第278話 剛拳のラッシュ

 悠真はハンマーになった右手を元に戻し、両手の甲から剣を伸ばす。

 緑色に輝く剣をクロスさせ、頭上にかかげた。大蛇は地をうように襲ってくる。悠真は慌てず両剣を振り下ろした。

 巨大な"風の刃"を発生させたが、通常のものではない。

 風は重なり合い、クロスした状態で飛んでいく。吹き荒れる"風"は大蛇の体を斬り裂き、木っ端微塵に破壊しながら後ろに突き抜ける。

 クロスした刃は止まることなく、街の建物も粉砕した。

 巨人は間髪入れずに飛び出し、剣を振り上げる。大蛇は体の一部が崩れていたため、身動きが取れない。

 悠真は剣に風をまとわせる。剣に巻きついた風は、百メートルを超える長さの剣身となった。

 その剣を振り下ろせば、大蛇を頭から両断し、真っ二つにする。


「おぉぉぉぉぉぉん」


 崩れ落ちる大蛇から聞こえた弱々しい声。体は地に倒れ、土煙を舞い上げていたが、当然まだ死んでいない。

 悠真は有りっ丈の魔力を込め、何十もの"風の刃"を撃ち出した。

 敵の肉体を斬り裂き、両断し、吹き飛ばして削り取る。刃はそのまま飛んでゆき、街ごと斬り刻んでいった。

 強力な魔力によってつけられた傷は、そう簡単に再生できない。

 大蛇は分断された体をなんとか繋ぎ合わせようと、必死に藻掻いていた。

 だが、そんな間は与えない。悠真は剣を戻し、右拳に『液体金属』を集めていく。液体が集まった腕は倍以上の大きさとなり、巨大な鉄拳となった。

 その鉄拳に"風の魔力"を込めると、腕全体に緑の紋様が浮かび上がる。


「喰らいやがれ!!」


 下から上へと突き上げるアッパーカット。大蛇の体は風の力で吹っ飛ぶが、それだけでは終わらない。

 突き上げた拳の前で風が渦巻き、天を貫くような【竜巻】に変わっていく。

 大蛇の体は竜巻に引きずり込まれ、上空へと舞い上がっていった。竜巻の中は暴力そのもの、大蛇は刻まれ、引き千切られ、バラバラになる。

 竜巻は五百メートル以上の高さとなり、天と繋がっているように見えた。

 やがて渦巻く風が消えると、空から

 ドスン、ドスン、と多くの肉塊が落ちて土埃つちぼこりが舞い上がった。悠真は黙ったまま様子をうかがう。

 大蛇の欠片はビクンッと動き、カタカタと揺れてから一ヶ所に集まろうとする。


「とんでもねーしぶとさだな」


 悠真は呆れつつ、ある程度集まってきた黒い塊の前で、巨大な腕を引く。

 腰を落とし、左足を踏み込む。放たれたのは"正拳突き"。

 コングロマリットの体は潰れ、大地は割れ、風の暴力が爆発する。

 なにもかもが吹っ飛んでいく。ビルも、民家も、車も。風が収まり、土煙が晴れてくると、そこにはなにもなかった。

 数キロに渡り、扇状の更地になっていたのだ。

 全身に浮かんでいた"緑の紋様"が消えていく。風の魔力も切れたようだ。


「やっぱり長くはもたないか……」


 悠真は巨人の体のまま、大股で歩いていく。すると更地になった中央付近で、黒い物体が集まっていた。

 黒い物体は二十メートルほどの壁となって立ちはだかる。

 とても弱々しい感じがした。恐らく、これがコングロマリットの"核"の部分なのだろう。ウネウネと動きながら、こちらを威嚇している。

 もう、火の魔力も風の魔力もない。それでも――


「なめるなよ!!」


 悠真は全身に力を込める。体の表面に血管のような赤い筋がいくつも走った。

 ――血塗られたブラッディー・鉱石オア!!

 大地を蹴ると、地面が爆発したかの如く砕け散る。一瞬で相手との間合いを詰め、両拳を顔の前で構えた。

 繰り出されたのは怒涛のラッシュ。

 剛拳はコングロマリットの体をえぐり、削り飛ばしていく。黒い巨人の動きは残像が生まれるほど素早く、相手はまったくついて来れない。

 四方から繰り出される拳は数百発にのぼった。

 あまりの攻撃にコングロマリットはなにもできず、体を削られていくばかり。

 とうとう最後は軽自動車ほどの大きさになってしまう。黒い塊は「あぁあぁぁ」と唸り声を上げ、震えていた。

 これが巨大な魔物のなれの果て。

 悠真は容赦することなく、足を持ち上げ、そのまま踏み潰した。

 プチッと音が鳴ったように聞こえたが、どうでもいい。悠真は【巨人化】を解き、ゆっくりと体を縮めていく。

 人間サイズに戻ると、少し先のくぼみを見やる。

 そこには巨人がつけた足跡と、大量の砂だけが残っていた。悠真は砂がある場所まで歩き、しゃがんで砂を払う。


「やっぱりあったな」


 落ちていたのは黒い石。コングロマリットが落とした"魔鉱石"だ。

 悠真は指で摘まみ上げ、頭上にかざす。黒くつるつるとした表面。一見すれば金属スライムの魔鉱石と似ていたが、石には植物のレリーフが浮かんでいた。


「またこいつか」


 今までこの模様があったのは、『デカスライム』『キマイラ』『赤の王』『緑の王』の魔鉱石と魔宝石だけ。

 どんな意味があるのかは分からないが、【王】と、それに関係する魔物ということだろうか?

 なんにしても、変身した『金属鎧』の力を上げてきのは間違いはない。

 だとしたらこれも――

 悠真がそんな事を考えていると、遠くから声が聞こえてきた。


「お~~~い、悠真!」


 ルイが手を振って走ってくる。暗黒騎士ドンケルリッターは倒したようだ。

 まあ、あいつが負けるとは思っていなかったが。悠真の目の前まできたルイは、膝に両手をつき、ハァ、ハァと息を整える。

 顔を上げ、背筋を伸ばしたルイはニッコリと笑った。


「倒したんだね。コングロマリットを」

「ああ、こいつを拾った」


 悠真は植物のレリーフが入った魔鉱石をルイに見せる。


「これがコングロマリットの魔鉱石……どんな能力なんだろう?」

「それが分からないんだ。なんか色んな物を体に取り込んで、ぐっちゃぐちゃになる能力だったら怖くないか?」

「確かに」


 想像しただけでもゾッとする。果たしてこれは食っていい魔鉱石なんだろうか?


「魔鉱石と言えば、僕も……」


 ルイは自分のポケットをまさぐり、なにかを取り出す。見やすいよう手の上に乗せたのは、

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