第161話 最強の包囲網

 赤のダンジョンで再会して以来会っていなかったルイだが、ずいぶん大人っぽくなった印象を受ける。

 そんなに時間が経った訳ではないのにと思いつつ、今はそれどころではないと頭を振る。悠真は慌てて逃げようとした。


「いたぞ! 泰前!!」

「おうよ!」


 泰前が魔法付与武装の‶電磁投射手甲″を構え、間髪入れずに放つ。稲妻を帯びた砲弾が、悠真の足元に炸裂した。


「うおっ!?」


 土煙が舞い上がり、辺りが見えなくなる。煙の外に出ようとするが、なにかが飛んできて体に巻き付いた。


「なんだ?」


 手や足にチェーンが絡みつき、動きを封じている。煙が晴れてくると、辺りの様子が見えてきた。

 ‶雷獣の咆哮″の探索者シーカーたちが、チェーンを握って四方に立っている。

 引き千切ろうとしたが、思いのほか丈夫そうだ。マナを流し込む【魔法付与武装】なのだろう。

 ――無理矢理引っ張ると、持ってる人が怪我しそうだしな……。

 どうしようかと迷った瞬間、叫び声を上げて斬りかかってくる女性がいた。

 ――美咲・ブルーウェルさん!

 灼熱の剣が振り下ろされる。

 悠真は左腕を上げ、斬撃を防いだ。ガンッと激しい火の粉が散るが、やはり燃える剣を受けても熱さは感じない。

 火の耐性が無くなった訳じゃないんだ。

 美咲は剣を弾き、後ろに飛ぶ。同じタイミングで泰前の砲撃が唸りを上げた。かわそうとしたが、チェーンが邪魔でうまく動けない。

 雷の砲弾は悠真の腹に直撃し、カッと瞬いて爆発した。

 後ろに吹っ飛びそうになるが、チェーンがガキンッと鳴ってその場に踏み止まる。チェーンを持っている探索者シーカーたちが、必死で押さえていた。

 悠真は自分の腹を見る。砲弾が爆発しても、特に痛みはない。

 やはりアルベルトの魔法は特別なんだろうか? 間を置かずに今度は天王寺が走ってくる。のんびり考えてる場合じゃない。

 悠真はドロリと体を溶かす。『液体金属』になったことでチェーンが全て外れ、黒い水溜まりのようになる。

 踏み込もうとした天王寺は唖然として足を止めた。

 液体金属のまま、悠真は路面を移動する。


「その黒い水溜まりだ! 変化して逃げるつもりだぞ!!」


 スイスイと道路を進んで行く。このまま逃げられそうだ。そう思った時、


「大丈夫です。僕が逃がしませんから」


 炎の剣が路面を斬り裂く。「あぶなっ!」と言って悠真は斬撃を避け、形を変えて人型の金属鎧へと戻った。

 眼前にいたのは燃え盛る刀を手にしたルイだ。

 刀を中段に構えると、一直線に斬りかかってきた。

 炎の斬撃を何度もかわす。以前より腕が上がってるように感じるのは気のせいか?

 ルイが振り下ろした刀を左腕で受けようとした、その刹那――ルイの目がギラリと輝く。腕に当たった炎が弾けて爆発する。驚いてすぐに腕を引くものの、腕には焼けるような熱さが残った。

 ――痛っ!? 

 互いに距離を取り、向かい合う。悠真は赤く発熱した自分の腕を見て驚愕する。

 ――これはアルベルトと同じ魔法……なんでルイが!?


