第22話 熱さに強い?

 雨がパラパラと落ちてくる。

 朝、傘を差して、悠真はいつものように穴へとおもむく。

 雨の日のスライム討伐は最悪だが、一ついいこともある。不思議なことに、穴の中に雨は入ってこない。

 まるで見えないバリアーで守られているようだ。

 この不思議な現象が雨の日で唯一の救いだった。

 傘を穴の横に置き、その下にガスバーナーや冷却スプレーを並べ、穴へと下りる。悠真は懐中電灯のスイッチを入れて穴の奥を照らす。

 すると違和感があった。


「あっ!」


 金色のスライムを見つけた時以来の衝撃。

 目の前にいるのは真っ赤なスライム。いや、よく見ればメタルレッドだろうか。

 まるで金属スライムがグレて攻撃的になったような色だ。


「こいつらカラーバリエーションがあるのか!?」


 悠真がいぶかしんでいると、赤いスライムは突然動きだした。ピョンピョンと飛びながらジグザグに移動して襲いかかってくる。

 金属スライムも速かったが、赤いスライムはもっと速い。


「うわっ! 待て待て!!」


 悠真は慌てて穴から飛び出した。雨に打たれながら穴を見下ろすと、赤いスライムは「下りて来い!」と言わんばかりに体をうねらせていた。


「なんだコイツ!? メチャクチャ好戦的だぞ」


 意表を突かれて驚いた悠真だが、毎日倒している金属スライムに喧嘩を売られたようで腹が立ってきた。


「この野郎! やるってんなら、やってやる!!」


 悠真はフンッと全身に力を込める。手や顔に黒いアザが広がり、数秒でメタリックなボディが完成する。

 金属化―― 悠真が使える唯一の能力だ。

 冷却スプレーとガスバーナーを手に取り、再び穴へと飛び込む。赤いスライムはすぐに襲いかかってきた。

 足や膝、腹や腕に物凄いパワーで何回も体当たりしてくるが、キンッキンッキンッと金属音が鳴り響くだけで痛くも痒くもない。

 悠真は涼しい顔で赤いスライムを見ていた。


「ハハハ、全然痛くねーぜ! この体になったら物理攻撃は効かねーからな」


 冷却スプレーのノズルをスライムに向け噴射する。赤いスライムは警戒して逃げ回っていたが徐々に動きがノロくなり、一分ほどで動きを止めた。


「よしよし、後はガスバーナーで……」


 トリガーを引いて点火し、スライムを炙ってゆく。だが、すぐに異変に気づいた。


「あれ? なんかおかしいぞ」


 いつもなら凍った体が解凍された後、熱で赤く輝きだすが、今回は霜が溶けただけで発熱している様子がない。スライムはまた動きだした。

 赤いから分かりにくいのか? と思い、もう一度冷却スプレーを噴射する。

 すると数十秒で動きが鈍くなり、凍り始めた。「おかしいな」悠真は顔をしかめて呟く。

 ガスバーナーで炙った金属スライムを再び凍らせようとした場合、熱を持っているので簡単には凍らない。それなのにすぐ凍ったと言うことは……。


「熱せられてない! 炎が効かないってことか!?」


 色が違うのだから特殊な能力を持っていてもおかしくない。だとしても炎が効かないのは厄介だ。

 何回か冷却と過熱を繰り返すが、やはり炎は効いていない。

 悠真は少し考えてから一旦家に戻り、スマホで金属の壊し方を改めて検索する。

 すると金属をびさせる方法がいくつか上がってきた。


「錆びさせるか……なるほど……でも、できるかな?」


 半信半疑だったが、表面が錆びれば火が効くようになるかもしれない。悠真はやるだけやってみようと考えた。

 幸い今日は休日だし、両親は午前中から出かけると聞いている。

 悠真はさっそくマメゾウを散歩に連れ出し、その足で薬局に向かった。色々な物がある棚から目的の物を取り出す。

 悠真が帰ると、すでに両親は出かけていた。


「よし……これで心置きなく作業ができるな」


 穴の横にバケツを置き、薬局で買ってきた酸性の洗剤を入れる。

 かなりの臭いが辺りに漂う。悠真はゴム手袋とマスクをし、マメゾウを安全な場所まで避難させる。

「ふんっ!」と体に力を込め、‶金属化″してから穴に下りた。赤いスライムは烈火の如き速さで悠真に襲いかかる。

 体にぶつかると痛みは無いが、あまりの勢いで仰け反ってしまう。


「くそっ! 調子に乗りやがって」


 冷却スプレーを両手に持ち、ダブル噴射でスライムの動きを止める。カチコチになったのを確認してから、外に用意していたバケツを穴の中に置いた。


「本当に効くのかな?」


 若干疑いつつ、バケツの中に凍った赤スライムを入れて、コロコロと回す。

 しばらく洗剤に浸し、その後取り出して地面に放置する。解凍されてスライムが動き出せば、再び冷却スプレーで凍らせる。

 簡単に錆びるとは思えないが、金属スライムが間接攻撃に弱いのは間違いない。

 もしかすると普通の鉄より錆びやすいんじゃないか? 悠真はそんな期待を込め、六時間、計二十回、『洗剤』『コロコロ』『放置』を繰り返した。


「う~~~ん、錆びてんのか、コレ!? 元が赤いからよく分からないな」


 疑がっていたが、以前より色がくすんでいるようにも見える。

 試してみるか。とバーナーを手に取り、再び『金属化』してから凍ったスライムを炙ってみる。すると――


「あっ!」


 スライムの体が赤く輝いた。発熱してる証拠だ。動きだしたスライムはすぐに悠真から離れ、稲妻のような速度で攻撃してきた。

 向かってくる赤いスライムの猛攻に耐えながら、穴の外に用意した冷却スプレーを手に取る。

 スプレーを吹きまくり、冷却とガスバーナーによる加熱を何度も行う。

 長期戦を覚悟して繰り返すこと十六回。


「しんどいな……これでどうだ!」


 バーナーで炙るとピシッと、スライムの表面に亀裂が走った。

 ――が、まだ浅い。

 悠真がさらに三回繰り返すと、さすがに赤いスライムの表面はボロボロになる。


「そろそろいいだろう」


 悠真は金槌を持ち上げ、赤いスライムに振り落ろす。パリンッ――

 メタルレッドの体は粉々に砕け散った。

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