ランクフルトと森の村

第31話 冒険への第一歩

 何だかんだありつつ村の中央の広場へと移動して商人二人と合流し、軽い挨拶を済ませ、すぐ出発する事になった。

 どうやらダンが昨日、僕の事を依頼主の商人達に話しておいたらしく、特に揉めるような事もなかった。


 実は少し、普通ならこういうのってマズいのでは? と思ってたんだ。

 護衛に雇った冒険者が出先の村で勝手に同行者を見つけて道中に加えようとする。

 怪しさ抜群だろう。

 話を聞いていると、どうも依頼主はメルの実家の近所の商人らしく、昔からの知り合いだったみたいだ。

 でなきゃ普通は認められないのでは? と思う。


 馬車二台を引き連れて村の門へと向かうと、腕を組んで門の柱にもたれかかるようにハンスさんが立っていた。

 ハンスさんは僕を見付けると、「よう」と一言、僕を呼び止める。


「水くせぇじゃねーか。村から出るなら一言ぐらい言っていけや」

「会えた人にはちゃんと挨拶しましたし、ハンスさんの事も探してたんですよ。でも宿にもギルドにもいなかったじゃないですか」

 僕がそう言うと、ハンスさんは「そりゃあこの村に家もあるし、そんな朝からガッツリは働かねぇからな」と言った。

 ハンスさんは言葉を続ける。

「まあ、ここは始まりの村だ。この村に来た奴はいつかは旅立っちまう。お前がこうやって出て行くのも必然だ」

 そう言ってハンスさんは柱にもたれかかっていた体を柱から離すと、こちらに歩いてきて、僕に顔を近づけ目線を合わせてから言葉を続けた。

「あの魔法な、使う時は注意しろよ。あれが何なのか俺には分からねぇ。が、分からねぇからこそ分かる事もあるんだぜ」

 そう言うだけ言って、ハンスさんは「じゃあな」と手を軽く上げて村の中へと戻っていった。


 この瞬間、僕は少し硬直してしまった。

 僕がホーリーライトを使った時のハンスさんの言動から、彼が何かを訝しんでいる事は分かっていた。でも、あのホーリーライトの魔法がどういう類のモノかまでは分かってはいなかったと思う。

 それでも、こうやってわざわざ会いに来て忠告までしてくれた、という事は、確証はないながらも、あの魔法を見て普通の魔法とは違う明確な違和感があった、という事だと思う。

 そうなると、次の問題は、あの魔法を見てどれぐらいの人が違和感を持つのか、というところになる。

 もう一度、あの時の状況を思い出してみる。

 ハンスさん以外に何か違和感を持っていそうな人はいただろうか?

 うーん……分からない。

 あの魔法を見て驚いていたような人も多かったが、それがどういう驚きなのかが分からないから何とも言えない。

 ハンスさんは、その歩き方を観察したり過去の話を聞く感じでは、かなり腕が立つと僕は感じた。そこから考えると、少なくとも高ランク冒険者や、あとは回復魔法を専門とする教会関係者などの前では使わない方がよさそうな気がする。


 しかし……そうは言っても難しいものがある。

 僕は既にヒーラーとして、このパーティに所属してしまっているからだ。

 今さら、回復魔法なんて使えませんよ、なんて下手なジョークみたいな話をするわけにはいかない。もう彼等の前でド派手にホーリーライトをぶちかましてしまった後だ。仮に言ったとしても、何言ってんだこいつは、と思われるだけだろう。

 それは流石に無理だろう。

 となると、何か次の手を考えないといけない、という事だ。

 まず考えられるのは、あのド派手な演出を――


「いーつまでボーっとしてんの! 置いていくわよ!」


 離れたところから、メルの声が聞こえる。

 そちらを向くと、馬車が僕を置いて、道をどんどん進んでいるのが見えた。

 ヤバい。ハンスさんと話して、そして考え込んでいる内に置いていかれた。


 そこで僕はまた、村の方を振り向く。

 歩き去っていくハンスさんが見えた。

「……」

 今からハンスさんを追いかけて、あのホーリーライトの何が問題だったのか、ハンスさんが何に違和感を持ったのかを聞きたい。そうすれば色々と分かる事もあるはずだ。

 どうせハンスさんが既に何か違和感を持っているのであれば、ホーリーライトについてバレないように気を使い、回りくどい言い方でごまかしながら聞くような事はしなくてもいいかもしれない。直接的な質問で答えを聞く事もアリだろう。それは後で試行錯誤しながら問題点を探し出すよりも楽なはずだ。


 もう一度、馬車の方を見る。

 三人は馬車に合わせて進みながら、こちらを見ていた。

 躊躇い、葛藤、メリット、デメリット、色々な要素が頭の中でぐるぐると回り、脳内を駆け巡る。

 数瞬後、僕は目を閉じて大きく息を吸った。

 そして――。


「はぁ……。何を悩んでるんだか」


 息を吐き、そう小さくつぶやきながら馬車へ向けて走り出す。

 そう。今さら村に戻るなんてありえないじゃないか。


 僕はもう、歩き始めたのだから。

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