第81話 鋼鉄の魔物と鋼の戦士

 鋼鉄の体を持つ魔物、ヴァーリンが徘徊する中。悠真たちは岩陰に隠れてその様子を見ていた。


「ここまではなんとか来れたな」


 六角棍を肩に乗せながら、社長は蠢く魔物を見やる。

 そんな社長の言葉に、悠真もコクリと頷いた。


「はい『金属化』できる時間は残り四十分もありますし、血塗られたブラッディー・鉱石オアの力も使ってませんから、多少の余裕はありますね」

「こっからは全力で行け、悠真! あの猿を倒して魔鉱石がドロップしたら俺が回収していく。お前は気にせず奴らをぶっ飛ばせばいい」

「分かりました!」


 表情が険しくなった悠真を見て、アイシャも声をかける。


「‶超パワー″は使い切っても大丈夫だよ。回収した魔鉱石を食べれば、また使えるようになるからね。とにかく、目標は二十体だ」

「はい!」


 悠真は岩陰から勢いよく飛び出した。走りながら『金属化』能力を発動し、全身を金属の鎧と化す。

 洞窟内をうろついていた数体のヴァーリンが、悠真の存在に気づいた。

 招かれざる侵入者に、魔物は気色けしきばんで向かって来る。


「かかって来やがれ!!」


 悠真はすでに戦闘態勢に入った。血塗られたブラッディー・鉱石オアの力を解放し、全身に血管の如き光の筋が駆け巡る。

 飛びかかって来たヴァーリンの顔面に右ストレートを叩き込んだ。

 拳がメリ込み、ヴァーリンの鋼鉄の体が後方に吹っ飛ぶ。地面に何度も体を打ちつけ、転がっていった。

 さらに二匹のヴァーリンが飛びかかって来る。

 悠真は地面に右手をつき、前屈みになる。全身に力を込めると、背中や頭、肩や腕から無数のトゲが一気に伸びる。

 二匹のヴァーリンは何十本ものトゲに体を貫かれ、その動きを止めた。

 悠真はトゲを引き抜き、体を元に戻すと、ヴァーリンの体がグラリとよろめく。その隙を見逃さず、足を踏み込んで一匹に前蹴りを放つ。

 まともに食らったヴァーリンは衝撃に耐えきれず、吹っ飛んで岩壁に激突した。

 悠真はすぐに体勢を整え、拳を腰に据える。目の前には全身から血を流す魔物。

 足から腰へ、腰から肩へ、肩から腕へ。社長から習った空手の動きを再現する。


「うおおおおおおおお!!」


 渾身の正拳突きを繰り出すが、ヴァーリンは咄嗟に右腕でガードした。

 それでも悠真の一撃はヴァーリンの腕を砕き、そのまま吹っ飛ばす。魔物は絶叫しゴロゴロと転がっていった。

 三匹は地面に倒れたまま動かない。この間、わずか十秒。

 ――通じる。俺の力は充分通じる!


「悠真! 油断するな。そいつら、まだ死んでないぞ!!」


 ハッと顔を上げる。確かにヴァーリンは砂になって消えてない。

 途轍もないタフさだと思いつつ、悠真は止めを刺すため倒れたヴァーリンに近づいていく。

 右手を砕かれたヴァーリンがヨロヨロと起き上がる。大気を引き裂く咆哮を上げ、悠真に襲いかかってきた。

 掴みかかってくる左手を払い除け、足を踏み込み、ボクシングの連打を打ち込む。

 脇腹に、胸に、顔面に。的確にダメージを与えた。

 踏鞴を踏んで後ずさるヴァーリンを悠真が追撃する。伸ばした右腕から剣が飛び出し、その剣の切っ先を魔物に向ける。

 体に流れる赤い血脈は輝きを増し、渾身の力で突き立てた剣は鋼鉄の魔物を貫いた。剣は深々と刺さり、ヴァーリンは断末魔の叫び声を上げる。

 魔物はガクリと項垂れ、砂となって消えていく。


「やった……」


 悠真は血塗られたブラッディー・鉱石オアの力の調整を、ある程度できるようになっていた。

 ここぞという時、最大のパワーを引き出せば強力な魔物だって倒せる。そんな確信が悠真を突き動かす。

 ――まずは一匹。残り二匹……。

 倒れているヴァーリンたちに止めを刺そうと、悠真は剣を構えて近づいてゆく。

 だが洞窟内にいた他のヴァーリンが、次々に崖や岩の上から飛び降りてきた。十匹以上の魔物が辺りを囲み始める。


「くそっ!」


 一匹ずつ倒している時間がない。自分に一撃でヴァーリンを倒す力が無いことに、チッと舌打ちする。

 一斉に向かってくるヴァーリンの太い腕をかわしながら、攻撃の機会を窺う。


「さすがにこの数じゃ……」


 悠真が顔をしかめた時、目の端でなにかを捉える。切り立った崖の下、以前落とした‶ピッケル″がそこにあった。

 ――あれだ!

 悠真は掴みかかってくるヴァーリンの手を掻い潜り、崖下まで走って、落ちているピッケルに手を伸ばす。

 ガッチリと柄の部分を掴み、振り向いて追ってくる魔物と対峙する。

 以前より『液体金属化』はうまく使えるようになってるはずだ。今なら―― 

 ピッケルを前にかざす。悠真の腕から液体金属が帯のように伸びていき、ピッケルの先端に巻き付いた。

 それは巨大なハンマーへと姿を変えていく。

 ピックの部分はより鋭く、ブレードの部分は相手を叩き潰すための面に変わる。

 飛びかかってきたヴァーリンに、悠真は鋭いピック部分をヴァーリンの頭へと振り下ろす。

 ピックは鋼鉄の魔物の頭を貫き、一撃で砂へと変えた。

 さらに襲ってくる二匹のヴァーリンを、今度はヘッドの部分で横に薙ぎ払う。巨大なハンマーで殴打された魔物は、凄まじい衝撃で壁際まで飛んでいく。

 別のヴァーリンが襲ってくればバックステップでかわし、ピッケルを振り上げて魔物の頭に叩きつけた。

 頭蓋が砕け、体がひしゃげる。その一撃で魔物は砂となった。


「よっし!!」


 自分の手元に戻ってきた最強の相棒に、悠真は思わず笑みを零す。

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