第25話 黄色と緑の謎

 さらに翌朝。悠真が庭の穴を覗けば、そこにいたのは――


「今度は緑かよ!」


 鮮やかなメタリックグリーンのスライムが穴の中でうごめいている。

 悠真は冷却スプレーやガスバーナーに使うボンベ缶を多めに用意した。


「よし! 準備万端」


 フンッと体に力を込め、全身を鋼鉄に変える。穴の中へと飛び込み、緑のスライムと向かい合う。

 スライムは警戒するように穴の端を移動していたが、冷却スプレーを噴射すると、激怒して襲いかかってきた。

 体当たりされ、よろめく悠真だったが、負けじと冷却スプレーを噴射する。

 動きの速いスライムを捉えるのは大変だが噴射し続け、狭い穴の中を冷気で充満させる。

 気温はどんどん下がり、緑のスライムの動きは鈍くなってゆく。

 それに対し悠真は『冷気耐性』を持っているため、問題なく活動できた。


「よーし! 動きさえ止めればこっちのもんだ」


 集中的に冷気を当て、完全に動きを止める。今度はガスバーナーを二本持ち、両手で火を噴射させた。

 一気に温度を上げて緑のスライムに大ダメージを与える。

 解凍された瞬間から飛びかかってくるが、何度体当たりされても、こっちはなにも感じない。

 防御が完璧な分、攻撃に集中できるのがありがたい。

 何回か繰り返した後、体がボロボロになったスライムに金槌を振り下ろし、とどめを刺した。

 地面にポツンと残った‶緑の魔鉱石″を手に取り、明るい所でじっと見る。

 美しいメタリックなエメラルドグリーン。

 台所で水洗いした後、何の躊躇もなく飲み込んだ。全身が熱を帯びる。

 体に特に変化はないが、悠真は昨日と今日出てきた‶魔鉱石″の効果に思い当たることがあった。

 

「まあ、帰ってきてから検証するか」


 悠真はいつものように支度をし、学校へ行くため家を出る。


 ◇◇◇


 学校からの帰り道。悠真はスマホで検索しながら歩いていた。


「うーん、やっぱりこれだよな」


 表示されていたのはダンジョンの特性を解説したサイトだ。六つのダンジョンと、それぞれで産出される‶魔宝石″がまとめてある。


 白のダンジョン(白色、もしくは透明な魔宝石。回復の魔法が使える)

 赤のダンジョン(赤色の魔宝石。火魔法が使える)

 青のダンジョン(青色の魔宝石。水魔法が使える)

 黄のダンジョン(黄色の魔宝石。雷魔法が使える)

 緑のダンジョン(緑色の魔宝石。風魔法が使える)

 黒のダンジョン(魔鉱石。身体強化? が使える)


 これらのダンジョンの特徴と、ここ最近出てきた『色付き』の魔鉱石を考えるなら赤は『火耐性』、青は『水耐性』。

 そして黄色は『雷耐性』、緑は『風耐性』じゃないだろうか?

 たぶん間違いないと思うが、確かめてみないと何とも言えない。

 悠真は家に帰って制服から私服に着替え、自転車に乗って駆け出した。

 行き先はマナ指数測定器を買った大型家電量販店だ。


 量販店の駐車場の一角に自転車を停め、階段を駆け上がって『ダンジョン関連』のコーナーにおもむく。

 色々並んでいる中、目に止めたのはスタンガンや電磁警棒だ。

 お試しはできないようなので買うしかない。

 高い物は数万円もするが、一番安いスタンガンは4980円の物がある。これでいいか、と手に取った。

 スタンガンを買って家に戻り、箱を開けて長方形の大きな電池をセットする。


「これで使えるはずだ」


 スイッチを押すと、パチパチと細い電気がほとばしる。

 悠真は体に力を込め‶金属化″して左腕の袖をまくった。右手に持ったスタンガンを近づける。

 金属なら電気は通すはずだ。

 少しビビりながら、スタンガンを腕に押し付けた。


「う! 痛……くない? 大丈夫だ!」


 思った通り電気をまったく通していない。『雷耐性』ができたんだ。

 悠真は自分の予想が当たったことに喜ぶ。だとすれば緑の魔鉱石は『風耐性』で間違いないだろう。

 凄い風魔法の使い手になると鋼鉄を真っ二つに切り裂くと聞く。そうなると風魔法が一番怖いかもしれない。

 悠真はぶるるると体を震わせる。

 もっとも、風魔法に関しては試しようがないが。


「とにかくこれで攻撃魔法『火』『水』『雷』『風』、四つ全部の耐性を手に入れたってことだろ! これ、結構スゴいことじゃないのか!?」


 悠真は興奮して喜ぶが、すぐに気がつく。

 そんな能力があっても、日常生活でなんの役にも立たないことを。

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