第10話 神秘の力
この頃になると安全が確認されたダンジョンの低層階は民間人にも開放され、生物が産み出す‶宝石″を売って儲けようとする者も現れ始める。
ダンジョン産の宝石は、それ自体が電磁波を帯びているため既存の宝石と判別しやすく、物珍しさから高値で取引されていた。
ある日、数名の民間人がダンジョンでドロップした‶宝石″を持ち帰ろうと出口を目指していると、犬に似た生き物に襲われ、持っていた宝石を落としてしまう。
慌てて拾おうとしたところ、飛び出してきた犬が宝石を咥え、そのまま飲み込んでしまった。
変化はすぐに現れる。
走り回って噛みつくことしかできなかった犬が口を開くと、溢れんばかりの炎を吐き出したのだ。人々は呆気に取られる。
犬が口にしたのは、火を吐く爬虫類からドロップした‶宝石″だった。
この時、人類は初めて『宝石』は食べることにより不思議な力を得るものだと認識した。使える力はまさに魔法。
炎を生み出し、水を操り、風を巻き起こし、稲妻を轟かせる。
およそ空想の世界でしか成し得ないことが、ダンジョン内で現実となったのだ。
この魔法はダンジョンの中でしか使うことはできなかったが、物理攻撃が効かない深層の生物に対しては極めて有効だった。
やがて魔法が使えるようになる宝石を『魔宝石』。
魔宝石を生み出す生物を『魔物』。
営利目的でダンジョンに入る人間を『
なにより重要なのは‶魔法″を使うためには、魔物を倒すことで増えていく電磁波が必要だということ。この電磁波は、最初に発見したオーストラリアの学者によって『マナ』と名付けられた。
古代の宗教において神秘的な力を表す言葉だ。
マナを数値化したものを『マナ指数』と呼び‶魔宝石″を使うためにはその魔宝石よりも高いマナ指数が必要だということも分かった。
「ふ~ん、結局‶マナ″が無いと何もできないってことか……俺も散々、金属スライムを倒したからな。結構あるんじゃないのか? マナ指数」
とは言え調べてみないと分からない。『マナ指数』で検索すると、どうやら一般の量販店で売られている‟測定器”があるようだ。
「今日、日曜だし……行ってみるか」
◇◇◇
家から自転車で二十分ほどの場所に、大型の家電量販店がある。家で使う電化製品は大抵ここで揃えているが、悠真が来るのは久しぶりだ。
自転車を駐輪場に止め、階段を上り店内へと入った。
大量の家電製品が並べられる大きなフロアを歩きながら、キョロキョロ辺りを見回していると、その一角に設置されたコーナーに目が止まる。
『ダンジョン関連商品、幅広く取り揃えております!』
大きなポップが立てかけられ、様々な商品が並べてある。
ダンジョン内での方向を示す特殊なコンパス。弱い魔物を倒すためのスタンガンや電磁警棒。
暗がりを照らすための強力なライトやキャンプ用品まで、電気屋に必要か? と思う物まで揃っていた。
そしてお目当ての商品も――
「これがマナ測定器か……色々あるんだな」
並んでいる測定器は筒状の物もあれば、ドライヤーのような形をした物もある。
値段は四万から十二万まで。ネットで調べてもそのくらいの値段だった。さすがに高すぎるな~と悩んでいると、棚の端の方に中古品を扱ったコーナーがあることに気づく。
価格は一万から三万ほど。
悠真は店のロゴの入ったジャンパーを着た店員を呼び止める。
「すいません。この中古の測定器、ちゃんと測れますか?」
失礼なことを聞いてくる客に、小太りの店員は柔和な笑顔で対応する。
「ええ、大丈夫ですよ。少し古いモデルですが、ちゃんと測定はできます。もちろん最新型に比べれば性能は劣りますけどね。保証書も付きますよ」
だったら安い方がいいか、と思い。悠真は中古の測定器を買うことにした。
とは言え、あまりにも安すぎると性能が心配なので、税込19800円のドライヤー型の物を手に取る。
「じゃあ、これで」
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