「ルイ!」


 天王寺たちが駆けつけてくる。ルイはこちらを睨みつつ、刀を下段に構えた。


「やはり、この刀は効いているようです。このままいきます!」


 ルイは踏み込み、弧を描く炎の斬撃で襲いかかってきた。当たらないように交わすが、一太刀、一太刀がどんどん鋭くなっていく。

 振り下ろされた一撃をかわしきれず、左手を上げる。刀とぶつかった瞬間、激しい爆発が起こった。


 ◇◇◇


 ルイは後ろに飛び退き、様子をうかがう。

 辺りは煙に覆われ、黒鎧の姿は見えなくなった。

 ――手応えはあったけど……なんだ? この違和感は。

 ルイは刀を構えながら、ジッと目を凝らす。煙が徐々に晴れてゆき、現れた黒鎧の姿にルイは目を見張った。

 左腕を青く輝かせ、何事もないように仁王立ちしている。

 驚いて攻撃をためらっているスキに、黒鎧は逃げてしまった。ルイは呆然と立ち尽くす。


「ルイ! 大丈夫か?」


 天王寺が駆け寄り、怪我がないか心配する。ルイは灼熱刀を見ながら口を開いた。


「最後の一撃……変な手応えでした」

「なに? どういう意味だ」


 天王寺が眉をひそめる。


「魔法……‶水魔法″を使ったんじゃないでしょうか? 炎が押し返される感じがありましたから」

「おいおい、勘弁してくれ!」


 歩み寄ってきた泰前が、憮然とした表情で言う。


「ただでさえ恐ろしく強い魔物なのに、そのうえ魔法を使うだあ? 冗談じゃねえぞ! 天王寺、お前はなにか感じたのか!?」

「……いや、俺の感知能力じゃ、魔力の違いまでは判別できない。とにかく今はヤツを追いかけることに専念しよう!」


 ルイは「はい!」と返事をしたが、やはり黒鎧の使った青い光が気になっていた。もし、あれが水魔法だったら……。

 一抹の不安を抱きながら、天王寺たちの後を追いかけた。


 ◇◇◇


 悠真がビルとビルの合間を駆け抜けていると、今度は上から人が飛び降りてくる。


「うお! なんだ!?」


 十人以上はいる。なにかを投げてきたので体を捻ってかわしたが、いくつかが当たっていしまう。

 見ればさっき見たチェーンが、手や足に巻き付いている。


「なんなんだよ! 流行ってんのか!? このチェーン?」


 悠真は手や足の一部を『液体金属』に変え、チェーンを振りほどく。


「あ! 外されたぞ!!」

「逃がすな! 追え、追えええ!!」


 慌てているようだ。しかし、一旦引き離してしまえば普通の探索者シーカーでは追いついて来れないだろう。そのまま逃げ切ろうとしたが――


「そっちに行ったぞ天王寺! 絶対に止めろ!!」


 後ろに置き去りにした探索者シーカーの呼び声に、悠真は反応した。

 天王寺? さっき振り切って逃げたはずだ。もう追いついたとは思えない。振り返ってよく見ると、後ろにいる探索者シーカーたちのバトルスーツに見覚えがあった。


「あれは、確かファメールの……」


 その時、頭上から声が降ってきた。


「しゃーないな。やっぱりワイがやらんとあかんか」


 前方に誰かが落ちてくる。ドスンッと地面に着地すると、何事もなかったように立ち上がった。

 バトルスーツの上に、フード付きのマントを羽織り、大きな白いバッグを担いだ男の探索者シーカー

 特徴的な前髪パッツン頭は何度も見た。細い目が悠真を捉える。


「あれは……明人。あいつも上位探索者シーカーなのか?」


 悠真は驚いて足を止めた。それを見て明人はニヤリと笑う。


「なあ、黒鎧。今度はワイと遊ぼーや。なあに、退屈はさせへんで」


 明人は担いでいた白いバッグを下ろし、中から一本の‶槍″を取り出す。

 それは人間の身の丈より長いもので、穂先と口金の部分がやたらと大きく作られていた。

 槍の柄を両手で持ち、切っ先をこちらに向ける。

 明人は口角を上げて悠真を見た。


「これが史上最強の魔法付与武装【雷槍ゲイ・ボルグ】や! ご自慢のかったい体、きっちり貫いたるで!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る