第65話 金属コーティング

「ああああ……本当に魔鉱石がドロップした……」


 アイシャは震える手で金属の玉を拾い上げる。


「間違いない。魔鉱石の『鉄』だ」


 大切そうに魔鉱石を眺め、アイシャは笑みを浮かべた。


「フフフフ、おもしろくなってきた。さあ、どんどん魔物を殺して、殺して、殺して殺しまくろう!」


 その狂気に満ちた笑顔に、悠真と社長はドン引きしてしまう。

 大丈夫だろうかと怖くなってきたが、調査を途中でやめる訳にはいかない。仕方なく悠真たちは、その後も魔物を狩り続けた。

 ダンゴ虫は急所に剣が刺されば一発で死に、急所を外しても二度、三度と刺せば砂になって消えていく。

 ミミズは輪切りにすることが可能で、切ってしばらく動いているものの、踏み潰してしまえば動かなくなり消えていった。

 一番厄介なのはアルマジロ。

 刃がなかなか通らない。何度か短剣の形を変えて挑戦するも、やはりアルマジロの甲殻は貫けなかった。

 短剣の実物が無いのでイメージがうまくいかず、まだまだ‶なまくら″の領域だ。


「悠真くん、ピッケルに金属をコーティングすることはできるかな?」

「え? コーティングですか?」


 考えてもみなかった提案に、悠真は眉を寄せる。確かに『液体金属化』は応用力が高い。物をコーティングするくらいならできそうな気もするが。


「やってみます」


 地面に置いていたピッケルを手に取り、表面に液体を流すイメージを頭に浮かべる。すると手からメタルグレーの液体がピッケルの表面を這い上がっていく。

 ものの数秒で全体が覆われた。


「できました!」

「うん……これでこのピッケルは魔物より硬い武器に変わった。ヘッドの部分をより大きく、ピックの部分をより鋭角にできるかい?」

「や、やってみます」


 意識を集中すると、ピッケルのヘッドの部分に液体が集まりだし形を作ってゆく。

 二回りほど大きいヘッドとなり、尖った部分(ピック)はツルハシのように鋭角な形状へと変わる。

 元々ピッケルの実物があるため、イメージはしやすい。


「よし、それでアルマジロを倒してみてくれ」

「はい!」


 悠真はピッケルを振り上げ、尖ったピックの部分をアルマジロに向ける。そのまま力いっぱい振り下ろすと、あれほど硬かった甲殻をやすやすと貫いた。

 断末魔の悲鳴を上げたアルマジロ。間を置かずに絶命し、砂となって消えていく。


「やった!」

「これで八階層の魔物は全部倒せたな、悠真。あとは狩りまくるだけだ!」

「はい、社長」


 喜んでくれた社長と一緒に、悠真は魔物を狩っていく。金属化は時間制限があるため、五分ごとに解除し、なるべく温存するように努めた。

 悠真と社長は逃げていくダンゴ虫やミミズを捕まえ、一ヶ所に集める。

 ある程度数がそろうと、悠真は『金属化』してピッケルで叩き潰した。

 重さを増したピッケルは、小さな魔物を容赦なく粉砕していく。今までで一番効率がいい。

 硬いアルマジロもピッケルの尖ったピックの部分で突き刺せるため、流れ作業のように次々と魔物を砂に変えていく。

 そして――


「おおおおおおお、すばらしいよ! こんなに魔鉱石が手に入るなんて!! 本当にドロップ率が100%なんだね。いや最高だ!」


 アイシャは大喜びして、大量の魔鉱石をケースに取り分けていた。

 ダンゴ虫の『鉄』、ミミズの『銅』、アルマジロの『クロム』。全部合わせれば、四十近くはあるだろうか。

 ――あんな風に喜ぶアイシャさんは見たことないな。

 悠真はピッケルを置き、あぐらをかいて地べたに座る。顔には疲れの色が浮かび、額は汗だくだ。


「社長、さすがに疲れました」

「まあ、あれだけ倒せばさすがにな」


 社長はバッグからエナジードリンクを取り出し「ほれ」と言って渡してきた。

 悠真は「ありがとうございます」とお礼を言い、プルタブを引いて蓋を開けゴクゴクと胃に流し込む。体中に染み渡った。


「は~、もう体に力が入りませんよ。明日は全身筋肉痛だと思います」

「なんだ情けねえな。俺の若い頃は一日中、魔物を倒し続けてたぞ!」

「時代が違いますよ、社長。今はワークライフバランスを考えないと」

「なにがワークライフバランスだ! しょーもねー横文字使いやがって!」


 息巻く社長だが、さすがに疲れが出たのか、ドカリと悠真の隣に腰を下ろす。


「まあ、今日はこれで終わりだが、まだ一ヶ月もあるからな。明日から改めて気合入れていこうぜ!」

「そうですね。まだまだ先は長いですし、がんばります!」


 悠真と社長がそんな話をしていると、アイシャが不思議そうな顔で見つめてきた。


「なにを言ってるんだ、君たち。これから十階層に下りて、別の魔物を狩るんだよ」

「「ええ!?」」


 当たり前のように言うアイシャに、ヘトヘトの二人は「本気なのか」と青ざめた。

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