第165話 オファニムの猛攻

「く、くそ! 下がれ、下がれ!!」


 尻もちをついていたドイツのマッテオが立ち上がり、部下たちに撤退を指示する。

 彼らが炎に近づくと、火の格子はゆらりと揺れ、人が通れる出口となる。マッテオたちは慌てて脱出した。

 黒鎧も開いた炎に向かって駆け出す。だが、あっと言う間に出口は閉じ、炎は蛇のような形となって襲いかかる。

 魔物は黒い剣で打ち払いつつ後ろに下がった。

 外で見ていた‶オファニム″のシャーロットは、怪訝な顔で黒鎧を見る。


「見た、マイケル?」

「ああ、恐ろしい強さだ。だが、それ以上に……」

「ええ、圧倒的な力の差があるのに、?」


 マイケルも同意して首肯する。


「武器だけを破壊するほうが難しいだろ!? どうなってんだ、一体……?」


 二人は困惑する。通常の魔物と明らかに違う。なにより自分たちと戦った時も、殺そうと思えばできたはず、それなのに。

 シャーロットがアゴに指を当て考え込んでいると、大きな声が聞こえてきた。


「この‶炎の檻″は長くもたない! 檻が消える前に黒鎧を倒してくれ!! これはアルベルトからの言葉だ。繰り返す……」


 叫んでいたのは‶プロメテウス″のメンバーだ。いくらアルベルトとはいえ、これほど巨大な魔法を維持するのは難しいのだろう。


「考えてる場合じゃないわ。行くわよ、マイケル!」

「おうよ!」


 今度はイギリスの探索者集クラン団が鳥籠の中に入る。シャーロットとマイケルは、再び黒鎧と向かい合った。

 ――どんなに変わった行動を取ったとしても、奴が魔物であることは変わりない。だったら全力で倒すのみ!

 シャーロットは決意を新たに、両手に持った柳葉刀りゅうようとうを構える。


 ◇◇◇


 ルイは体が熱くなるのを感じていた。目の前に倒すべき敵、黒鎧がいる。

 すぐにでも中に入りたいが、イギリスの探索者集団クランの戦いが終わるまで待つよう、天王寺に止められていた。

 確かに連携の取れない人間が中に入れば、かえって足を引っ張るかもしれない。

 そう思い、ルイはグッと堪える。

 腰に帯びた‶灼熱刀″から、魔力が溢れ出すのを感じる。

 ――お前も、黒鎧と戦いたいのか?  

 ルイは刀を押さえつつ、鳥籠の中を見据えた。そこには黒鎧に歩み寄る、イギリスの探索者集団クランのリーダー、シャーロットの姿があった。


 ◇◇◇


 金髪の女性が駆け出し、突っ込んでくる。悠真は両手の甲から剣を出して迎撃態勢を取った。

 ――また、この人か……かなり強かったから気をつけないと。

 軍服の女性が振るう刀を両手の剣で弾き、タイミングを計る。

 この人を傷つける訳にはいかない。そう思った悠真が、稲妻を纏った刀を破壊しようとした剣を振り上げた瞬間、刀の軌道が変わった。


「え!?」


 炎と雷の斬撃が次々に叩き込まれ、悠真は防戦一方となる。

 ――俺の考えが読まれてるのか!?


「はあっ!!」


 女性の持つ刀の一本が激しく瞬く。これは――


「魔宝石‶解放″! ――竜の上顎―ドラゴン・パラット―!!」


 爆炎を纏った一撃は、悠真の腹に直撃した。あまりの衝撃で後ろに吹っ飛ばされ、炎の格子に触れてしまう。

 背中を焼く炎は体を押し返し、容赦なく爆発した。


「うあああっ!!」


 悠真の体は前方に弾かれ、そのまま膝をつきそうになる。なんとか堪えるが、今度は黒人の男と、二人の探索者シーカーが同時に技を放つ。

 ガードするが弾かれ、またしても衝撃で後ろに飛ばされてしまう。

 踏み止まろうとしても止まらず、わずかに炎の格子に触れてしまった。背中で起こる爆発。熱が体の中に浸透し、内臓まで焼かれるような痛み。

 悠真は苦痛に耐え、前を見る。

 そこには魔宝石を激しく輝かせた、探索者シーカーたちが立っていた。


 ◇◇◇


「効いてる……効いてるわ! 全員、黒鎧をアルベルトの炎に叩きつけて!!」


 ‶オファニム″の探索者シーカーたちが動き出す。数人が協力して黒鎧に攻撃を仕掛け、同時に魔宝石を‶解放″した。

 魔物は後ろに飛ばされ、炎に触れて爆発する。プスプスと煙を上げ、フラつきながら膝をつく。


「間を開けずに攻撃して! 武器が使えなくなったら外に出なさい!」


 シャーロットの指示通り、オファニムのメンバーは‶解放″を使って黒鎧を炎に押し込み、ダメージを与えていった。

 攻撃が終わった者はすぐに下がり、まだ魔宝石の解放をしていない者と交代した。

 絶え間ない攻撃を受け、黒鎧は防御に徹することしかできない。

 ――いける、これなら!

 シャーロットは手応えを感じた。

 探索者シーカーたちの猛攻で、黒鎧は何度もアルベルトの炎に叩きつけられ、爆発に巻き込まれていた。

 それでも黒鎧はなんとか耐え、倒れることを拒否する。

 ‶オファニム″のメンバーが全員‶解放″を使い切り、鳥籠の中にはシャーロットと黒鎧だけが残る。

 自分がとどめを刺さなければ。

 シャーロットは左手に持った柳葉刀りゅうようとうに魔力を込めた。全身に雷の魔力を流し、体の反応速度を上げていく。

 地面を蹴って黒鎧に向かって駆け出した。


「魔宝石‶解放″!!」


 稲妻を放つ刀がさらに輝きを増す。シャーロットが振るう一撃は黒鎧のガードを弾いた。

 がら空きになった腹部へ、全力の一撃が炸裂する。


「――竜の咆哮―ドラゴン・ロアー―!!」


 雷撃に吹っ飛ばされた黒鎧は、炎の格子に激突する。今までで一番大きな爆発が起きた。

 煙を上げながら、魔物はゆっくりと倒れてゆく。


「やった……」


 シャーロットが喜ぶが、黒鎧はガンッと足をつき、倒れることを拒んだ。

 その体には青い筋が無数に走り、炎を跳ね返しているように見える。黒鎧はゆっくりと顔をげた。

 その目は妖しく輝き、全身から相変わらず莫大な‶マナ″を放っている。


「くっ」


 三度の‶解放″を使ったシャーロットの体は限界に達していた。

 黒鎧を睨みつつ、ゆっくりと下がる。シャーロットが鳥籠から出ると同時に、二人の探索者シーカーが中に入ってきた。

 シャーロットが一瞥いちべつする。日本の探索者シーカーのようだ。

 一人は大きな槍を持つ青年。もう一人は日本刀を腰に携えた青年だ。

 シャーロットは戸惑った表情を見せる。どちらの青年も、異様な‶魔力″を放っていたからだ。

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