第18話 変異種

 カンッ カンッ カンッ

 

 早朝、庭の一角でくぐもった音が響く。

 悠真は穴の中で体育座りをし、冷却スプレーで凍らせた金属スライムを恨めし気に金槌で叩いていた。

 その様子を、飼い犬のマメゾウは不思議そうに眺めている。


「ルイは‶赤のダンジョン″で強力な魔物を倒してるのによー。毎日毎日、俺はなんで金属の塊を叩き続けなきゃいけねーんだ!?」


 悠真はハァ~と溜息を着きながら、側に置いてあったガスバーナーを手に取る。

 シュボッと炎を噴射し、金属スライムを炙った後、金槌を振り下ろして止めを刺した。サラサラと砂になって消えてゆく魔物。

 金属スライムを倒し始めて392日。もう一年以上も続けている不思議な魔物討伐。

 黒い金属の‶魔鉱石″は更に二つ、計三個ドロップしていた。新たに手に入れた二つの魔鉱石は食べてみたが、問題なく体に取り込むことができた。


 金属化の効果は十五分ほどに伸び、五分ごとに解除することもできる。

 相変わらず何の役にも立たないが……。

 悠真は穴から這い出して家に戻り、朝食を食べて学校へ行く準備を始める。代わり映えしない毎日。

 数ヶ月後には高校の卒業を控え、悠真は大学を受験することにした。だが、本当に進路はそれでいいのかと日々悩んでいた。

 そんなある日、変化は突然起きる。

 いつものように穴に向かい、ガスバーナーや冷却スプレーを脇に置いて懐中電灯で中を照らす。毎日行うルーティーン。

 もう慣れ過ぎて流れ作業になっていたが、その日はいつもと違った。


「ん?」


 金属スライムがキラキラと輝いている。最初は光の反射かと思ったが、そうではない。


「金色!? 金色のスライム?」


 目を疑ったが、間違いない。悠真は穴に入り、冷却スプレーを噴射してスライムの動きを止めようとする。

 金のスライムはすぐに危険を察知し、ピョンピョンと跳ねて逃げ回る。


「くそ! ちょこまかと」


 心なしか普通の金属スライムより冷却スプレーが効きにくいように感じる。スプレー缶が切れそうになったので悠真は一旦家に戻り、冷却スプレーとガスボンベのストックを何本も持ってきた。


「絶対倒す!」


 明らかに金属スライムとは別のスライムだ。だとしたらドロップする『魔鉱石』も価値がある物かもしれない。

 悠真は少し興奮しながら冷却スプレーを両手に持ち、ダブル噴射で金のスライムに吹きかける。さすがに凍ってきたようで、スライムの動きは鈍くなってきた。

 完全に止まった所で、悠真は指で突っついてみる。

 感触は金属スライムと同じ、カチコチの金属だ。


「――てことは、金色の金属スライムってことか……突然変異かな?」


 脇に置いていたガスバーナーも二本取り、ダブルで炎を噴射する。凍っていたスライムは解凍され、慌てて逃げ回る。

 もう一度冷却スプレーで凍らせるが、普通の金属スライムよりダメージを受けにくいように感じた。悠真は根気強く冷却と過熱を繰り返す。

 なんとか六回目で表面にヒビが入り、七回目で破壊可能なほどボロボロになる。


「やっとか……ボンベ缶、使い過ぎたな」


 悠真は金槌を小さく上げ、金色のスライムに振り下ろす。パリンッと粉々に砕け、砂のように舞い散って消えていった。

 これは金属スライムと同じだな。と思っていると、スライムが消えた場所になにかある。懐中電灯で照らし、手に取ってまじまじと見る。


「こ、これ……魔鉱石か!? 金色の魔鉱石!!」


 それは二センチ程度の大きさで、つるつるとした楕円形をしている。黒の魔鉱石をそのまま金色にした感じだ。

 すぐに家に戻り、自分の部屋で改めて『金の魔鉱石』を眺める。

 まず売れるかどうかと思い、すぐにスマホで検索した。


「黒のダンジョン……金、魔鉱石……」


 検索してみても特になにも上がってこない。どうやら『黒のダンジョン』で金の魔鉱石が出たことは無いようだ。

 以前買った‶マナ指数測定器″を使ってみるが、数値はやはり『ゼロ』。


「これもゼロか、だとしたら使うことはできるな。それにこれが本当に‶金″なら宝飾店で売ることもできるんじゃ……」


 悠真は、ふと時計を見る。もう学校へ行く時間だ。売るか使うかは学校から帰って来てから考えるか。

 そう思って『金の魔鉱石』を机の引き出しにしまい、支度をして部屋を出た。


 この出来事が世界に波紋を広げるとも知らずに――

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