そして時はさかのぼる

第302話【閑話1】冒険者は大移動する

ここからは時系列がズレ、閑話ベースで話が進みます。



――――――――――



 時は冬の初めにさかのぼる。


「なんだと! それは本当か!?」


 イスペップ村戦士団のメンバーが聞いた情報はにわかには信じられないモノだった。

 なんとアルッポのダンジョンが攻略され、消滅したというのだ。

 イスペップ村戦士団はザンツ王国サリオール伯爵領内にあるイスペップ村を拠点とし、村の警備を行っている冒険者パーティだ。団員も代々村出身者の跡取り以外で構成され、普段は村から出ることは少ない。しかしモンスターの襲撃が少ない冬の間は仕事がなくなるため、別の町に出稼ぎに出ることが慣例となっていた。そして、イスペップ村では長い間、冬はアルッポのダンジョンに行くというのが当たり前になっており、別の場所に行くという考えは誰にも、頭の隅にすら存在していなかった。


「落ち着いてください。これは事実です。先日、確かにアルッポのダンジョンは消滅しました。このギルドでも確認済みです」

「そんな……」


 受付嬢にそう言われてしまうと信じるしかない。

 しかしアルッポのダンジョンが消滅するなど彼らの想像力の外の話であり、次にどうすればいいのかなんて考えられなかった。


「どうするんだよ、おい! 今から他探すって無理だぞ!」

「だから言っただろ! 遊んでないでもっと早く動こうって!」


 他のメンバーが叫ぶ。しかし良案は出ない。


「クソッ! 誰だよアルッポのダンジョンをクリアしちまったヤツはよ!」


 リーダーは叫び、苛立ち紛れにカウンターテーブルをダンッと叩いた。

 そうして彼ら三人は答えが出ないまま酒場に移動し、時間もないのに葡萄酒を飲みながら話し合いを始めた。


「どうすんだよ」

「どうするったって、今から行ける場所なんざ決まってるだろ」

「ここに留まるか、村に帰るか――王都に行くか……」


 そこで全員の言葉が止まる。

 暫くの沈黙の後、一人が口を開いた。


「俺はイヤだぞ。王都なんてな」

「あぁ、俺だってイヤだぜ。なにより物が高すぎる」

「じゃあどうするんだ? ここにいても金になんねぇし、村に戻りゃ肩身が狭い。そうだろ?」


 また全員が黙り込む。

 全員、分かっているのだ。選択肢はないと。

 その日は酒場で飲み明かした三人は翌日最初の馬車で王都を目指した。

 なんだかんだありつつ王都に到着した三人は人の多さに驚き、物価の高さにも驚き、冒険者の多さにもっと驚きつつ、冒険者ギルドで情報収集を始めた。


「ちょっといいか? 安い宿とか知らねぇか? こっちに出てきたばかりでよく分からなくてよ」

「今年はどこも高いんじゃねぇか。周辺から冒険者が大量に集まってきてやがるからな」

「そう、なのか?」

「今年は過去一だぜ。金が出せねぇならスラムで空き家でも探すっきゃねぇな」


 そうして彼らは宿に泊まることは諦め、スラムの空き家を探すことにしたのだった。

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