの
ルイは不安を覚えながらも、視線を本田に戻す。
「これは日本の安全を守るための重要な任務だ。失敗すれば何千、何万もの人の命が失われる可能性もある。なにがなんでも成功させろ!!」
「「「はいっ!!」」」
この日より日本最大のミッション――‶黒鎧討伐計画″が全ての上位
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