第64話 変化とイメージ
その後も何度かダンゴ虫を倒そうとするが、なかなかうまくいかない。
ミミズのような魔物にも挑戦するも、こちらは弾力があってピッケルを弾き返されてしまう。
アルマジロの魔物に至ってはもっと硬かった。
「ハァ……ハァ……社長、しんどいです」
「なんだ、情けない。若いんだから、しっかりしろ!」
社長はやれやれと言いながら、ダンゴ虫を一匹捕まえてくる。
「おい、悠真。俺がコイツにダメージを与えておくから、お前が止めを刺せ」
「あ、はい! 分かりました。お願いします」
魔物を最後に倒した人間が多くの‶マナ″を獲得することが分かっているため、悠真はありがたくその提案に乗っかることにした。
社長は足元にダンゴ虫を放り投げ、六角棍の柄の先で軽く潰す。
ブチッ――
「あ」
ダンゴ虫はサラサラと砂になり消えていった。
「おおい!! お前は自分の馬鹿力も理解できんのか!?」
アイシャに首を絞められた社長は「すいません……」と、ただ謝るしかなかった。
◇◇◇
「しかし、これでは
アイシャは社長と悠真の体たらくに不満を漏らす。
「予想以上に悠真の基礎体力がねーんだよ。これだから最近の若い奴は……」
まったく。と頭を振る社長を見て、悠真は社長の力が強すぎるだけじゃないのか? と不満を持つ。
「俺の力じゃ簡単には倒せませんよ」
アイシャは顎に手を当て、う~~~んと悩んでいたが、なにかを思いついたように口を開く。
「あ! そうだ。悠真くん『金属化』してくれないか」
「金属化ですか?」
突然の提案に、悠真は困惑する。
「そう、金属同士のぶつかり合いなら、より硬度が低い方が傷つくはずだ。ここには私たち以外はいないし、秘密がバレる心配もない。試してみよう」
「なるほど……分かりました」
悠真はフンッと力を入れ、体を鋼鉄へと変えてゆく。全身が黒く染まり、ガンガンと拳を叩き合わせても、痛くも痒くもない。
「何回見ても、すげー能力だな」
社長が感心するように言う。悠真も気を良くして、さっそくダンゴ虫を倒そうと動き回っている虫を捕まえてくる。
「ところでアイシャさん。このダンゴ虫って正式な名前とかあるんですか?」
「いや、他のダンジョンの魔物なら正式名称もあるが、黒のダンジョンは名前の無い魔物が多いよ。誰もつけないからね。まあ、私はダンゴ虫、ミミズ、アルマジロと呼んでいるが」
そのままじゃねーか! と悠真は呆れてしまう。ダンジョンに名前つけてるぐらいなんだから、魔物に名前つけてもいいような気もするが……。
そんな事を考えながら、足元にいるダンゴ虫に視線を落とす。
拳を握り込み、全力で振り下ろした。
金属と金属の衝突音が薄暗い洞窟に鳴り響く。「どうだ!?」と期待して見るが、ダンゴ虫はカサカサと逃げ出していた。
「ああ~ダメか……」
逃げ回るダンゴ虫を捕まえて観察してみる。確かに甲殻は傷ついているが、倒すまでには至っていない。
「う~ん、やっぱり力が足りないのか」
不甲斐ない結果に、アイシャもがっかりする。
「これじゃあ魔鉱石が100%ドロップするかなんて、とうてい確認できないよ」
なんだか申し訳ないと思いながら、悠真は傷ついたダンゴ虫を見る。その時、ピンと閃いた。
「そうだ。これなら――」
金属の手をうねうねと変化させていく。何度も見た『短剣』をイメージし、手の形を短剣に変えた。
ダンゴ虫を地面に置き、上から短剣を突き立てる。
ザクッ――
悠真の作り出した短剣は、ダンゴ虫の甲殻を易々と貫いた。しばらく足をバタつかせていた虫は力尽き、砂となって消えていく。
「おお、すごいよ! 悠真くん」
「やればできるじゃねーか、悠真!」
初めてダンゴ虫を倒せたことに、二人は驚いているようだった。
アイシャは変化した悠真の右手を握りしめ、ジロジロと観察する。
「なるほど……硬度がより硬いなら、打撃より斬撃の方が有効か……確かに理に適っているな」
「は、はあ……どうも」
「だが刃先が歪んでいる。イメージで作り出してるんだろ?」
「ええ、そうです」
「もっとイメージが正確にできれば、より鋭利な刃物が作り出せるかもしれない」
そう言いながらアイシャは口の端をニヤリと歪める。悠真の体に相当の興味があるようだ。
その時、悠真とアイシャの足元に何かが転がっていることに社長が気づいた。
「おい、それ!」
悠真とアイシャ、二人の視線が足元に移る。わずかに残った砂の合間。
そこにあったのは一センチほどの、小さな金属の玉だった。
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