第363話 一筋の希望
明人とルイの攻撃を受け、オオカブトはわずかによろめく。
それを見た悠真は、飛び跳ねながらテンションを上げた。
「おお! やるな明人、ルイ! 俺も負けてられん!!」
悠真は大きく飛び跳ね、二本の触手を頭上で合わせた。触手をドロリと溶かし、巨大なハンマーに変える。
そのハンマーを振り上げ、オオカブトの体に叩きつけた。
火の魔力を流し込んだ【鉄槌】は、玉虫色の体表を煮えたぎらせ、大爆発を引き起こす。
金属スライムは衝撃で吹っ飛ばされるも、クルクルと回転して地面に着地する。
体をプルプルと震わせながら見上げれば、オオカブトは背中から煙を上げ、動きを止めていた。
「どうだ! さすがに効いただろ!」
ドヤ顔をする悠真を見て、明人はニヤリと笑う。
「そんな姿やのに、やるやないか。ワイも負けてられへんな!」
明人はゲイ・ボルグに飛び乗り、洞窟内を飛翔する。オオカブトの真上にくると、右手を上にかかげた。
「喰らえ!!」
黒い稲妻が周囲に渦巻き、黒い龍の姿となって空を泳ぐ。龍は凶悪なアギトを開き、オオカブトに襲いかかった。
背中に直撃すると外殻を破壊し、体の内部にまでダメージを与える。
オオカブトは角を大きく上げ、ゆっくりと左右に振って悶え苦しむ。
魔物の後方に回り込んでいたルイは、その隙を見逃さなかった。足を止め、二本の刀を重ねて魔力を練り込む。
凄まじい炎がルイの周りに渦巻いた。
炎はメラメラと燃え上がり、形を成して巨大な龍の姿となる。
「行け!」
ルイが持っていた二本の刀を振ると、炎の龍は空中を蛇行し、オオカブトに向かっていった。
藻掻き苦しむオオカブトの頭部に噛みつき、炎の龍は一気に燃え上がる。
熱が臨界点に達した時、炎の龍は爆発し、洞窟内に衝撃が走った。天井からは岩の破片が落ちてくる。
粉塵がゆっくりと晴れ、見えてきたのは痛々しい傷を負ったオオカブトの姿。
輝いていた玉虫色の光沢は
当然、悠真たちがそんな緩慢な攻撃を受けるはずがない。
全員がオオカブトから距離を取り、相手の行動を観察していた。もう、オオカブトに体力が残ってないのは明らかだ。
そう思った明人とルイは、チョコンと
「悠真! 今だ!!」
「やったれ、悠真!」
ルイと明人に背中を押され、悠真がピョンピョンと飛び跳ねてオオカブトに迫る。
風魔法を使って飛び上がると、悠真は丸い体の形を『長剣』に変えた。
剣はオオカブトの体に突き刺さり、深々と体内に侵入する。火魔法を発動して長剣は灼熱の炎を宿した。
金属の体はマグマのように熱くなり、オオカブトの内臓を焼いていく。
声を発することなく、身もだえる魔物。
悠真はさらに全身の温度を上げていく。
「終わりだ!」
マグマの剣はカッと瞬き、全てを吹き飛ばすほどの爆発を起こす。オオカブトの体はバラバラに砕け、地面に落ちて砂になった。
悠真が変身した"剣"も、カランと岩場に落ちる。
剣の表面はゆらゆらと波打ち、うねりながら丸い金属スライムに変わった。
悠真は辺りを見回し、オオカブトを倒せたことを確認する。
「よし! なんとか討伐できた」
ルイは「やったね、悠真」と嬉しそうに歩み寄ってきた。空中にいた明人も「やるやんけ!」と微笑む。
悠真はピョンピョンと飛び跳ね、オオカブトが死んだ場所に向かった。
周囲には大量の砂が散らばっている。悠真は目を凝らし、触手で砂をかき分けて目的の物を探した。
一分ほどウロウロしていると、砂の合間でなにかが光る。
「あ!」
悠真はピョンピョンと歩み寄り、触手でそれを拾い上げる。
目の前でかざせば、見る角度によって色合いが変化する"玉虫色"の魔鉱石だ。
「それがオオカブトの魔鉱石?」
後ろに立つルイが尋ねてきた。悠真は「ああ」と言い、触手で持った魔鉱石をマジマジと見つめる。
「たぶん、魔法の耐性があるんじゃないかな? あんなに魔法が効きにくかったんだから、それしか考えられないだろ?」
「そうだね。そうだとしたら実戦ではかなり役に立つ魔鉱石だ」
ルイも同意し、すぐに飲み込むことにした。金属化が解けて人に戻った悠真は、リュックからペットボトルを取り出す。
ゲイ・ボルグから降りてきた明人も見守る中、ウェットティッシュで拭いた魔鉱石を飲み込み、ペットボトルの水で流し込む。
ゴクリと腹の底に落とすと、すぐに変化は訪れた。
腹の中が一気に熱くなったのだ。
普通の魔鉱石より強い反応。それだけで、この魔鉱石が強力なものであることが分かる。
悠真は手を握ったり、開いたり、と確認してみるが特に変化はない。
「う~ん、まあ、魔法攻撃を受けないとよく分からないよな」
「このあとの攻略で確かめればいいよ」
ルイの言葉に納得し、悠真たちは下層に降りることにした。迷宮内を進む道すがら、悠真は自分自身に回復魔法をかける。
黒のダンジョンに入ってからも、定期的に回復魔法はかけていた。
しかし、最近はあまり効果を感じられず、少し焦りを募らせていたのだが――
「あれ?」
悠真の声に、前を歩いていたルイが反応する。
「どうしたの? 悠真」
「いや、なんだか……回復魔法が効いてるような気がして……」
その言葉に、ルイの隣を歩く明人が怪訝な顔をする。
「なんや、ええことやないか。それがなんやっちゅうねん?」
「そうなんだけど、最近は回復魔法の効きが悪かったんだ。それが急に良くなった感じで……」
「それって――」
ルイが手を顎に当て、なにかを考え込む。
「もしかして……魔法耐性がある魔鉱石を飲み込んだからじゃない?」
「え? あの玉虫色のヤツか? 回復魔法となんの関係があるんだよ」
「魔法には魔物の再生能力を阻害する効果があるから、回復魔法にも影響を与えるのかもしれない。そう考えれば、魔法耐性は阻害効果に対する耐性も獲得できる、ってことじゃないかな?」
悠真はやや戸惑うものの、確かにその可能性はあるかもしれない。
明人も「ええやないか!」と明るい笑顔を向けてくる。
「それが本当なら悠真の傷も簡単に治るんちゃうか? せやったらめちゃめちゃラッキーやで! なあ、悠真」
悠真は自分の両手を見つめる。明人の言う通り、玉虫色の魔鉱石で傷の治りが早くなるなら願ったり叶ったりだ。
最下層に着くまでに全快の状態になれるかもしれない。
悠真は一筋の希望を抱きながら、暗い迷宮を下っていった。
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