第381話 それぞれの成長

「よっし!」


 空軍基地にある倉庫前の空き地。悠真は仁王立ちのまま、両拳を腰に構えていた。

 意識を集中し、魔力を練り込む。

 体の周りには白いオーラが漂い、渦を巻いて空に昇っていく。その様子を周囲で見ていたのはルイと明人、アルベルトとミアの四人。

 悠真が白の魔宝石を取り込んだあと、力を試してみたいと言ったため、全員で外に来ていた。

 緊張が張り詰める中、悠真は右手を高々とかかげる。

 手の平を空に向け、魔力を一点に集中した。


「行けえっ!」


 手から放たれたのは"白い閃光"。空を貫くように伸び、彼方へと消えていった。


「おお! 【黄の王】のレーザーみたいやな。めちゃめちゃかっこええ!」


 明人は空を見上げながら満面の笑みを浮かべる。ルイも納得して頷いた。


「たぶん、あれが白の第四階層魔法なんだよ。そして【黄の王】が使ったレーザーは雷の第四階層魔法……似てはいるけど、効果はまったく違うと思う」


 それを聞いたアルベルトは「確かにね」と唇をなめる。


「【黄の王】のレーザーは、全てを破壊する雷撃の束だ。それに対して、あの閃光は異常な回復魔法の塊。物質には影響を与えず、生物の細胞だけに致命的な傷を与えるんじゃないかな」

「天使の上位種が使う魔法ですね」


 ミアの言葉に、アルベルトは「そうだと思う」と言って頷く。


「なんにせよ、強力な魔法であることは間違いない。でも彼が望んでいたものではないんだろ?」


 アルベルトやルイが見つめる先、悠真は右手を握ったり開いたりして感触を確かめていた。

 しばらくすると納得したのか、ルイたちの元へと戻って来る。


「もおええんか? "蘇生魔法"はできそうか?」


 明人に尋ねられ、悠真はフルフルと首を振る。


「今はこれが限界だと思う。白の魔力は増えたけど、これ以上使いこなせる感じはしない」


 全員、暗い顔をする。

 "蘇生魔法"が使えなければ、目的を達成したことにはならない。悠真とルイに取っては、楓を生き返らせることが最重要なのだ。

 明人が言いにくそうに頬を掻く。


「どうする? 悠真、また別の国に行って白の魔宝石を回収することもできるで。ワイもとことんまで付き合ったるわ」


 ありがたい明人の言葉だったが、悠真は「いや」と頭を振った。


「これ以上魔宝石だけ集めても"蘇生魔法"は使えないと思う。それより、訓練して回復魔法を極めていった方が可能性はありそうだ」

「じゃあ……」


 不安そうなルイを見て、悠真はコクリと頷く。


「ああ……帰ろう。日本へ」


 ◇◇◇


 空軍基地の滑走路に、一機の航空機が停まっていた。

 アメリカ空軍が悠真たちのために用意した『リアジェット35』だ。スタッフによって給油と荷物の積み込みが終わり、2名のパイロットもすでに乗り込んでいた。

 タラップの前で、悠真は見送りに来てくれた人たちに視線を移す。

 ここにいるのはアルベルトにミア、そしてプロメテウスのメンバー数人だ。

 アリーシアやブレイス、空軍大将のチャールズなど、他の人たちとの挨拶は終わっていた。色々協力してもらったことに、今は感謝しかない。

 悠真は微笑んでいるアルベルトの顔を見る。


「アルベルトさん、色々協力してくれてありがとう。あなたがいなかったら、今頃死んでたかもしれない」

「それはこっちのセリフだよ。【黄の王】を倒してくれたこと、アメリカを代表して感謝する。君の強さを過小評価していたことは謝るよ」


 悠真とアルベルトはガッシリと握手を交わし、互いの健闘を称える。


「アメリカが落ち着いたら、オーストラリアの救助を頼みます。困ってる人たちが大勢いるから」

「ああ、必ず行く。約束するよ」


 ミアやプロメテウスのメンバーとも挨拶を交わす。

 特に金髪のライアンという男性は、「アメリカを助けてくれてありがとう!」と涙を浮かべてお礼を言ってきた。

 だいぶ熱い人のようだ。一通り挨拶を済ませると、悠真たちはタラップを上ろうとする。

 その時――南の空から高速で迫る影があった。

 黄金竜だ。それも三匹。


「ここは我々が受け持とう」


 アルベルトが前に出るが、悠真は「いや、大丈夫」と微笑む。


「せっかくだから、魔法の威力を試したい。俺たちがやるよ」


 悠真は一歩前に出て、右手の人差し指を空に向ける。悠然と空を泳ぐ黄金竜に狙いを定めた。


「うまくいくか分からないけど……」


 指先から放たれた閃光。白の第四階層魔法――"滅殺のレーザー"が光の速さで竜の胸を貫く。

 黄金竜はなにが起きたのか理解できない。

 数秒後に体がボコボコと膨れ上がり、ついには木っ端微塵に爆発した。

 悠真は拳を握り込み、ガッツポーズをする。


「よしっ、当たった! これ、使える魔法じゃないか?」


 それを見ていた明人はニヤリと笑う。


「やるやないか。ワイも魔宝石を取り込んでパワーアップしとるからな! 今度はこっちの番や」


 ゲイ・ボルグの柄を両手で持ち、矛先を南の空に向ける。槍の先端にバチバチとプラズマが集まりだした。


「これが【黄の王】が使っとった、雷の第四階層魔法や! 行っけえええええ!!」 


 矛先から放たれたのは黄金に輝く閃光。閃光は空を飛ぶ竜の羽にかする。

 瞬間――竜の体は一瞬で消滅した。

 その威力に、使った明人自身も「えっぐいで~」と驚嘆する。

 しかし、二匹の黄金竜を倒しても、生き残ったもう一匹の竜が突っ込んでくる。 

 

「僕がやるよ」


 刀を抜いたルイが、剣身にメラメラと炎を灯す。炎は黒く変色していった。

 目と鼻の先まで迫った竜に対し、ルイは鮮やかに剣を薙いだ。

 竜は空中でまっぷたつになり、そのまま黒い炎に包まれる。地面に落下した黄金竜は、焼き尽くされて消滅した。


「火の第四階層魔法――"黒炎"。コツはつかめたかな?」


 刀身を眺めながら、ルイがつぶやく。その様子を見ていたミアたちは絶句した。

 第四階層魔法は人が簡単に使えるような魔法じゃない。アルベルト以外の人間が使ったことに、プロメテウスのメンバーは信じられない気持ちになった。

 しかし、アルベルトだけは楽しそうに笑う。


「さすがだね。三人とも見事だ」


 アルベルトたちが見送る中、悠真たちは航空機に乗り込む。

 タラップが外され、ハッチが閉められた。悠真は窓際の席につき、窓からアルベルトたちに手を振る。

 アルベルトとライアンが手を振り返し、ミアだけはブスッとした表情のままだ。

 リアジェット35が徐々に動き出す。

 アメリカ、そしてオーストラリアで色々な出会いがあり、戦いがあった。

 悠真は感慨深く窓の外を眺める。もう、充分な白の魔宝石は手に入ったはずだ。

 あとは使いこなせるようになれば……。

 悠真たちを乗せた航空機は滑走路から飛び立った。

 多くの人が待つ、日本に向けて。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 これで第九章、王の胎動編【黄金の破壊神】は終りとなります。

 次回より最終章【オルフェウスの白き王】を始めますので、引き続き読んで頂けると幸いです。

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