第51話 探索者の才能

「じゃあ悠真君、この辺りを探してみて」

「は、はい」


 舞香の指示に従い、地面にあるモグラ塚を見て回る。火モグラがいれば、地面が微かに動くというが……。


「あ!」


 ほんのわずかにモグラ塚の横の土が動いた。握りしめたピッケルを振り上げ、思いっきり地面に叩きつける。

 ――どうだ!?

 モグラはぴょこんと地面から顔を出した。

 よし、これで上に跳ね上げてと思った瞬間、モグラは穴の中へ引っ込んでしまう。


「ああ!?」


 慌てて穴の周りを叩いたり地面を掘り返したが、完全に逃げられてしまった。


「ああ~残念だったね。でも最初はこんなもんだよ。次、次!」


 舞香に励まされ、悠真はもう一度火モグラを探し始める。だが見つけることはできても、うまく倒すことができず何度も逃げられてしまう。


「くそっ! あとちょっとなのに!!」


 悠真は火モグラが入っていった穴を掘り返し、悔しがる。

 ――液体金属化の能力が使えれば、穴の中に入ってボコボコにしてやるんだが……そんなこと舞香さんの前でやる訳にはいかないし。

 唇を噛んで悔しがっていると、穴から火モグラがひょっこりと顔を出す。


 あれ、なんだ? と思った瞬間、火モグラはピョンっと飛び跳ね悠真の顔に向かって火を噴いた。

 突然のことに悠真は「うわっ!?」と叫んで大きく仰け反る。


「ちょっ! 悠真君!?」


 舞香が慌てて駆け寄ってくる。顔に火を噴きかけられたため、悠真は尻もちをついて両手で顔を覆っていた。


「いっ……つ……」


 顔に軽い火傷を負ったようだ。‶火耐性″の能力は‶金属化″していないと効力を発揮しない。生身で攻撃を受ければ、普通にダメージが通ってしまう。


「大丈夫!? 火モグラの火は弱いけど、火傷することもあるから……」


 駆けつけて来た舞香が「ちょっと見せて」と言い、顔を覗き込んできた。

 急に顔が近づいたので、悠真はドギマギして赤くなる。


「待ってて、火傷用に持ってきてるものがあるから」


 舞香は自分のバッグをまさぐり、中から小さな冷却スプレーを取り出す。


「じっとして!」

「は、はい」


 プシューと吹きかけられた冷気が顔を撫で、赤らんだ頬を冷やしていく。

 

「うん、火傷の痕は……残ってないみたいだね。良かった~」

「あ、ありがとうございます」


 悠真は立ち上がり、パンパンと服の土ぼこりを払う。さっきの火モグラはまた逃げてしまったようだ。

 せっかく来たんだから数匹は倒さないと。そう思った悠真は一旦ダンジョンから出ようか? と聞いてきた舞香の提案を断り、精力的に火モグラを探し始めた。


 ◇◇◇


 五時間ほど粘り、なんとか三匹の火モグラを倒した悠真だが‶魔宝石″は一つもドロップしなかった。

 その間に舞香は十二匹の火モグラを倒し、二つの魔宝石を手に入れていた。


「うん、ガーネットの0.4カラットと0.5カラットくらいかな。二つで一万八千円ぐらいだと思う」

「すごいですね……」

「悠真君も三匹倒せたじゃない! 火モグラは10%くらいの確率でドロップするから、明日は十匹倒すことを目標にしようよ」

「分かりました!」


 そんな会話をしている間に、社長たちが戻ってきた。

 十五階層で魔物を倒していたらしい。二人ともケロッとした顔をしていたが、魔宝石のレッドスピネルを十個以上取ってきていた。

 魔宝石が入ったケースを見せてもらうと、悠真は「へえ~」と感嘆の声を漏らす。


「まあ、これで百四十万ぐらいかな。あんまり多くはないが、明日はもっと深く潜る予定だ」


 悠真は一日でこんなに取れるのかと驚きつつ、プロの探索者シーカーの凄さを知る。

 この日の仕事はこれで終わり、全員で宿泊先へ戻ることになった。


 ◇◇◇


「つまりな、才能の問題もある訳よ」


 夜―― 04棟の部屋に戻った四人はデリバリーを頼み、夕食を囲んでいた。

 悠真は社長や田中が話してくれる探索者談議に耳を傾ける。


「最初のうちはな、同じ魔物を倒せば同じようにマナ指数が上がってくんだ。ところが一定の水準に達すると順調に上がっていく奴と、頭打ちになる奴が現れる。なんでそうなるか分からねえが、そうなっちまうもんは仕方ねぇ!」

「それが‶マナの壁″ってヤツですか?」


 熱弁する社長に悠真が尋ねる。

 ダンジョンに関する本を読んでいた時、目にしたことのあるワード。一流の探索者シーカーになるためには、この‶マナの壁″を突破する必要がある。

 そのためには先天的な才能が必要だと本には書いてあった。


「まあ、そういうことだ。人によってそれぞれ違いがあってな。マナ指数1000の壁もあれば、2000の壁もある。その上に3000、4000と。俺は1000の壁は超えることができたが、それ以降はなかなか伸びねぇ。キャリアを考えればもっと高くてもいいんだがな」


 社長が恨みがましく言うと、それを聞いていた田中は「僕なんて1000の壁も超えられませんよ!」と苦笑いしながら嘆いていた。

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