第188話 発見

「マジか!? どこだ!?」

「えぇー! 本当にあったんだ」


 サイラスさんとシームさんが急いで駆け寄ってくるのを確認してから左手に持った木の枝で「あれ」と真上を指した。


「あれ……って、どれだ?」

「う~ん?」


 二人は頭の位置を右へ左へズラしながら生い茂る葉と葉の間から上を覗こうとしているけど、見付けられないみたいだ。

 それもそのはず。僕が指している場所は目の前に生えている五メートルぐらいの大きさの木の上の方にある枝。そしてそれに引っかかっている一本の糸――黄金竜の毛。地上からでは少し見えにくい。


「ほら、あそこで金色に光ってない?」

「……ああっ! 確かに!」


 サイラスさんはそう叫んだかと思うと木に飛びついた。枝を掴んで登ろうとするも、どうやら上手くいかないようだ。


「クソッ! 鎧が邪魔だ! こんなことなら鎧なんて着てこなきゃよかった!」

「なーに言ってんの、鎧は必要でしょ」


 シームさんがそう言いながらサイラスさんを木から引っ剥がし、枝を掴んで器用に登っていく。そしてものの数秒で黄金竜の毛までたどり着き、その毛を掴んでサッと降りてきた。


「ほい」


 皆の前に差し出されたそれは黄金色に輝く糸。太さは一ミリ近くあって丈夫そうに見える。


「マジか! マジか! これは本物だろ!? ……っくぅ! 俺にもついにSランク素材を!」

「おちついて」


 ルシールがテンション上がりまくりのサイラスさんをたしなめ横に押し出しつつ黄金竜の毛を手に取った。


「見た目は金色。金色の毛を持つモンスターはこの付近には黄金竜のみ。毛根も残っている。黄金竜の毛と断定してほぼ間違いない。毛にしてはかなり太い。流石、大型モンスター。手触りは意外と柔らかい。この柔らかさで本当に噂ほどの強度があるのか確かめる必要がある。耐刃性検証にはミスリル製の刃物とオリハルコン製の刃物が必要か。……まずはこの鉄のナイフで確かめ――」

「お前もおちつけ」


 シームさんがルシールの額にチョップを入れ、黄金竜の毛を奪い取る。

 いつもは一番はしゃいでるシームさんがこういう時に一番冷静なのが面白い。

 でも、なんか良いチームだよね。


「とりあえず本物なんだよね。じゃあ帰ろ!」

「なっ! お前、一本あるんだからまだ他にもあるって!」

「だって二人共それどころじゃなくなってるじゃ~ん! これ以上は無理でしょ」


 一本あったら二本三本ってキノコじゃないんだし、そんな連続では見付からないよね。それにサイラスさんとルシールがソワソワしていて、これ以上、外での作業は難しそう。ここはシームさんが言うように切り上げた方がよさそうだ。

 そんなこんなで森を出て町へ向かう。

 太陽はまだ天辺より少し傾いてきたぐらい。昼休憩の後すぐに黄金竜の毛を見付けたからまだ一時とか二時ぐらいだろう。

 空は青く、風が気持ちいい。

 そういえば今日は森の中に入ったのにモンスターとは遭遇しなかった。黄金竜が移動してからモンスターの数が減っているという噂は確かなのかもしれない。よく分からないけど黄金竜の移動が人間界に大きな影響を与えているようにモンスター界でもなにか大きな影響を与えているのだろう。

 街道に出て荷馬車や箱馬車とすれ違いながら歩いていると、先頭のサイラスさんが振り返りながら口を開いた。


「黄金竜の毛なんだがな、自分で使いたい奴はいるか?」


 皆を確認するとルシールだけが軽く手を上げていた。


「分かった。ルークは、いいのか? 遠慮はしなくていいんだぞ」

「僕は……」


 勿論、黄金竜の素材に興味はあるし持っていればいつかどこかで使うかもしれないけど、今は具体的な使い道が思い付かない。そりゃソロの時に見付けたなら使い道が思い付かなくても魔法袋の奥にストックしておくけど、パーティで見付けた以上は全員で分ける必要があるしさ。


「僕はいいかな」

「そうか。俺はこれを公爵様に献上するか大きな店に売りたいと思ってる。毛の一本では爵位は無理だろうが、それでも黄金竜の毛だ。褒美はくれるだろうし悪い扱いはされないだろう。それが無理なら大商人だな」


 なるほど。相手にもよるんだろうけど価値のあるアイテムを有力者に献上することでコネを作って名を上げるのもアリなんだろう。……いや、この毛の価値にもよるけど下手に小銭に変えるよりお金で買えないモノを得た方が断然価値があるか。今の僕にそれが必要かどうかは別として、上に登れる才能のある冒険者ならそっちだろう。それに献上といっても『黄金竜の毛をあげます』『ありがとさん。ほんじゃ帰ってええぞ』では流石に終わらないと思う。……終わらないよね? 勿論、そういう貴族もいるんだろうけど、そんなことをしていては評判も落ちるだろうし、なんらかの褒美は貰えるはず。幸いこの地を治めるシューメル公爵は武人という噂。評判も良いみたいで、クランとも関係が深い。シューメル公爵の娘であるダリタさんと話した感じでも悪い印象はない。そう悪いことにはならないと思うけど。


「ルシールはどうしたいんだ?」

「私は研究」


 ん~、やっぱりそうだよね。ルシールらしい。


「うーん、それなら数日間、この毛を預けるからその間にルシールが研究して、その後で公爵様に献上するってのはどうだ? 勿論、切ったり燃やしたりはナシだぞ」

「……それでいい」


 うん、釘を刺されなければ絶対に切ったり燃やしたりしてたな、この子。さっきも耐刃性の検証がどうとか言ってたし。


「シームとルークはどうだ?」

「僕もそれでいいと思う」

「お腹すいた~」

「キュ!」

「よしっ! じゃあそれで決まりだ!」


 今の所、貴族とのコネが欲しいとは特別思わないけど、後々のことを考えたら貴族という存在を知っておきたいとは思う。そういう意味で貴族には興味があるし、会うなら比較的安全そうなことが分かっている相手の方がいい。

 まぁ成るように成るでしょ。


「俺はダリタに繋ぎを頼む。暫く時間がかかるだろうから、それまでの間は好きにしててくれ。公爵様の都合が付き次第、全員で会いに行こう!」


 サイラスさんはそう言ってニカッと笑った。

 やっぱり名を上げるって冒険者にとっては一つの大きな目標なんだなぁ。まぁ、こういう世界である以上、富と名声は人生の最大目標になりやすいよね。

 ……しかし、公爵様に会うって、よく考えたらルシールと公爵様って兄妹になるはずだよね。そのことって一体どこの誰まで知られている話なんだろうか? 公爵様の父、亡くなられた前公爵はルシールのことをどこまで周囲に話したのだろうか?

 ルシールが公爵邸に迎えられていない以上、知ってる人は少ないとは思うけど。公爵様はそれを知っているのだろうか? 知っていた場合、ルシールが会いに行ったらどう思うのだろうか。

 まぁ、ルシールが特に問題だと思っていないのなら、僕からどうこう言う話ではないか。

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