第372話 お前のせい!

 悠真は明人たちが乗ってきた軍の走行車両に乗り、シドニーの自治体を目指した。

 潜水艦の乗組員が保護されている場所だ。艦長やアリーシアも無事だと聞いていたので、悠真は久々に会えることを楽しみにしていた。


「みんなに会えたら一緒に帰るんだよな。でも、潜水艦がないのにどうやってアメリカまで行くんだ?」


 助手席に座る悠真の疑問に、ハンドルを握るルイが答える。


「向こうにはオーストラリア軍の関係者がいたからね。ブレイス艦長が潜水艦か航空機を譲ってもらえないか交渉してるはずだよ。うまくいってれば、もう話はついてるんじゃないかな?」

「そうなんだ。でも航空機を調達できても、空は"竜"だらけだろ? 安全に帰るのは無理じゃないか?」


 不安げに尋ねる悠真に対し、後部座席にいた明人は鼻を鳴らす。


「なに弱気なこと言うとんねん! ワイらは予定よりだいぶ遅れとるんや。さっさと帰るためには多少無理もせんと。最悪、竜どもを皆殺しにして突っ切るしかないやろ」

「まあ、そうかもしれないけど……」


 かなり過激な発言だが、確かにそれぐらいしないと早くアメリカには帰れないかもしれない。

 悠真は前を向き、道路の先を見ながら今後のことに思いをせた。


 ◇◇◇


 シドニーの連邦首相府に到着した悠真は、さっそくこの地域を治める政治家や軍の関係者と会うことになる。

 オーストラリア政府は崩壊したものの、国の指導部がいなくなった訳ではない。

 彼らはテロリストとなった探索者シーカーたちに対抗するため、オーストラリア全土から人々を集めているらしい。

 悠真たちにも協力の打診があったが、当然、そんな時間はない。

 丁重にお断りし、潜水艦の乗組員に会わせてほしいと頼み込む。

 こうして悠真はシドニー内のホテルで、ブレイス艦長やアリーシアと再会することになった。


「ああ、三鷹さん! 良かった。本当に無事で……」

「ええ、僕はピンピンしてますよ。アリーシアさんも怪我がなくて良かった」


 ホテルのロビーにいたアリーシアとお互いの無事を喜び合った。アリーシアの目に涙が滲んでいる。

 心配してくれる人がいるのは嬉しいものだ。ブレイス艦長とも挨拶をし、ガッシリと握手を交わす。

 他の乗組員も多くが無事で、再会を喜び合った。


「アメリカに帰還するための準備は整っています。すぐに出発しますか?」


 ブレイス艦長の言葉に、悠真は「はい!」と力強く答えた。


 ◇◇◇


 シドニー国際空港――

 悠真たちはアリーシアや潜水艦の乗組員と供に、空港の滑走路を歩いていた。

 ターミナルビルに目をやれば、建物の一部が破壊されているのが分かる。やはり魔物に襲われたのだろう。 

 さらに歩いて行くと、滑走路の先に二機の航空機が停まっているのが見えた。


「あれが軍に用意してもらった輸送機【Cー130J】です。少し古い機体ですが、二機あれば乗組員全員を運ぶことが可能です」


 隣を歩いていたブレイス艦長が説明してくれる。


「そうなんですか……操縦は誰がするんですか?」

「我々では操縦できませんので、オーストラリア空軍のパイロットが同行してくれます」

「よく同意してくれましたね。俺たちと一緒に来たら戻ってこれないでしょう」

「ええ、ですから交渉は難航しました。最終的にはアメリカとの繋がりを重視してくれたようです。ある程度状況が落ち着けば、アメリカの探索者シーカーがオーストラリアに来ることができます。そうなれば、ここにいるテロリストたちと戦うこともできますからね」

「なるほど」


 悠真は納得して頷く。百人近くの乗組員はすぐに搭乗を始め、荷物なども機体に積み込まれた。

 その様子を、悠真と明人は滑走路の上で眺める。


「本当に航空機で良かったのか? 空には竜がわんさかいるのに……」


 悠真が尋ねると、明人は腕を組んだまま眉間にしわを寄せる。


「しゃーないやろ。この辺りの海域には『青のダンジョン』があることが分かっとるんや。潜水艦だとまた襲われるかもしれへん。そうなったら次は全員死んでもおかしないで」

「まあ、確かに。次も俺が助けられるとは限らないしな。潜水艦は危険過ぎるか……でも航空機が危ないことには変わりないだろ?」

「だからワイら二人が外におんのやろ! 今更やめるなんて言わんやろな!」

「うっ……それは言わないけど」


 オーストラリアを脱出するため、ブレイス艦長たちが出した結論は『航空機を護衛しながら空域を出る』というものだ。

 つまり、二機の航空機がオーストラリアの空域を抜けるまで、悠真と明人が空中で護衛するということ。

 確かに、一番現実的な案かもしれない。

 悠真もそう考え、今回の作戦に協力することにした。


 ――俺と明人がいれば大丈夫だろう。


 航空機のエンジンがかかり、左右四つのプロペラが回り始める。ゆっくりと滑走路を進み、徐々に離陸していく。


「ほな行くで」

「ああ」


 悠真は『金属化』を発動し、黒い怪物の姿に変わった。自分の手の甲に並んだ計十個の宝玉に目を移す。


「なんや、また羽を出して飛ぶ気なんか?」

「いや、せっかくだから【黒竜】になってみる。あれは見た目が強そうだからな」

「でも、あの強力な【ブレス】は吐けんのやろ? せやったら強そうなんは、見た目だけやで」

「お前のせいだけどな!!」


 悠真は語気を強めて明人を睨む。明人が黒竜を倒してしまったため、魔鉱石を回収することができなかった。

 それに対して腹を立てていた悠真だが、明人は「さあ、行こうや」と完全無視してゲイ・ボルグの上に飛び乗る。

 

「調子いいな……」


 悠真は上昇する明人を見送りながら、右手にある"宝玉"に意識を集中する。ぶありと黒いマナが噴き出し、"金属鎧"から巨大な体躯へと変貌していった。

 黒く大きな翼、長くゴツゴツした尻尾。禍々まがまがしい頭を上げ、空を睨む。

 黒竜となった悠真は、大地を蹴って羽ばたいた。巨体が持ち上がり、強い風を巻き起こして飛翔する。

 この魔物なら竜種であっても近づかないかもしれない。

 悠真はそんな期待を持ちつつ、先を飛ぶ航空機と明人を追いかけた。

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