第50話 火属性の魔物

 二層に着くと、すぐさま下層へ向かうための洞窟を目指す。階によって場所がまちまちのため、かなりの時間と労力をかけて移動しなければならない。

 ちらほらと同業者の姿も見える。だが、ほとんどの探索者はもっと下層に行っているようで、浅い階には何かを調べている自衛隊が目立つ。


 さらにダンジョンを歩いていると、火を吐く小さな蜥蜴とかげや、甲羅が発熱している亀など、火属性の魔物に次々遭遇する。

 しかし全て無視して素通りした。そうして辿り着いた目的の十層。

 一層と変わり映えしないクリムゾンの峡谷が広がっている。


「うっし、始めるか!」


 社長は担いでいた大きなバッグを地面に置き、中から分解した武器を取り出す。

 舞香や田中もバッグからそれぞれ武器を取り出していく。田中はいつも使っている短剣とヘルメット。そしてスポーツ眼鏡を掛け、首にタオルを巻く。

 まだ何もしてないのに、すでに汗だくだ。

 舞香は三つに分けられた棒を繋ぎ合わせ、長い棍棒にしていく。どうやらあれが舞香の得物らしい。

 社長も同じように棒を繋いでいたが、それは太い六角棍で通常の棍棒とは明らかに異なる物だった。


「凄い丈夫そうな武器ですね」

「おう、知り合いに作ってもらった特注品よ。大雑把な作りだが俺は気に入ってる」


 社長はバッグから、さらに一本の短剣を取り出す。いつも田中が使っている物と同じ、魔法付与武装のようだ。

 社長が短剣の柄をぐっと握り力を込めると、剣全体に青く細い光が無数に伸びていく。まるで剣に血液が流れていくようだ。

 しばらくして光が収まると、社長はその短剣を悠真の前に差し出した。


「ほい、水の魔力を込めておいた。護身用に持っておけ」

「え!? 魔力を入れてくれたんですか?」


 魔力は有限であるため、ダンジョン内で魔法を使えばその分魔力は減ってしまう。


「いいんですか? 俺なんかのために魔力を使っちゃって……」

「これぐらい大したことねーよ。魔力は溜めておくことができねーから明日には無くなっちまうが、今日一日ぐらいなら二、三回は使えるはずだ。万が一強い魔物に襲われたら、それで突き刺せ!」

「は、はい!」


 悠真は短剣の鞘を自分のベルトにしっかりと固定した。そんなに強い魔物が出てくるとは思えないが、用心に越したことはない。


「――で、いつものヤツは持ってきてるな?」

「はい、ここに……」


 悠真は担いでいるバッグを下ろし、中に入っている物を取り出す。

 細い三つの棒だが、棍棒ではない。組み立てれば悠真が愛用している‶ピッケル″になった。


「この十層、奥に行けば『サラマンダー』って魔物もいるが、それ以外はそんなに強くねぇ。その武器でも充分倒せるはずだ」


 社長は太くて長い六角棍を肩に乗せ、歩きながらキョロキョロと辺りを見回す。


「お! いたいた、こいつだ!」


 社長の視線の先、地面が少し盛り上がっている場所があった。社長は「よっ」と声を上げ、六角棍を振り上げると、そのまま地面に叩きつける。

 悠真は驚くも、盛り上がった地面から何かが飛び出してきた。


「え!? なんだ?」


 それは体長二十センチほどの小さな生き物。長いヒゲを生やし、目は退化したのかとても小さい。これは――


「火モグラだ。弱い火を吐くが、大した魔物じゃねぇ」


 社長は棍を軽く振り、火モグラを打ち据える。「ふぎぃ!」という短い悲鳴と共に小さな魔物は、パンッと弾けて消えていった。

 ふぅ、と一息吐き、社長は悠真の方へと向き直る。


「まあ、こんなもんだ。いいか悠真、俺たちはプロの探索者シーカーだ。ただ魔物を狩ればいいって訳じゃねぇ。効率的に魔宝石を手に入れるために、倒す魔物を選ばなきゃいけねぇ。要するに金になる討伐をするってことだ」


 それはそうだろうと、悠真も納得して頷く。


「十層で一番効率がいいのがこの火モグラだ。リスクも低いし、比較的倒しやすい。固まって生息してるから見つけるのも容易だ。なによりドロップ率がやや高いからな。悠真、お前にはコイツを狩ってもらう」

「はい! 分かりました」

「そんな肩肘張らなくてもいいぞ。舞香に教えてもらいながらやればいい」


 舞香を見れば、任せなさいと言って笑っていた。


「俺と田中さんは、もっと下層に行って魔宝石を取ってくる。その間、二人はここで火モグラを狩っててくれ」

「はーい、任せて社長!」

「頑張ります!」


 悠真と舞香が元気に答えると、社長は田中と共に下層へと向かった。


「よーし、じゃあ始めようか」


 舞香はそう言うと、社長と同じように歩きながら辺りを見回す。いくつかのモグラ塚を見つけて悠真に指示さししめした。


「このモグラ塚の近くに火モグラはいると思うから、当たりをつけて地面を叩いて。驚いて飛び出してきた所をやっつけるの」

「あ、はい」

「ちょっと私もやってみるね。社長みたいにできるか分からないけど……」


 舞香は棍棒でバンッと地面を叩いた。火モグラが驚いて顔を出すと、棍棒の先を使って器用に跳ね上げる。

 空中に飛んでいった火モグラに狙いをつけ、舞香は棍棒を握りしめた。

 その瞬間、舞香の握った棍棒の柄がわずかに光を帯びる。――水魔法。

 青く細い光は棍棒全体へと流れていく。

 舞香が軽く振った棍棒が当たると、火モグラはパンッと弾け砂となり、サラサラと舞い散って消えてしまった。


「ね! 簡単でしょ」


 明るく微笑む舞香。あまりの鮮やかさに、悠真は呆気に取られてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る