第38話 本音の面接

「俺はこのD-マイナーの社長、神崎だ。こいつは娘の神崎舞香。事務とか諸々の仕事をやってもらってる」


 悠真が視線を移すと、舞香はにこやかな笑顔で手を振ってきた。


「もう一人社員がいるが、今は出かけてるところだ。それで、え~と……名前、なんだったっけ?」

「あ、三鷹です。三鷹悠真。今、履歴書を出します」


 悠真はリュックから履歴書を入れた封筒を取り出す。それを目の前にいる神崎に渡した。


「高校生か……最近は大学生や社会人が多いからな。‟マナ指数”が高いのか?」

「い、いえ……マナ指数はゼロなんですが」

「そうか」


 神崎は顎に指を当て、眉間に皺を寄せながら履歴書を見ている。ここでも‟マナ”が重要視されるのかと、悠真は不安になる。


「あ、あの、やっぱり‶マナ″がある程度無いと、働くのって難しいですかね?」


 神崎は片眉を上げ、悠真を見る。


「いいや、マナ指数なんて働きながら上げていけばいいだろう。うちは特にこだわらねーぜ」

「そ、そうですか」


 悠真がホッと息をつくと、神崎は「それよりも!」と大きな声を出して、履歴書をデスクに放り投げた。


「やる気が肝心だ! 三鷹だったな。お前はどーして探索者になりたい? 金か? それとも名誉や名声か!? 返答によって採用するかどうか決める!」


 神崎は眼光鋭く悠真を見据える。その迫力に、う、とたじろぐ悠真だったが、これ以上不採用通告を受ける訳にはいかない。

 面接対策として用意してきた『社会貢献のため』や『自己実現のため』など、それっぽいことを言ってみようか?

 いや、この人にはそんな上っ面な答えじゃダメな気がする。

 ここは本音で――


「じ、自分は金を稼ぎたくて探索者になりたいと思いました。同年代より多く稼いで、ゆくゆくは……」

「おう、なんだ?」


 悠真はずっと抱いていた願望を、思い切ってぶちまける。


FIREファイア(早期リタイア)して、悠々自適に暮らしたいです! 仕事とか嫌いなんで、とにかく稼いで辞めたいです!!」


 言いたいことは言い切った。どうだろうと顔を上げると、社長と舞香はポカンとした顔で見つめている。

 ――しまったあああああああ! 本音を出し過ぎた! これじゃあ仕事したくない奴だと思われる!!


「あ、あの、補足するとですね」

「おい、三鷹!」


 社長が真剣な表情で睨んできた。悠真はゴクリと唾を飲み「は、はい」と返事をする。

 どやされる――と思った瞬間。


「いいじゃねーか! 明確な目標があって。俺は気に入ったぜ!!」

「え?」

「いやいや、最近の若い奴らは多いんだよ。社会のためにどうたらこうたらとか、やたら意識高い系ってヤツがよ! お前もそうだったら即、叩きだしてやろうと思ってたが、そうかFIREファイアか……いい目標だ!」

「は、はい、ありがとうございます」


 どうやら気に入られたようだ。安堵の息を漏らすが、後ろに控えていた舞香さんは呆れた顔をしている。


「ちょっと社長、いいの? 早期退職が目標って、すぐ辞めちゃうってことだよ!」

「なんだバカ野郎! 目標があった方が目の前の仕事をがんばれるだろうが! 俺も仕事は嫌いなんだよ。さっさと辞めたいから必死で働いてんだ。一緒、一緒」


 社長のあまりの暴言に、舞香は呆れを通り越し、諦めの表情を浮かべる。


「まあ、とにかく合格だ。さっそく明日からでも働きに来い!」

「ええ!?」

「ちょっとダメだよ。社長!」


 困惑する悠真に変わって、舞香が間に入る。


「三鷹君は他の会社にも応募してるんだよ。うちはその中の一つ。他の会社の合否を見ないと、ここで働くかどうか決められないでしょ!」

「なんだ、そうなのか?」


 社長がしかめっ面で聞いてきた。


「あ、いや、まあ、その……他の企業にも一応、エントリーはしてます」

「んだよ、まどろっこしい! 決めちまえよ、ここに!」

「なに言ってんの! うちみたいな会社第一志望にする子なんている訳ないでしょ。からまないの!」


 舞香にたしなめられ、社長は「分かったよ」と言って不貞腐れるが、悠真に対して真剣な眼差しを向けてくる。


「まーとにかく、うちでは内定を出す。やる気のある奴は歓迎するからな。気が向いたらいつでも来い!」

「は、はい! ありがとうございます」


 悠真はお礼を言い、ウキウキした気持ちで会社を後にした。内定が一つあるのと無いのじゃ、全然気持ちが違う。


「とは言え、ここは一番条件が悪い会社だからな。滑り止めみたいなもんだ。他の企業からも、なんとか内定を取らないと」


 悠真は意気揚々と家に帰った。

 そして他の企業にも積極的に応募してゆく。より良い就職を目指すために。

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