第36話 一枚のチラシ
悠真はパタリと本を閉じる。‶マナ″がまったく無い人間が、ダンジョン系の企業に就職しようと思えば、かなりの覚悟が必要だろう。
他の就活生が学歴や経験があることはよく分かった。アドバンテージがなにも無い自分が同じ土俵で戦うには、相当勉強するしかない。
悠真は残り二冊ある就活本に手を伸ばす。
「とにかく、対策を立てて面接に臨まないと……最悪、全部の企業に落ちるってことも有り得るからな」
その日は夜遅くまで、本を読みふけった。
◇◇◇
翌日から悠真の戦いが始まる。
エントリーシートが通り、面接まで進めた企業は残り四社。どこかに引っかかって入社しないと……。
【1社目】
「いや~一応、誰でも応募して下さいって広く募集してるけど……。まったく経験も資格も学歴も無いとなると……さすがにね~」
【2社目】
「高校生で応募してくる方は、たいてい‶マナ指数″をある程度持ってる方がほとんどなんですけど。マナ指数ゼロですか……。法律上、募集の段階でマナ指数の有無を問えないんですけど、現実的に無いとなると厳しいですね」
【3社目】
「探索者と言っても最近は学歴や資格が重要になってきててね。昔は違ったんだよ。今は規制が厳しくなったせいで企業負担が増してね、どの会社も即戦力を欲しがってるんだ。そういう訳で、ごめんね」
【4社目】
「ははは! 大学出てからまた来なさい」
全滅だった。悠真は生気が抜けたような顔で、公園のベンチに座っている。
「ああ………………どうしよう…………」
まさかこんなに箸にも棒にもかからないなんて、考え方が甘すぎた。
今から親に頭を下げて大学に通わせてもらおうか、そんな考えが頭をよぎるが待て待てと自分にブレーキをかける。
まだやり切った訳じゃない。応募してたのは東京都内で比較的給料が高い所だけ。もっと範囲を広げれば採用してくれる所はあるかもしれない。
悠真はふらふらと立ち上がり、その足でハローワークに向かった。
◇◇◇
「う~ん、探索者の募集ですか」
職業安定所の二階、若者向けのハローワークに来た悠真は、対応した就職支援員と向かい合っていた。
探索者希望と伝えると、職員は
「やっぱり厳しいですかね?」
「まあ、無くは無いんですがね。ここに求人を出す企業さんは中小・零細企業が多いですから、満足される条件のものがあるかどうか……」
「あの、贅沢は言いませんので面接に行けそうな企業を紹介してもらえませんか?」
こっちは後がない。とにかく手あたり次第応募しようと考えていた。
「そうですか……まだ、お若いですから、他にもいい条件の企業はいくらでもありますよ。職種の範囲を広げては――」
「いえ、探索者の求人でお願いします!」
「はぁ……分かりました」
職員の人はパソコンを操作して、条件の合う求人を検索してくれる。リスクの高い職業を勧めるのが嫌なのか、あまり乗り気ではないようだ。
何枚かの求人票を出してもらう。書かれている就業場所や雇用形態、雇用条件などに一通り目を通し「ありがとうございました」と、お礼を言って席を立つ。
帰ろうとした時、部屋の隅にあるラックにチラシが並べてあることに気づいた。
「あの、アレってなんですか?」
「え? ああ、あれは企業の方が持ってこられた求人広告ですよ。企業がアピールのために置いてってるんです。中には東京以外のものもありますよ」
「なるほど……もらっていっていいですか?」
「ええ、好きなだけどうぞ」
悠真は数枚のチラシを手に取り、眺めながら部屋を出た。
家に帰って、机に向かう。ハローワークでもらった求人票やチラシを並べて、食い入るように見つめていた。
「求人票の労働条件は悪くないな。職員の人が選んでくれただけある。チラシの求人は少し条件が悪いのか」
持ってきたチラシは五枚。どれも探索者の求人で、会社をアピールするイラストが描かれていた。その内の一枚を手に取る。
落書のようなキャラクターが『一緒に働こうよ!』と勧誘していた。
悪目立ちしていたため悠真は興味を持ち、会社の概要を確認する。
「株式会社、D-マイナーか……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます