第57話 可能性

 次は何を言われるんだと戦々恐々とする神崎に、アイシャは一枚の紙を持ってきた。


「これは三鷹悠真の‶マナ指数″の詳細なデータで、電磁波の違いを表したものだ」

「お、おう、それがなんだ?」

「ここを見ろ」


 神崎が覗き込むと、そこにはよく分からないグラフが描かれていた。


「これがどうした?」

「これはマナの構成比率を示したデータで、この白い部分が『無色のマナ』だ」

「ふんふん……で?」

「ここ」

 

 アイシャが指差した場所のグラフは、色が変わっていた。


「この灰色がかった部分は、ことを表している」

「え?」

「つまり四十六万のマナは、

「ちょ、ちょっと待て! それって……」

「そうだ。三鷹悠真はすでに魔宝石を食ってる! マナを染めてるんだ」

「あいつ魔法なんか使えんぞ! 嘘を言っているようにも見えない。だいたい魔法が使えるなら言った方がいいだろ!?」

「理由は分からない。だが間違いなくマナは染まっている。なんの魔法かまでは判別できないがな」

「どれぐらい染まって……‶魔力″に変わってるんだ?」

「全体の比率から考えれば……十万ほどは魔力に変わっている」

「じゅ、十万!?」


 ありえない。そんな魔宝石、用意するだけでも至難の業だ。どれぐらいの費用になるのか想像したくもない。


「一体、どこからそんな魔宝石を調達したのか分からないな。鋼太郎、今まで三鷹におかしな様子は無かったのか?」


 アイシャに聞かれて神崎は黙り込む。今まで悠真のことを見てきたが、マナが上がりにくいということ以外、特におかしな所はなかった。

 強力な魔法が使えたのに、黙ってたと言うのか?


「あいつは自分でマナ指数を測ってもゼロだと言って悩んでた。それが嘘だったってのか!?」


 アイシャが顎に手を当て無言になる。しばらくしてから口を開いた。


「いや、通常のマナ測定器では彼のマナは計れんだろう。そういう意味では、マナがゼロだと思い込んでいたのは本当かもしれん」

「じゃあ、なんでお前の測定器だけ測れんだよ」


 神崎の疑問に、アイシャはそんなことか、と小馬鹿にしたように微笑む。


「構造が違うんだよ。私が作った物はな。通常の測定器は、体内にある微弱なマナを抽出して測る繊細なものだ。だが、その時マナが溢れていては正確に測ることができない。ダンジョン内で個人のマナが測定できないのと同じ理屈だ」

「それは……そうかもしれんが」

「それに対し、私の作った測定器は空間測定器を元に作っている。対象を装置の中に入れて丸ごと測定するのが特徴だ。どれほどマナが溢れていようが関係ない」


 自信満々でドヤ顔をするアイシャに神崎は眉をひそめる。だがその装置のおかげで悠真のマナが測れたのも事実だ。

 アイシャはぶつぶつと何かを呟きながら、室内を歩き回る。


「それにしても、三鷹はなぜ魔宝石を食べたんだ? 自分のマナ指数がゼロだと思っていたなら、食べるはずがない」

「んなもん、マナが無いと魔宝石が使えないって知らなかったんじゃねーのか?」

「いや、今はスマホで検索すれば、その程度の情報はいくらでも出てくる。知らないなんてことは考えられない」


 顎をトントンと指で叩きながら、アイシャは目を閉じ、物思いにふける。

 自分の世界に閉じこもり、考え事をするいつものスタイルだ。


「魔宝石もマナ指数がゼロだと思ったのか……? だが魔宝石に必ずマナがあることは調べれば分かるはず……だとしたら……」


 うろうろしていたアイシャがピタリと止まる。


「まさか……魔鉱石か……?」

「ん? なんだ」

「魔鉱石ならマナ指数ゼロの物もある。それはネットでも公開されているはずだ。そしてマナ指数が高すぎる魔鉱石は、市販のマナ測定器では測れない」


 アイシャがどんどん興奮してくる。『黒のダンジョン』を専門に調べている学者だけに、魔鉱石などに敏感に反応する。


「だとしたら三鷹悠真は『黒のダンジョン』に何か関係があるんじゃ……いやきっとそうだ! そうに違いない!! 聞かなければ、本人に――」

「待て待て、落ち着け! 隠してるなら簡単には聞き出せんぞ」

「ん? ああ、そうだな。確かにそうだ。しっかり対策しないと……絶対に逃せない最高の被検体……いやいや、人物だからな。フフフフ……」


 不気味な笑い声を上げるアイシャを見て、神崎は不安になる。


「鋼太郎! 明後日あさって、三鷹悠真をここに連れて来い。私が話を聞く」

「明後日? 明日じゃダメなのか?」

「準備をする。確実に話をさせるためにな。まあ、私に任せておけ。クックック」


 自信ありげに微笑むアイシャに、神崎の不安はさらに大きくなった。

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