第428話 天使の選択

 マナがなくなれば巨人化は維持できなくなる。同じように【白の王】もマナがなくなれば、再生できないはずだ。

 巨人化が解除される前に致命的なダメージを与えないと。

 悠真は床を蹴って前に出る。

 魔王も前に出た。黄金の剣を振り上げ、突っ込んでくる。

 この剣を使うだけでも、莫大な魔力を消費するはずだ。

 振り下ろされた剣が体に食い込むが、悠真は構わず拳を突き出す。

 痛烈な一撃が顔面に入り、魔王の体がねじれた。

 

 ――このまま畳みかける!


 悠真の全身から鋭いトゲが無数に伸びる。

 魔王は全身を貫かれ、苦悶の表情を浮かべた。悠真は"火の魔力"を流し込む。トゲが真っ赤に発熱し、魔王の体を焼いていく。


『キイヤァァァァァァァァァァァァァァァァ!!』


 初めて聞く魔王の声。耳をつんざくような悲鳴を無視し、悠真はさらに火の魔力を流し込んだ。

 極限まで熱を帯びたトゲによって魔王の体は爆散し、周囲に肉片が飛散する。

 それでも肉片は光となり、集まって再生していく。しかし、明らかに速度が落ちている。魔王の形に戻ったが、一度手放したせいで、『黄金の剣』が消えていた。

 もう一度作り出すだけの魔力はないだろう。


『こっからが本番だ!』


 悠真は身を低くして突っ込む。魔王は通常の光の剣を二本生み出すが、そんなものは怖くもなんともない。

 悠真は迷わず前に出る。両拳を構え、ボクシングスタイルで間合いを詰める。

 魔王は二つの剣を振るうが、巨人の鎧に弾かれる。効かないと悟ると、今度は口を開け、光の閃光を放ってきた。

 一瞬、巨人が光に飲まれるも、何事もなかったかのように光を突き抜けてくる。


『おおおおおおおおおおおおお!!』


 左のフックが相手の顔面をとらえ、右のブローが腹に食い込む。魔王が思わず下がったところに、左のストレートを叩き込んだ。

 魔王はたまらず後ろに吹っ飛び、白い壁に背中を打つ。悠真はさらに前に出た。

 足を踏み込み、右の拳を引く。火の魔力を流し込んだ右の正拳突き。

 よろめく魔王の顔目がけて、全力で打ち込んだ。

 白い壁は爆散し、外壁が広範囲に渡って崩れ落ちる。

 火の粉と煙が舞う中、上半身を失った魔王が瓦礫の上に転がった。周囲から光が集まり、再生していくが、明らかに再生速度が落ちている。


『今のうちにぶちのめす!!』


 悠真は再生する前に決着をつけようと追撃に出た。魔王の腹を蹴り上げ、転がっていった胴体を踏み潰す。

 魔王の体は痙攣し、なかなか再生しない。

 悠真は拳に"火の魔力"を宿し、相手に向かって振り落とす。魔王の体は床ごと爆発し、木っ端微塵に吹き飛んだ。


『どうだ!』


 悠真は足を一歩引き、大穴が空いた床を見つめる。白の王の残骸はない。

 終わったかと思ったその時――上空に光の粒子が集まっていた。

 徐々に光りは形を成し、天使の姿へと変わっていく。巨大な天使だ。


『まだ"マナ"が残ってるのか……』


 それも当然か、と悠真は思う。もし、空間のマナが完全になくなっていれば、巨人化も解けているはずだ。

 もっと消費しなければ。この空間のマナを!

 天使は滑空し、向かってきた。両手には光の剣をたずさえ、もうスピードで突っ込んでくる。 

 悠真も両手を長剣に変え、迎撃態勢に入る。白と黒の巨大な怪物は、何度も何度もぶつかり合う。光の剣は巨人の体に弾かれるが、巨人の剣は天使を斬り裂く。

 移動速度や再生速度は天使のほうが速かったものの、パワーも頑強さも、圧倒的に巨人のほうが強かった。

 悠真は両手を拳に戻し、ボクシングスタイルで突っ込む。殴れば天使の顔は潰れ、ボディに打ち込めば半身をえぐり取る。

 天使の動きが止まった瞬間、悠真は怒濤のラッシュを叩き込んだ。

 顔を胸を腕を腹を――雷の魔力を宿した拳で殴り続ける。天使は防戦一方、なにもできないまま猛攻を受け、白い体はどんどん削られていく。


『あと少し!!』


 悠真は血塗られたブラッディー・鉱石オアをかけ直し、さらに激しい連打を打ち込む。

 天使の頭が吹き飛び、腕が千切れ、腹に風穴が空く。炎と雷の魔力を拳に流し、左右のフックで天使を打ちのめした。

 ボロボロになった天使は粒子化していく。完全に光になってしまうと攻撃できない。悠真は粒子が集まるのを待った。

 頭上で光が形を成し、もう一度巨大な天使の形となる。


『さあ、来やがれ!』


 悠真は両拳を構えたが、天使は向かってこない。どうしたんだ? と思った瞬間、天使は上空に顔を向けた。


『キイヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!』


 天使が絶叫すると、空に光の魔法陣が現れる。その魔方陣に向かって天使は口から光を放った。

 光が魔法陣の中心を貫くと、光はさらに巨大になって上空に向かう。


『なんだ!?』


 悠真はなにが起きたのか分からず、一歩、二歩と後ろに下がった。

 莫大なエネルギーは階層の天井に当たり、そのまま突き破ってしまう。大量の粉塵と砕けた岩の破片が落ちてくる。


 ――ダンジョンを破壊した!? でも、どうして?


 困惑した悠真を尻目に、天使が一気に飛翔した。天井に空いた穴に向かっている。


『あいつ、逃げる気か!?』


 勝てないと思って戦いを避ける。そんなことが有り得るのか。呆気に取られた悠真だが、頭を振って現実に向き合う。


 ――すぐに追いかけないと!


 悠真は大きな翼を生み出し、わずかに屈んでから地面を蹴る。

 爆発したように飛び上がった巨人は、凄まじいスピードで白の王を追いかけた。

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