第343話 打開策

 カンザス州にあるマッコーネル空軍基地。

 空輸と給油を提供することを主な役割とする基地だが、現在は空軍の中継地として活用されている。

 その基地の医療施設に、重傷を負った悠真が運び込まれていた。

 二十四時間体制で医療、及び救世主メサイアによる治療が行われ、なんとか命を繋ぎとめている。

 そんな悠真の元に、ルイと明人、そしてアルベルトの三人が駆けつけた。


「アルベルト! 無事でしたか」


 施設に現れたアルベルトに、ミアが顔を綻ばせて喜ぶ。


「ああ、なんとかね。で、三鷹悠真の状態はどうだい?」

「現在、治療中です。一時は危ないところでしたが、現在は安定してます」


 その話に、後ろにいた明人が口を挟む。


救世主メサイアがおるんやろ? すぐ治せるんとちゃうんか?」


 ミアは「残念だけど」と言って、ふるふると首を振る。


「四人の救世主メサイアで集中的に魔法をかけているけど、傷の治りが遅いの。命は助かっても、もう動けなくなる可能性も……」


 悲痛な表情になるミアに対し、ルイは毅然と言う。


「大丈夫です。悠真は【自己再生能力】を持ってます。時間はかかるかもしれませんが、完治はすると思います」

「自己再生能力!?」


 明人が目をすがめ、ルイを睨む。


「そんな話、聞いてへんで! それって【深層の魔物】が持つ能力やろ? いつからそんなことになったんや!?」

「イギリスに入る前あたりかな。第三階層の回復魔法だと思うんだけど……」

「せやったら、なんで言わへんねん! めちゃめちゃ重要な情報やろ!!」

「言ってなかったっけ?」

「言ってへんわ、アホ!」


 揉めている二人の会話を聞いたアルベルトとミアが顔を見交わす。


「なんだか物騒な話をしてますが……本当なんでしょうか?」

「さあ、どうだろう。第三階層の回復魔法? 自己再生能力? にわかには信じられない話だね。でも、彼らなら有り得そうだ」


 病室に辿り着いた四人は、ドアを開けて中に入る。そこには慌ただしく動き回る医療関係者と、ベッドに横になる悠真がいた。

 ベッドのかたらには、四人の救世主メサイアの姿も見える。


「悠真!」


 近づこうとしたがルイだったが、ミアに腕を掴まれる。


「待って。今は面会謝絶の状態。私たちがウロウロしてると、かえって治療の邪魔になるわ」

「……そう、ですよね」


 ルイは肩を落とし、力なくつぶやいた。


「とりあえず、アメリカの救世主メサイアに任せようや。悠真の意識が戻れば、自分で回復魔法が使える。そうなりゃ、一発で怪我も治せるで」


 明人の言葉に、ルイは「うん」と頷き、病室をあとにした。

 別のミーティングルームに案内され、長机の前に明人とルイが座り、対面にミアとアルベルトが座る。


「さて、これからどうするか話し合わないといけないね」


 アルベルトがほがらかな表情で言う。ルイと明人は黙って頷いた。


「僕はアメリカ軍の本部に、今回のことを報告しにいかなきゃいけない。三鷹悠真をどうするかも本部に仰がないと」

「どうするかって、どういうこっちゃ!?」


 明人がいきり立って身を乗り出す。今にも噛みつきそうな視線に、ルイはヒヤヒヤして目を泳がせた。


「三鷹はもっと安全な場所にかくまった方がいいと思うんだ。でも、そんな場所は全部アメリカ軍の管轄下にあるからね。護送に協力してほしいと頼むつもりだよ」

「なんや、そういうことか」


 明人は椅子に座り直し、背もたれに体を預ける。


「僕としては、【黄の王】を倒せる唯一の戦力は彼だと考えてる。だが、今回の戦いを見て分かっただろう。ヤツは簡単に勝てる相手じゃない。三鷹の傷が癒えても、今のままでは勝ち目がない」


 明人とルイは視線を落とし、深刻な表情をする。

 確かに【黄の王】の力は巨人化した悠真を凌駕していた。再戦したとしても、勝てるとは思えない。

 考え込む二人を見て、アルベルトは話を続ける。


「そこで君たちに聞きたいんだ。彼がさらに強くなる方法はないだろうか? 三鷹は以前より遥かに強くなっていた。だとすれば【黄の王】と同じ"成長型"の【王】ではないのかな? 君たちなら詳しいと思ってね」

「そら確かに……悠真は戦って強くなってきたヤツや。【黄の王】を超えるほど強くなる可能性は充分にある」


 そう言った明人はなにかに気づき、「あっ!」と声を上げる。


「そうや! アメリカが持っとる『魔宝石』を全部悠真に食わせりゃええんや! そしたら悠真の魔力が跳ね上がって【黄の王】を倒せるで!!」


 明人の言葉に、アルベルトとミアは驚いた表情になる。


「全部の魔宝石って……そんな大量の"マナ"が三鷹にあるのかい?」


 アルベルトの疑問に、明人はふふんっと鼻を鳴らす。


「悠真の持っとるマナは数十万単位や。どんだけ魔宝石が大量にあっても消化して取り込めるやろ」


 勝ち誇ったように言う明人に、アルベルトとミアは困惑してしまう。


「その話が本当なら、確かに魔宝石の摂取は有効かもしれない。僕がアメリカ軍にかけあって、用意できないか聞いてくるよ」

「そうや、そうや、それが一番ええ!」


 話がまとまりかけた時、異論を挟んだのはルイだった。


「ちょっと待って下さい。明人が言うように、悠真は大量の魔宝石を摂取することができます。でも、すぐに使いこなせる訳じゃありませんし……その、なんていうか、魔力量が上がるだけで【黄の王】が倒せるとも思えません。もっとなにか、根源的なものが足りないような」


 そこまで言って、ルイは首を横に振った。


「すいません。うまく言えなくて……」

「いや、なんとなく君の言っていることは分かるよ」


 アルベルトは優し気な眼差しでルイを見つめる。


「【黄の王】の強さは、フィジカル、格闘能力、魔法障壁の頑強さ、それらが複合的に合わさったものだ。魔法を上げても、それだけで対抗はできないだろうね」


 会議室の中で、四人は黙り込んだ。【黄の王】を倒せるのは悠真しかいない。

 そのことに関しては、アルベルトやミアも理解しているようだった。しかし、確実に勝てる道筋が見えない。

 ルイは手の甲を鼻に当て、なにか打開策はないか考え込む。

 隣では明人が「くそっ!」と言いながら、わしゃわしゃと頭を掻いている。まだ、悠真の意識が戻らない状況で、こんなことを考えるのは酷かもしれない。

 それでも、なんとかするしか――


「あ」


 ルイの脳裏に、あることが思い出された。


「どうした、ルイ。なんかいい案が浮かんだんか?」


 頭を掻くのをやめた明人がルイを見る。アルベルトやミアも視線を向けてきた。


「いや……これはうまくいくか分からないけど……」


 ルイは一度息を飲んでから話を続ける。


「悠真を……オーストラリアに連れて行くのはどうでしょうか」

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