第137話 状態異常回復と模擬戦
「うっ! ぁぁ……」
これは、何だ? どうして手に血がついている? いったい何が起こっているんだ?
唐突な吐血に動揺して頭が回らず、様々な言葉が頭の中を支配していく。
「ダメだ、冷静に……冷静に」
気持ちを落ち着けながら自分の体を確かめると、胸の奥に違和感を見付けた。痛みはないけど妙な重たさがあった。
「胸の奥……」
――普通はの、進めんのじゃよ。死の粉が濃すぎて胸の中がやられてしまう。
ボロックさんの言葉を思い出した。
その言葉をゆっくりと頭の中で反芻する。そして他の可能性も含めて自分の考えをまとめていく。
やはり――
「死の粉の悪影響……である可能性が高い、か……」
しかし何故、今? ……いや、それはいい。今はそれより、これからどうするか、だ。
やれる事は色々とある。まずはホーリーライト。回復魔法だけど今はこれじゃないような気がする。次は浄化。死の粉は浄化で無効化出来たけど、体内? の死の粉まで浄化出来るのだろうか? いや、それ以前に浄化で発生する例の白い粒が体内に生まれるはずだし、それが体にどう影響するのかが分からないし現時点では保留だ。そしてリゼから貰った薬。これは何の薬か分からないので、とりあえず保留。となると……。
「ホーリーウインド、かな……」
ホーリーウインドは状態異常を回復する魔法。効果としては今の状態に相応しくはある。それに使ってもデメリットはないはず。とりあえず試してみて損はない。
結論は出た。お腹の奥から魔力を取り出して体内を循環させ、そして呪文を詠唱する。
「神聖なる風よ、彼の者を包め《ホーリーウインド》」
右手を胸に当てながらホーリーウインドを発動した。右手に集まった魔力が流れ出し、僕の右手から生まれた風が優しく全身を包み込み、僕の服を髪をパタパタと揺らす。体内を癒やすようにと意識しながらゆっくりと時間をかけて魔法を使った。
数十秒後、胸の奥の重たさが消えているような気がした。
「……治った、のか?」
そもそも吐血するまではっきりとした症状もなかったし、今の状態で治っているのかどうか判断しにくい。胸はさっきよりスッとした気がするけど……。とりあえず、暫く様子を見る、か。
そう考えながらベッドに倒れ込むように転がり、目を閉じた。
◆◆◆
「それでは始めるとするかの」
ボロックさんはそう言いながら右手に握った木剣を構えた。それを見て僕も二メートル程の木の棒を構える。
朝、起きてストレッチをしながら体を確かめてみたけど、体に違和感はなかった。ちゃんと治っていると思いたいけど、今はまだ何とも言えない。
そんな多少の不安を抱えながらボロックさんと朝の食事をしていると、こう言われたのだ。
――少し手合わせでもしてみんか?
そうして今に至る。
「よいかの。わしの事は、お前さんより格下のモンスター……そうじゃの、ゴブリンだとでも思ってやってみる事じゃ」
「ゴブリン、ですか」
「そうじゃ。理由は後で言うからの」
そう言ってボロックさんはゆらゆらと剣先を揺らしてみせた。
う~ん、ゴブリンと思えと言われても困ってしまう……。似ているのは身長ぐらいだろうか? それ以外に似ているものがない。手足なんかはゴブリンの腰ぐらいあって完全に別物だし。
「ほれ、はようかかってくるのじゃ」
「分かりましたよ」
まず様子見程度に一歩踏み込んで突きを入れてみた。するとボロックさんはそれを木剣で軽く弾いた。
やっぱり、この人は強い。髪や髭には白髪が混じり始めている歳。既に一線は退いているのだろうけど、それでもその動きの一つ一つに力強さを感じる。
「ほれ、どうした。かかってくるんじゃ」
「ゴブリンが相手なら、今の一撃で終わってるはずなんですけどね」
「……ふむ、まぁ細かい事は置いといて――手が止まっておるぞ!」
そう言いつつ放たれた薙ぎ払いをバックステップで回避した。
突きを入れ、弾かれ、振り下ろしを避け、突きを入れて弾かれ。何度か打ち合った後、二人の距離があく。
「ほっ!」
次の瞬間、ボロックさんがこちらに飛び込みながら大上段から木剣を振り下ろしてくる。それをサイドステップで回避しながら突きを放つ。その一撃が、がら空きの脇腹へと吸い込まれ、鎧に弾かれてカツンという軽い音を立てた。
「ふむ、やはり予想通りじゃの」
そう言いながらボロックさんは構えを解く。そして言葉を続けた。
「お前さんの技。その問題点がよく分かったわい」
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