第429話 断罪の光

 ルイは明人を抱えながら、階層を上へ上へと飛翔していく。

 

「大丈夫かな、悠真……」


 不安気につぶやくルイを見て、明人は眉間にしわを寄せた。


「アホ! 大丈夫に気まっとるやろ。あいつが負ける訳あらへん。必ず【白の王】をぶちのめして帰ってくる。絶対に!」


 息巻く明人に、ルイは「そうだね」と同意した。再び上を向き、体に渦巻く炎をたぎらせる。

 飛行速度がさらに上がり、ダンジョンの出口へと向かう。

 その時、階層全体が揺れ出した。


「なんだ? この揺れ!?」

「ルイ! あれや、あれを見い!」


 明人が指差した先、階層の地面から光が漏れている。激しい爆発が起き、巨大な光の柱が階層を貫く。

 光は天井を破壊してしまう。


「これは……白の王の攻撃か!?」


 光が収まると、地面と天井に大きな穴が空いていた。

 呆気に取られるルイと明人の視線の先に、翼を広げた白い人影が上昇していく。間違いなく、白の王だ。

 ルイの顔から血の気が引く。

 

「どうして白の王が……まさか! 悠真が負けたのか!?」


 明人も蒼白な顔になる。そんな二人を余所よそに、今度は黒い影が上昇していく。ドラゴンのような羽を広げた黒い巨人。


「悠真や! 悠真が白の王を追いかけとる!!」


 明人が叫ぶ通り、悠真は白の王を追いかけているように見える。

 ルイは天井の穴に入った悠真を見送る。


「この戦い……どうなるんだ?」


 ◇◇◇


 悠真は高速で上空を駆ける天使を追いかけた。風の魔力を使って速度を上げるが、天使には追いつけない。


『くそっ! 離されていく』


 天使はグングンと速度を上げていく。

 あの"白の閃光"はダンジョンの全ての階層を貫いたんだ。だとしたら、白の王は外の世界に出る気だ!

 こいつを外に出したら大変なことになる。そう思った悠真は必死に追いすがった。


 ◇◇◇


 白の王はダンジョンの全階層を突っ切り、遂に地上へと出た。

 ダンジョン内で尽きかけていた"空間のマナ"が溢れている。白の王は周囲のマナを取り込み、莫大な魔力を得た。

 晴れ渡った空に舞い上がり、周囲を見渡す。多くの生命体を感じた白の王は、右手を高々と上空にかかげる。

 生み出されたのは、光り輝く無数の魔法陣。空を覆い尽くし、さらに広がっていく。

 数百キロに及ぶ巨大な魔法陣が出現したことにより、多くの人々が目にした。


「おい、なんだ……あれ?」

「空が光ってるぞ!?」

「魔物の影響なんじゃ……」


 人々が戦々恐々とする中、国際ダンジョン研究機構(IDR)の本部にいたイーサンも空の異変に気づいた。


「これは……」


 研究室の窓から空を見るイーサン。その横でクラークが生唾を飲む。


「この光は、四大天使が使った白の魔法じゃないですか!? しかも、あの時より遙かに広範囲。こんなものが撃たれたら……」

「ああ、そうだね」


 いつも沈着冷静なイーサンだったが、今回ばかりは違っていた。手にじっとりと掻いた汗を見て、フフと小さく笑う。


「被害は数億……いや、十億以上の人々が一瞬で消滅するかもしれない。こんな魔法が使える魔物は、【白の王】しかいないだろう」


 イーサンを空を見上げる。


 ――三鷹悠真、頼れるのは君だけだ。この状況を、くつがえしてくれ。


 光の魔法陣はさらに広がり、上空を埋め尽くしていった。


 ◇◇◇


 悠真はダンジョンに空いた縦穴を抜け、地上へ戻ってきた。天使は真上にいたが、その体から放たれる魔力に悠真は愕然とする。


 ――完全に魔力が戻ってる! せっかくギリギリまで消費させたのに!!


 悠真はギリッと歯ぎしりした。もう一度戦っても、ヤツを倒す前に"金属化"の時間が切れる。

 なにより、ヤツが使おうとしているのは広範囲の殲滅魔法。

 あんなものを撃ったら数え切れないほどの人々が死んでしまう。

 時間がない! そう考えた悠真は覚悟を決めた。

 両手を上空に向け、左右の腕を融合させる。背中から何本もの長い突起を伸ばし、その突起からバチバチとプラズマを放出させた。

 白の王を倒すには、。だが、ヤツに魔法が効かない。

 考えられる方法は一つ。金属スライムの硬度を持つ『弾丸』を作りだし、その弾丸に全ての魔力を注ぎ込んで発射する。

 うまくいけばヤツを消し去ることもできるはずだ!

 悠真の両腕が変化し、砲塔の形となる。

 胸の前で液体金属が渦巻き、円筒形の砲弾が生まれた。悠真は砲弾に、『火』と『水』と『風』と『雷』の魔力を注ぎ込む。

 砲塔はさらに長く伸び、四方から特異な金属が広がっていく。

 メタルレッドとメタルグレー、メタルブルーとメタルイエローの美しい金属が砲塔を中心に、花弁のように展開した。

 莫大な魔力が一点に集まったことで、上空にいた白の王も異変に気づく。

 だが、もう遅いと言わんばかりにかかげた手に力を込めた。

 空を埋め尽くす魔方陣は輝きを増し、世界の終焉を告げるかの如く大気が震える。

 無慈悲な天使はその長い手を振るった。

 光がゆっくりと落ちてくる。数十億本もの光の剣。如何なるものにも止められない、神の断罪。

 間に合わないと悠真が思った瞬間――信じられないことが起きる。

 光の剣は下に落ちるのではなく、天使の真上に集まり出した。数億の"剣"が一カ所に集中し、眩い光を生み出す。

 視界を奪う輝きが収まった時、上空に現れたものに悠真は目を疑った。

 それは巨大な剣。悠真の体を斬り裂いた『宝剣』を何千倍にもしたような光の剣。

 

 ――あいつが狙ったのは一般人じゃない。あくまで俺を殺す気なんだ!


 巨大な宝剣の切っ先が、宙に浮かぶ悠真に向けられた。

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