第45話 マナの行方

 その後、田中の指導を受けて悪戦苦闘しながらカエルを討伐してゆく。

 ピョンピョンと飛び回るカエルにピッケルを叩きつける。盛大に体液を噴き出している所でスイッチを押し、電流を流し込んで止めを刺す。

 スイッチを入れっぱなしにすると、すぐバッテリーが切れると田中に言われた悠真は、カエルにピッケルが当たった瞬間に電流を流すことを心掛けた。

 柄の長いピッケルを使っているので、短剣で戦う田中ほどカエルの体液は浴びなかったが、それでも帰る頃には全身ベトベトだ。


「田中さん……毎日こんな感じなんですか?」

「まあね。そのうち慣れるよ」


 明るく笑う田中と共に『青のダンジョン』を出る。斜陽に照らされた小金井公園で解散となり、悠真はとぼとぼと家に帰った。

 それから三日間、ダンジョンに潜り続けカエルを討伐していった。


 ◇◇◇


「おっかしいな……なんでだろう」


 四日目の朝。出社した悠真を前に、舞香は顔をしかめる。


「やっぱりダメですか?」


 困惑する悠真に業務用の‶マナ測定器″を向けながら、舞香は唸り声を上げる。


「う~ん……ブルーフロッグを二十匹以上倒してるんだよね?」

「ええ、田中さんと一緒に、かなり頑張って倒したんですけど……」

「だったらマナが上がってないとおかしいよ。ブルーフロッグは一匹倒すと大体0.2から0.3ぐらいマナが上がるはずだから、二十匹倒したらマナ指数が4から6になるはずなのに」


 怪訝な表情の舞香の後ろから、社長がやって来る。


「どうした?」

「あ、社長。ちょっとおかしいんだよ。悠真君のマナ指数がゼロのままなの」

「え? もう三日も経ってるのにか? 少しくらい上がってるだろう」

「ううん、全然だよ」

「壊れてんじゃねーのか? その測定器、けっこう古いだろう」

「じゃあ、試しに――」


 舞香は社長に測定器の先端を向け、スイッチを押す。ピッと音がしてから表示窓を覗くと、


「1107。合ってるよね」

「ああ、そうだな」


 舞香は次にデスクで仕事をしている田中の元まで行く。


「ちょっと測らせて下さいね。田中さん」

「え? ああ、いいですよ」


 測定器を田中の胸元に向けてスイッチを押す。こちらもピッと音がして指数が表示された。


「623」

「はい、合ってますね」


 いずれも測定器は正しい数値を示した。それを見て社長は困ったように頭を掻く。


「壊れてないのか」


 社長と舞香が測定器について話す姿を見て、悠真は不安になった。


「あの……ひょっとして、俺マナが上がりにくいんですかね?」


 悠真の言葉を聞いて、社長と舞香は顔を見交わす。


「いや、確かにマナの上がり方には個人差があると言われてるが……若干だぞ」

「そうよ! 普通はありえないわ。だから大丈夫だとは思うんだけど」


 社長と舞香が困惑の表情を浮かべる。悠真はひょっとすると金属スライムを倒し続けたせいで、なにか弊害が起きてるのかと心配になってきた。


「とにかく、もう少し様子を見よう。それでも上がらなきゃ、その時考えりゃいい」


 社長の一言で現状維持が決まった。悠真と田中は青のダンジョンへと向かい、マナを上げるためブルーフロッグを狩りまくる。


 そして二日後――


「う~~~ん」


 オフィスの奥にあるソファーに社長と悠真が向かい合って座り、深刻な表情で項垂うなだれている。

 社長は目を閉じ、腕を組んで悩んでいた。


「さすがにこれだけ経ってもマナが上がらねーのはおかしいな」

「やっぱり体質の問題でしょうか?」


 二人は頭を抱えた。社長も前例が無い事態に、どうしたものかと困っているようだ。


「そうだな。体質でマナが上がらないなんて聞いたことねーが、絶対に無いとも言い切れねえ。一回調べてみるか」

「調べるってどうするんですか?」

「俺の知り合いに、マナが人体にどんな影響を与えてんのか調べてる学者がいてな。ちょっと調べてもらえるか聞いてみるわ」


 社長は立ち上がり、自分のデスクに置いてあった携帯でどこかに電話をかけた。

 悠真も立ち上がってポリポリと頭を掻きながら自分のデスクに戻る。予想外の事態だった。

 ダンジョンの奥にいる少し強い魔物を倒していけば、順調にマナ指数が上がっていくものだと思っていた。だが現実にはまったく上がらないという。

 もしこのまま上がらなければ、当然探索者シーカーにはなれない。会社もクビだろう。

 ここを追い出されたら、悠真が就職できるダンジョン関連企業は無い。

 悠真が不安な気持ちで席に着くと、隣のデスクに座っていた田中が声をかけてくる。


「大丈夫? どうなったの?」

「なんか、マナが上がらない理由を調べることになって……どこかの学者さんに連絡を取ってるみたいです」

「ああ、あの人か」


 田中は合点がいくように笑みを漏らす。


「知ってるんですか?」

「うん、よく知ってるよ。探索依頼なんかもしてくれる学者さんでね。女の人だよ」

「へ~、そうなんですか」


 どうやら、よく見知った人のようだ。どんな感じの人だろうと思っていると、田中がグフフフと不気味に微笑む。


「な、なんですか?」

「いや、悠真君。ちょっと、ちょっと……」


 手招きする田中に、悠真は顔を近づけ耳を傾ける。


「その学者さん、社長の元カノなんだよ」

「ええ!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る