第189話 オリハルコンの指輪の検証実験と
クランハウスに戻り、夜は打ち上げにしようと約束して皆と別れた。
黄金竜の毛についてはルシールが持っていった。早速研究するのだろう。はてさてどんな研究をするのやら。
……研究に没頭して夜になっても出てこない可能性があるけど、まぁその時は迎えに行けばいいか。
自室に戻ってシオンと背負袋を下ろしてベッドに腰掛ける。
今日は早めに帰ってきたから夜まで時間がある。さて、なにをしようか――と考え、腰の魔法袋に手を入れてアレを引き抜いた。
「やっぱこれを調べないとね」
手にしたのはオリハルコンの指輪。ずっと調べたいとは思っていたけど、これ以上、文献などで調べるのは無理っぽいし。人に聞いて回るのも怖いぐらいには価値があるモノみたいだし。自分の指にはめるのもちょっと怖くて躊躇していた。でも、なにか能力がありそうなこの指輪をバッグの底に眠らせておくのももったいない。ということで装備して調べてみることにした。
「いざ!」
オリハルコンの指輪を左手でつまみ、右手の人差し指に入れていく。
「……」
キッチリとはまった指輪を確認して、そして抜いてみる。
指輪は特に抵抗もなくスポッと抜けた。
「……はぁ」
良かった……デロデロデロデーデデンで『呪いでオリハルコンの指輪がはずれない!』なんてことになったら目も当てられない。まぁなんとなくだけど、これはそんなに悪いモノではないような気はしてたんだけどね。
軽く息を吐き、指輪をもう一度はめてみる。
部屋を見回してみるがなにも変わった様子はない。以前、見たように人には見えないナニカが見えるかもと思っていたけど、現時点ではそれはなさそうだ。
次は、と。
「光よ、我が道を照らせ《光源》」
とりあえず一番簡単な魔法を使ってみた。
様々な情報から考えて、この指輪が影響を与える可能性が高そうなのは魔法だと感じたからだ。
で、その結果は……。
「……使いやすくなったような、なってないような」
効果があるよと言われたら効果があるし、ないよと言われたらないような。要するにフラフープ効果……じゃなくてプラシーボ効果ぐらい。つまりよく分からない。
「ん~、魔法の効果が上がる的な単純なモノではないか」
そう考えながら頭上に浮かぶ光球を右に左にと動かしてみる。
右にスーっと、左にクルクルっと。
「……あれっ?」
なんか、以前よりスムーズに光球を動かせている気がする。これはプラシーボとかではなく、確実に。
念の為、指輪を外してから試してみる。
右にズズッと、左にユラユラっと。
「やっぱり指輪がないとちょっと操作が難しくなるな」
つまりこの指輪を付けると魔法制御的な能力が上がる、とか?
でもそうなるとあの幽霊的な女性の説明が付かない。あの時は指輪を外していたし。
いや、この指輪の効果が一つだけとは限らない。複数の効果があるアイテムってMMORPGとかだとよくあったし、そういうこともあり得る。
そもそもあの幽霊的な女性とこの指輪が関係している、というのも僕の予想でしかないしね。
「もっと他に試してみようか」
室内で問題なく使える魔法を試していく。
「光よ、癒やせ《ヒール》」
「不浄なるものに、魂の安寧を《浄化》」
「神聖なる光よ、彼の者を癒せ《ホーリーライト》」
「なるほどなるほど」
端から使ってみてなんとなく掴めてきた。
まず、ヒールの効果が上がっているっぽいこと。しかしホーリーライトはほぼそのまま。
同じ回復魔法なのに二つの魔法に違いが出るのは、恐らくヒールとホーリーライト――属性魔法と神聖魔法とでは効果量に影響を与える要素が違っていて、このオリハルコンの指輪はヒールの効果量に影響を与える要素を増加させる効果がある。それは例の白い場所で見たアビリティから考えるとMNDあたりだろうか。MNDは精神とか回復魔法とか魔力に関係するパラメータだったはず。
そして浄化の効果も上がってなかったけど、やっぱり魔法の制御が少しやりやすくなっていた。これは恐らくMNDが魔法制御にも関係するパラメータだからなのでは?と思ったけど、確証はない。
あと、そうなってくると神聖魔法の効果はどうもPIEで上がってる気がする。PIEって確か信心とか信仰とかそんな感じのパラメータだったし。
まぁこのあたりがどうだったとしても現状どうしようもないんだけど。
……いや、もしかして、筋トレしたらSTRが上がるみたいな感じで訓練すればPIEとかも上がるのだろうか? でも仮にそうだとしても上がっていることを確かめる手段がない。現時点ではパラメータを確認する手段がないからだ。
それに信心を訓練するってどうやるんだ? 教会に行ってお祈りでもすればいいのだろうか?
