第20話 金の魔鉱石

 悠真は学校から帰ってくると、ベッドに寝そべりながらスマホをいじっていた。

 貴金属店のサイトを検索し、掲載されていた番号に電話をかけてみる。


『はい、田辺貴金属店です』


 品の良さそうな女性が電話に出た。


「あ、もしもし、あの~金を鑑定してもらいたいんですけど」

『ハイハイ、金の鑑定ですね。売却をご希望ですか?』

「ええ、売れるんなら売りたいと……」


 悠真はドロップした‶金の魔鉱石″を売る気満々だった。マナがゼロなら普通の金属と変わらない。

 まだ‶金″と決まった訳ではないが、重量は二十グラムもあるので純金なら十四万はくだらない。これはきっと神様からの贈り物だ。

 悠真はそう考え、すぐにでも換金したかった。


『分かりました。今、金の相場は上がっていますから、売り時だと思いますよ』

「そうですか……それで実際に売るにはどうすればいいですか?」

『お客様の身分証明書と、あとは金の出所が分かる物があれば……ちなみに金に刻印はありますか?』

「刻印? なんですか、それ?」

『品物の価値を示すマークのようなものです。買取をする際は、最初にチェックするのですが』

「それがないと買ってもらえないんですか?」

『いえ、それ以外でも購入履歴が分かる物があれば買取はいたします』

「そ、そうですか。ちなみに未成年が一人で売りにいっても大丈夫ですか?」

『未成年ですか……それはさすがにダメですね。保護者の方の同意が必要になりますし、確認するためには一緒に来店して頂くしか……』

「で、ですよね~」


 悠真は「親に相談してみます」と言って電話を切った。


「やっぱり、そうだよな」


 がっかりして肩を落とす。親に金を売りたいなんて言ったら「そんな物、どこから持ってきたの!?」と問い詰められそうだ。

 なにより魔物からドロップした金に『刻印』や『証明書』などあるはずがない。

 売るのは現実的に無理か~と溜息をつく。

 悠真は机の上に置いてある‟金の魔鉱石”に目を移した。


「使ってみるか……どんな能力が手に入るか分からないけど」


 マナ指数が‶黒の魔鉱石″と同じくゼロなら、使うことはできるはずだ。

 悠真はウェットティッシュを手に取ると、魔鉱石を丁寧に拭いた。万が一、マナがあったとしても便になって出てくるだけだ。

「よし!」と覚悟を決め、口に含んで水で流し込む。

 ゴクンと飲んでしばらく待った。


「だ、大丈夫だよな?」


 黒の魔鉱石が使えることは分かってるが、金の魔鉱石は今日初めて飲んだのだ。

 体に害は無いだろうけど、やっぱり心配になる。まさか金ピカの体になったりしないよな?  

 そんなことを考えていると、腹部が熱くなってくる。


「来た来た! この感覚!!」


 全身を駆け巡る電流のような刺激。意識がふわりと遠のいてゆく。

 魔鉱石を取り込んだ時に起こる変化は、もう何度も経験している。今回も体に取り込んだのは間違いない。

 不思議な感覚が収まると、悠真は手や体を見回す。


「特に変化は……無いな。また変身するのか?」


 悠真は全身に力を入れ、変われ! 変われ! と念じてみる。

 すると体が黒くなり、いつものように金属化はしたが、それ以上なにも起こらなかった。これは黒の魔鉱石の効果だ。


「おかしいな。どんな変化が起こったのか分からないぞ」


 その後も色々試してみるが、やはり何一つ分からない。


「なんだよ……これなら売る方法考えた方が良かったな」


 悠真は少し後悔して、その日は眠りに就いた。


 翌日――

 だるそうに庭に向かい、マメゾウの頭を撫でてから金属スライムを倒す。

 一晩寝ても『金の魔鉱石』に効果が無かったことがショックで、悠真は落ち込んでいた。

 ハァ~と嘆息し、穴から出ようとした時、黒の魔鉱石があることに気づく。


「あ! ドロップしてたのか」


 二ヶ月ぶりだな。と思いながら魔鉱石を拾い上げ、自分の部屋へと戻った。

 その翌日も金属スライムを倒すと、またも魔鉱石が落ちている。二連続でドロップしたことなどなかったため、悠真はかなり驚いた。


 更に翌日、また魔鉱石がドロップする。

 さすがにおかしい……それは明らかな異常事態だった。悠真は自分が飲み込んだ金の魔鉱石を思い起こす。


「まさか……」

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