第205話 黄金竜の巣?へ

「大丈夫ですか?」

「あぁ、ちょっと切られちまった」


 ダリタさんの腕を見ると、パックリと裂けて血が滲んでいた。

 でも、木をも斬り倒すキラーマンティスの一撃を受けてもこの程度で済むというのは流石、女神の祝福の力ってところか。


「光よ、癒やせ《ヒール》」


 そしてその傷も僕の回復魔法で元通り治る。やっぱり凄い世界だ。

 その後、キラーマンティスやファンガスを倒しながら川沿いに森の中を進み、日が暮れかけてきた頃、開けている場所で野営することになった。どうやらまだまだ着かないらしい。


「大地よ、我を守る壁となれ《ストーンウォール》」


 ボロックさんが魔法を使うと、地面がせり上がって大きな壁が出来上がる。

 以前ランクフルトでスタンピードが起きた時、モンスターの突撃を食い止めるために使われていた魔法だ。

 ボロックさんはストーンヘンジのように円状にいくつかの壁を作っていく。


「虫除けは持ってきたかの?」

「はい、用意してあります」

「では火を使うか」

「それがいいでしょうね」


 ボロックさんとミミさんの間でそういう会話が行われ、ミミさんが魔法袋の中から布袋を取り出した。


「では皆さん、火を使うことにしましたので薪を集めてきてください」


 そう言われて周囲を見渡す。

 幸い、森の中には倒木やら枝などがそこら中に落ちていて、燃やす物には困りそうにない。

 いくつか拾い集めて戻るとストーンヘンジの中心部分に焚き火が出来ていて、ミミさんがその火の中に布袋から取り出した粉をまいていた。まかれた粉は火の中でパチパチと弾けてボワッと燃える。


「これを燃やすと虫系のモンスターが嫌がる煙が出ますので、火の番をする人は適量燃やしてくださいね」


 なるほど、蚊取り線香的な効果なんだろうか? どういった成分なんだろう。

 気になって、焚き火の近くに置かれた袋の中に手を入れ、中身の粉を取り出してみると意外と粉というより粒が大きく、なにかの葉っぱとか茎とかを乾燥させて細かく砕いたモノに見えた。よくスーパーマーケットに売ってた乾燥バジルみたいな、パスタに振り掛けたら美味しそうな感じのヤツだ。


「これってなんの葉なんです?」

「さぁ……薬屋にでも聞くしかないんじゃないか。まず教えてくれないだろうがな」


 サイラスさんがそう答えた。

 まぁ、そりゃそうか。それが飯の種なんだろうし。

 そうしていると、ミミさんがこちらに歩いてきた。


「今回は虫系モンスターが出る場所で、虫除けもあるので火を使いますが、火を使うとモンスターを呼び寄せる場合もありますので注意してくださいね。特に知能のあるモンスターは火を怖がりませんから」

「分かりました」


 そりゃそうか。よく考えてみると、以前野営したランクフルトから森の村への道に出没していたのはフォレストウルフだったし、火を使うのは正解だったと思うけど、これがゴブリンなど、ある程度の知能があるモンスターだと意味がなかったかもしれない。しかし……。


「あの、火を使わない場合って、どうやってモンスターの襲撃を警戒したらいいのですか?」


 火は要するに明かりでもあるわけで、なければ真っ暗闇だし、真っ暗闇の中だと敵の存在を感知しにくいはず。


「それは、人にもより、場合にもよりますね。例えば土属性の術者がいる場合、ストーンウォールで周囲を囲むのも一つの手ですし」


 そう言ってミミさんは周囲をチラリと見た。

 周囲にはボロックさんが作った石の壁がいくつも隙間を空けて並んでいる。

 なるほど、これを隙間なく並べて囲んでしまうのか。確かにそれは一つの手だ。


「あとは……モンスターの位置を知るための魔法もありますからね」

「なるほど……ミミさんは、そういう魔法を使えるのですか?」

「さて、どうでしょうね?」


 はぐらかされてしまった。人の能力を詮索したり隠し玉を探ろうとするのは冒険者の間じゃ褒められた行為ではないとされているので、これぐらいで止めておこう。

 いや……そもそもミミさんって冒険者なのだろうか? メイドなのでは? いや、メイドがこんな場所に来るはずがないじゃないか、ははっ。……まぁそれはいいとして。そういう魔法は以前見た魔法の本には載っていなかったけど、やっぱり存在するのだろう。ということは、以前の幽霊騒動の時、ミミさんが僕の動きを把握してたっぽいのはその魔法が関係しているのだろうか? さっき見た感じではミミさんの得意属性は闇。闇と聞いて連想するのは隠密的な効果。さて……。


「強い冒険者はいくつも身を守る手段を持っているのですよ。そういった手段がまだない低いランクの内は自分達だけで野営をするのは命取りになりますから、気を付けなさい。野営をするなら、こうやって多くの人数を集めた方が安全です」


 そう言ったミミさんは、いつもとは違って先輩冒険者の顔をしていた。

 そしてなんとなく、まったく似ていないハンスさんを思い出したのだった。


◆◆◆


 朝、配られた乾燥肉を口に放り込みつつ出発。

 昨日の話を思い出す。

 最初、この人数で黄金竜の巣を目指すと聞いた時、少し人数が多すぎるのでは、と思った。RPGとかだと大体三人か四人ぐらいのパーティを編成することが多かったし、ゲームによっては馬車の中に仲間がいるのに決められた人数しか戦闘に参加出来ない的な謎ルールがあったりもしたし。なんとなくファンタジー世界のパーティはそれぐらいの人数でやっていくモノなのだという固定観念があったのかも。

 以前ランクフルトから森の村への道中で野営した時は四人だけしかいなかったのであまりよく寝られなかったけど、今回は九人いるから見張りの時間も短くてかなり楽だ。体への負担も少ない。一日だけなら少人数でもなんとかなるけど、こうやって野営が続く環境だとある程度の人数がいないと厳しいかもしれない。

 もしくは、ミミさんが言っていたように、強い冒険者になって身を守る手段を身につけるか。

 というか、将来的に未開拓地に入って遺跡などを探すなら、そういった身を守る手段は必須だよね。一人とか少人数で野営しても大丈夫なスキル、魔法、アイテム、等々。

 なんとなく将来の目指すべき方向性が見えてきたかも。


 そんな感じでモンスターを倒しながら森の中を進んで数時間、薄暗かった森の奥に光が見え始め、急に森が開けて空が見えた。


「あ、あれは……」


 誰かが驚きの声を上げた。

 一面に広がる湖。緑の草原。岩肌むき出しの山々。


「ちょっと待て! おい、爺さん、あれはなんだ? あんなモノは聞いてないぞ!」


 ゴルドさんがボロックさんに詰め寄って叫んだ。

 緑の草原の先。ゆっくりとした坂を上った先にあったのは、建物。建物。建物。

 丘の上、切り立った山の側にあるのは、町。

 石造りの建物の町がそこにあった。

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