第42話 魔法付与武装

「まあ、まずは武器からだ。ついて来い悠真」


 社長がオフィスを出て階段を下りていく。

 悠真は慌てて田中と一緒に、社長の後をついて行った。


「どこに行くんですか?」と田中に聞くと「二階の倉庫だよ」と答えてくれる。

 ワンフロアだけが会社のオフィスかと思っていたが、どうやら二階もD-マイナーが使っているようだ。

 

 社長は二階の扉を開き、中へ入っていく。悠真と田中もそれに続いた。

 中はほこりっぽく、カーテンが閉じられていることもあり、少し薄暗い。色々な道具が乱雑に置かれていた。

 棚に立てかけられているのは棍棒や剣だろうか。ヘルメットやプロテクターのような物もある。社長はその一つを手に取り、パンッパンッと埃を払った。


「ごほっ、使ってねーのもあるからな……悠真、この中から武器や防具を選べ」

「武器と防具ですか?」

「ダンジョンで使う武器はちょっと特殊でな。これなんかは……」


 社長は立てかけてあった棍棒を手に取る。その棍棒は青銅色をした重厚な雰囲気の物だ。


「こいつはエルシード社製の魔法付与武装【水脈の棍棒】だ。ダンジョンの中で魔力を込めれば、この棍棒自体が水の魔力を帯びて青く発光すんだよ」

「なんですか? その魔法付与武装って?」

「なんだ、そんなことも知らないのか? マナってのはそれだけじゃ何の役にも立たない。これを‶無色のマナ″ってんだ。そんで魔宝石を飲み込んで魔法が使えるようになると、魔宝石のマナ指数分、無色のマナが減っていく。これが‟マナが染まる”って現象だ」

「マナが……染まる」

「そう、そして染まったマナを‶魔力″と呼ぶヤツもいる。この魔力の大きさが、そのまま攻撃力の強さって訳だ」


 マナを魔力に変えて初めて‶魔法″が使える。悠真も本で読んだことはあったが、プロの探索者である社長から聞くと、より実感が湧いてくる。


「まあ、魔法が使えても、それだけで魔物と戦えるのは上位の探索者シーカーだけだ。大抵の探索者シーカーは‟魔力”が足りねーんだよ。そこで出てくんのがこの魔法付与武装だ。こいつは少ない魔力でも高い攻撃力を生み出す。要するに魔法を補助する道具だ。核の部分に‶魔宝石″が使われてるのが特徴だな」

「エルシードって、そんな物まで作ってるんですか?」

「ダンジョン用の武装なら世界的なメーカーだ。国内で使われてる武器や防具は、ほぼエルシード社製だと思っていいだろう」


 悠真は社長から棍棒を受け取ると、興味深そうに見回した。聞けば金属ではなく、特殊なセラミックでできてるらしい。


「マナ指数70ぐらいを魔力に変えれば、こいつは使えるぞ。まあ第三者が魔力を込めることもできるんだが、効率的じゃないからうちではやらねーけどな」

「へ~」

「つっても今回行くのは『青のダンジョン』だ。水属性の魔物に水魔法使っても意味ねーから、使うのはこっちだ」


 社長は隣にある棚を指差した。そこにはまた別の武器が並べてあったが、明らかに魔法付与武装とは雰囲気が異なる。


「これは?」

「魔法付与武装じゃねえ。スタンガンの一種だな。スイッチを押せば電気が流れる、電池式だ」

「電池式!?」

「バッテリー電池だ。雷魔法に比べたら遥かに弱いが、水属性の魔物にはけっこう効くんだよ。好きなもの選んでいいぜ」

「好きなものって言われても……」


 悠真は辺りを見渡す。棚にあるのは長い棍棒のような武器。手前のテーブルには、短剣や電磁警棒が置かれていた。

 棍棒を手に取って、柄の中ほどにあるスイッチを押すと、バチバチと先端から細い光がほとばしる。スタンガン系の武器は一般的によく使われる武器だが、プロの現場に入ってもスタンガンかと、悠真はがっかりした。

 だが魔法が一切使えない悠真が魔法付与武装を扱える訳もなく、仕方ないと思いながら棚の武器を見ていると――


「あれ? これって……」


 棚の隅っこに置かれている物に気づく。最初は棍棒かと思ったが、どうやら違うようだ。

 ほこりをかぶったを取り出す。

 細長い柄の先に大きな金属がくっついた、まるで金槌かなづちみたいな武器だ。


「あーそれか。懐かしいな。昔はよく使ってたんだが」

「古い物なんですか?」

「ああ、エルシード社が作ったダンジョン用武器の初期モデルだ。やたら頑丈にできてて俺は好きだったんだがな。今は棍棒や短剣の使いやすいスタンガン武器が主流になって一気にすたれちまった」


 田中も社長の言葉に頷きつつ、話を引き取る。


「悠真君も使いやすい武器を選んだ方がいいよ。特に初心者のうちはね。短剣なんてどうかな? これから行く所には強い魔物なんていないけど、効率的に倒すことは大事だよ」


 田中は穏やかな笑顔で短剣を勧めてくる。プロの探索者シーカーが言うならそうなのだろう。だけど散々金属スライムを金槌で倒してきたせいか、この細長い金槌のような武器は、手にしっくりと馴染む。


「すいません田中さん。俺、できればコレが使いたいです」

「そうかい? 悠真君がそう言うなら仕方ないけど……」


 その様子を見ていた社長が口を開く。


「まあ、自分の性に合ってる武器を選ぶのが一番だ。それで使いにくけりゃ、また代えればいい」

「はい! ありがとうございます」


 田中も「確かにそうですね」と納得していた。

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