特にこの世界の神を崇めているわけでもないし、この世界の神についてはよく知らないけど、もしかすると教会でやってる修行的なモノを僕もやっていけば神聖魔法の効果が上がるかもしれない。
あまり宗教には近づきたくない気もするし、文献などから調べてもいいかも。
一通り思考がまとまったので残りの魔法を試していく。
「神聖なる炎よ、その静寂をここに《ホーリーファイア》」
「神聖なる風よ、彼の者を包め《ホーリーウインド》」
「神聖なる大地よ、その息吹をここに《ホーリーアース》」
手の中に一センチぐらいの丸い石が転がった。それを指でつまんでクリクリと回転させる。
やっぱり効果は変わらないけど制御がやりやすくなっているね。
しかし、いつものように虹色に輝いていて宝石のように綺麗だ。
いや、ある意味では宝石より凄いかも。売ったら凄い値段になりそうな気もするけど怖すぎる。
ホーリーアースを覚えてから、寝る前に魔力が多めに余ってたら作ってはストックしているけど、サモンフェアリーしか使い道がないから少々持て余してるんだよなぁ。でも神聖魔法で触媒として使ったということは他にも聖石がないと使えない神聖魔法があるはずだし、将来的には大量に必要になってくるだろうから沢山作り置きしておく意味はあるんだけど。例えば万が一だけど、誰かに魔法袋を覗かれた場合、聖石が少量なら『綺麗だから拾った』とか『行商から買った』という言い訳が出来ないこともないけど、大量にあったらそういう言い訳すら難しいからちょっと怖いってのもある。まぁ以前、光魔結晶の時はその言い訳でまったく通用しなかっただろ、と言われてしまえばお終いなんだけど。
それにしてもこのホーリーアースも最初は魔力の半分ぐらい持っていかれたけど、今では四分の一も使わなくなっている。それだけ僕の魔力量が上がったということなんだろうけど――って、今はそんなことはどうでもいいか。
聖石も作ったし、指輪の検証がてらリゼを呼んでみよう。
「わが呼び声に答え、道を示せ《サモンフェアリー》」
空間に立体魔法陣が浮かび上がり、いつものようにリゼが現れた。
「こんにちは!」
「うん、こんにちは」
「キュ!」
なんだか久し振りにリゼを呼ぶ気がする。だがしかし安心してくれたまえ。それはまったくの気の所為なのだから。
最後にリゼを呼んだのは一週間ぐらい前の話でしかない。まったくもって久し振りではないのだ。しかし何故こんなに久し振りな気がするのだろうか? なんだか長い期間、会っていなかったような……うっ、頭が。
まぁ人間、知らなくてもいいこともあるか。
「あのね、あのね! おっきなドラゴンさんがいるの!」
「うんうん、それって金色の?」
「そう! でね、そのドラゴンさんはお仕事中なんだけど、喧嘩しちゃダメだよ!」
……お仕事中? おいおい、黄金竜ってサラリーマンなの? ……ドラゴン界にも仕事があるのか……。いや、それ以前に喧嘩しちゃダメって、あんなモノに喧嘩売れるわけないし、そんな状況になったらワンパンKOどころか指先一つでダウンですよ。勿論、僕が。
と、シオンとじゃれ合っているリゼを見ながら思う。
「大丈夫だよ。喧嘩にはならないからさ!」
「よかった!」
「キュキュ!」
と、話していると部屋のドアがノックもなしにガチャリと開いた。
「おそーい! 打ち上げに行くよ! ……おおおおおおおおお!?」
「っぉ? ぉおおおおおおああああああああああああ!?」
ドアの向こうでリゼを見つめながら驚きの声を上げるシームさんがいた。
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