第247話 次の目標、ホーリーファイアの持続実験
それから数日間、慎重に六階で狩りを続け、女神の祝福が二七回になり、魔力ポーションも尽きたのでアルッポの町に戻ることにした。
いつものように五階村から出て四階を通り、三階野営地で野営をしてから翌日、地上へ向かう。
やっぱりこの移動時間が長すぎて無駄だなぁと感じるけど、魔力ポーションに使用期限があるから仕方がないし、現状では魔力ポーションを消費し続けながら狩りをした方が効率が良いのだからしょうがない。
もしここがアンデッドダンジョンではなく普通のダンジョンだったならターンアンデッド戦術が使えないので話は変わってくるのだけど。
などと考えていると一階に到着。ダンジョンを出た後の段取り等を考えながら入口に向かっている時、ふと思い付いたことがあった。
「……というか、Bランク魔石って売っても大丈夫なのかな?」
僕がBランク魔石を売るということはBランクエリアを攻略しているということで、しかも僕の場合ソロで攻略していることになる。しかもしかもついこの前、Cランクになったばかりなのにだ。
「う~ん……」
流石にペースが異常すぎる……か?
ついこの前、ダムドさんと話した時にCランクエリアに入ることを驚かれたばかりなのに既にBランクエリアに入ったとなると、ちょっと……いや、ちょっとどころじゃないぐらいおかしい気がするぞ。それに実際のところターンアンデッドで勝てているだけで、今の僕にはBランク相当の力はないはず。Bランクエリアにソロで入っていることを知られて悪目立ちし、僕に注目が集まってその辺りを調べられると余計に怪しく感じられるだろう。
せめてBランクエリアに入ってもおかしくない程度の実力を身に着けた後でないと変に勘ぐられるかもしれない。
そう考えると下級ポーションも売れないか……。
下級ポーションは五階村でアルメイル公爵の従士団が買い取っていたけど、あのポーリの父親でもあり、シューメル公爵と対立する可能性があるアルメイル公爵の利になることはしない方がいい気がして今まで売ってこなかったけど、これからも売らない方がいいかもしれない。
まぁ現時点ではお金には困ってないし、とりあえず暫くの間、Bランク魔石は魔法袋の奥に眠らせておこう。
別にお金が必要になった時に換金しても遅くはないよね。
今の僕は着実に強くなっている。順調にレベルも上がっているし、ダンジョンの攻略も順調すぎるぐらい順調だから、むしろこうやって早すぎる攻略ペースを隠すことを考える必要すらある。今はポーリにダンジョン探索で先を越されているけど、このペースなら逆転も普通にあるはず。話を聞く限りこのダンジョンは何十年もクリアされてないみたいだし、彼らもそんなに簡単にはクリアは出来ないはずだしね。
そう考えながらグッと拳を握りしめ、目の前に掲げた。
ダンジョンクリアという一つの目標がついに見えるところまで来た。そういう感覚がある。
思えば南の村で夢見たこの世界での冒険。古代遺跡にダンジョンクリアにアーティファクト。あの時はまだまだ先の話だと思っていたけど、今はその一つがすぐそこに見える。
まだ少し気が早いけど、やっぱり嬉しい。
「まぁ、僕は一歩ずつやっていくさ!」
そうすればいつかはダンジョンをクリア出来るはず。このままこのダンジョンで頑張ってればいつかはね。
ということで、ダンジョンから出て、今日はギルドに寄らずに宿屋で部屋を取り、ベッドにシオンを置いてから僕もその横に寝転がる。
「さて、これからのことについて整理しよう」
まず、レベル上げは今まで通りターンアンデッド戦術でなんとかなる。
順調にレベルを上げていけば、やがてBランクモンスターとも戦えるようになるはず。
ここまでは問題ない。
「問題はその先、かな」
ダンジョンの六階に入ることは出来たけど、七階に進むには高ランクモンスターが闊歩する場所で安全に野営する方法を考える必要がある。勿論それは七階だけでなく、その先の八階や九階に進むためにも必須だ。
そしてもう一つは八階や九階の情報。出来ればそれを集めておきたい。
とは言うものの……。
「こういう情報って、どうやって集めるんだろうね……」
「キュ……」
勿論、これまで情報が欲しければ冒険者にお酒を奢って話を聞いたりしたし、五階村ではそれなりの対価を払って情報を聞いたりもした。でもそういう情報って知ってる人がそれなりにいて比較的機密度が低い情報だったと思うのだ。
ヒボスさんに対価を払って聞いた情報にしても結局は知ってる人がそこそこいる情報で『出来れば広めたくないけど、対価を払うなら教えてもいい』『他のヤツが喋ってしまって対価を受け取るぐらいなら、むしろ俺が喋る』程度のレベルの情報だから彼は話したのだろうし。しかし八階や九階は本当に一部の一流冒険者しか情報を持っていないはずで、情報収集は難しい気がする。
「……情報屋でもいればいいんだけど」
そもそも情報屋ってどこにいるんだ? まずそこから分からないんだよね。
イメージ的には酒場とかにいそうな気がするけどさ。
まぁ地元の冒険者に聞けば知ってる人はいそうだけど、そういう裏稼業のヤツとコンタクト取って僕が変に興味持たれて逆に僕が調べられる側になるかもしれないのが少し怖くもあるし。
まぁ情報に関してはおいおい考えるとして、今は野営についてだろう。これがなければ六階の奥にすら進めない。
野営を安全に行う方法。王道なのが仲間だ。しかしこれは今の僕には色々とハードルが高い。僕のこのダンジョンの攻略を支えているのが誰にも話せないターンアンデッドという魔法だからだ。
とすると、どうするか?
「アテがまったくない……わけじゃないんだけどね」
ベッドから起き上がり、魔法袋からランタンを出す。主にロウソクを中に入れるタイプのモノ。エレムで買ったやつだ。
中にロウソクがセットされていることを確認し、魔法を発動する。
「神聖なる炎よ、その静寂をここに《ホーリーファイア》」
指先に現れた小さな白い炎をロウソクの芯に当てるとロウソクに白い火が灯り、辺りを蛍光灯のような乳白色に照らした。
ホーリーファイアでロウソクなどの可燃物に着火するとホーリーファイアの効果を持った白い火を灯すことが出来る。持続時間は大体一時間程度。ここまでは前に調べたので分かっている。
ホーリーファイアはどうやら聖火のようなモノらしく、モンスターはこれを嫌う傾向にあり、特にアンデッド系モンスターには効果が大きい。つまりこのホーリーファイアの火を長く持続させる手段を見付ければ、ダンジョンの中でも安全に野営出来る可能性が高いと思う。特にここのダンジョンはアンデッド系のダンジョンなので効果は大きいはずだ。
「問題はこれをどうやって持続させるか……」
そう、色々と考えを巡らせながらその日は眠りについた。
翌日、朝から買い出しに向かう。
しかしいつもの買い出しとは違い、今回はホーリーファイアの実験のために必要なアイテムを揃える目的もある。
いつもの買い出しをしつつ、いくつかの道具屋を巡って複数種類のロウソクとランタンの燃料になる油などを購入していく。
実験には時間が掛かりそうなので、これからはダンジョンを攻略しながら夜にゆっくりと実験をしていく予定だ。
そうして鍛冶屋で釣り針の残りを受け取り、いつもの錬金術師に魔力ポーションを注文し、教会で祈ったり町を散策したりした。
「よしっ! これから忙しくなるぞ!」
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