第303話【閑話2】鉱山管理人の憂鬱

 日の差さない鉱山の中の埃っぽい部屋。

 鉱山管理人の男は手紙を読み、スラリと立つ若い商人風の男に怒りをぶちまけた。


「ふざけてるのか!? 鉱石の買い取りを止めるだと!」


 鉱山管理人は机をドカッと殴りつけ、そのまま殴りかかかりそうな勢いのまま手紙を持ってきた男を睨んだ。


「いえ『買い取りを止める』などとは申しておりませんよ。我々は『一時的に中断したい』とお願いしているのです」

「どちらでも同じだ! 契約を破ると言っているのには変わりないからな!」


 商人風の男は苦笑いを浮かべる。


「滅相もない。契約を破るなど考えたこともございません。故にこうしてお願いに参上しております」

「そんな『お願い』とやらが聞き届けられるとでも思ったか! 鉱業は国営事業……この国の主幹産業だぞ! 国がそんなことを許すわけがない!」


 二人の論戦は平行線を辿る。

 が、商人風の男が状況を打開出来る言葉を吐く。


「ご心配には及びません。この件については既に王太子殿下から了承を得ております。勿論、公爵閣下にもですよ。後は管理人のあなたに承認していただければ全てが丸く収まります――さあ、こちらが殿下からの証書です」

「ぐっ……」


 机の上に置かれた手紙には王家の紋章でシーリングされていて、それがほぼ確実に王家の誰かからの手紙だと分かった。

 王太子と公爵が出てきた以上、既に商人とは裏で取引が終わっているはず。つまり、ここで鉱山管理人がゴネたところで結果は変わらない。ただ意のままに動かない鉱山管理人がクビになるか『なんらかの事情』で仕事が出来なくなるか――とにかく拒否する意味はなかった。

 そのことに気付きながら、鉱山管理人は王太子からの手紙を確認した。


「……はぁ」


 そして引き出しの中から紙を取り出して、なにやら書き込んでから印を押し、それを雑に机の奥へと滑らせる。

 商人風の男はそれを受け取り、中を一読してジャケットの内側に収めた。


「ご理解いただけたようで、我が主も喜びます」


 それだけ言って商人風の男は足早に部屋から出ていく。

 鉱山管理人はその背中に「私は、どうなっても知らんからな」と言葉を投げる。

 商人風の男がそれを聞いていたのかは分からなかった。

 暫くして鉱山管理人は部下を呼び、次の命令を出した。


「雇う鉱山労働者の数を減らせ。それから倉庫が満杯になり次第、鉱山の操業を停止する」

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