地底の月

第112話 逃亡一日目

【報告】近況ノートにも書きましたが、コメント量が増え、全てへの返信が難しくなってきました。申し訳ございません。



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 深い深い闇の中。その闇とは対照的な白い光で闇を切り裂くランタンを左手に。鉄の槍は右手に。ただ黙々と夜の森を進む白い人影。

 そのに恐れをなしたのか、闇の住人達は姿を見せようとしない。

 闇夜の森を抜けようとするそのは何を思うのか。

 足元まである白いローブを全身に纏いフードを深く被って顔の見えないその者からは、うかがい知る事は出来ない。

 果たして、そのは何者なのだろうか。


「……いや、まぁ僕の事なんだけどね」


 一人でいるとついついどうでもいい事を考えてしまうからダメだ。

 そう思いながら、ひと抱えほどある石を軽く飛び越える。


 あれから――エレムを脱出してから、暫く街道沿いに森の中を歩いていた。

 森とはいっても町に近い場所はそれなりに人の手が入っているので歩きやすい。

 適度に間隔を開けて木が並ぶように間引かれ、倒木なども残っていない。

 エレムの町で日々使われる薪はここを含めて周囲の森で賄われているのだろう。

 まぁそれでも本当は夜の森の中なんて歩きたくはないのだけど、街道を歩けばエレムからランタンの光が見えてしまう。でも光を消したら前が見えなくなる。それを補うためにマギロケーションの範囲を本来の一〇メートルほどに戻せば、ある程度は周囲も把握出来るようになるけど、遠くの索敵が出来なくなる。そして一人で外を歩くなら光源の魔法より多少でもモンスターを退ける効果のあるホーリーファイアの魔法の方がいい。

 結局のところランタンを持って森の中を歩くしかなかった。

 しかし――


「そろそろいいかな」

 そろそろエレムからは見えなくなっているだろう。

 街道の方へと進行方向を変え、そして街道へと出て、そのまま街道を南へと進んだ。


 さて、エレムから脱出を考えた時、候補に挙がったのは四ルート。エレムから東西南北へと進む道だった。

 まず東の道。これはランクフルトへの道で、真っ先に却下した。戻っても仕方がないし、問題を持ち込んで皆に迷惑をかけてしまう可能性もある。

 次は北側。こちらへ進めば王都があるらしい。王都には興味があったけど、これも却下。とにかく今はこの国から出たい。

 次は西側だけど、酒場などで聞いた噂などからして良い噂を聞かなかったので、とりあえず除外しておくことに。

 そして残った南側。

 南側には、別の国があった。


「ふぅ」

 水筒から薄い葡萄酒を少し飲み、一息入れる。

 空を見ると少し明るくなっているように感じた。

 街道を挟み込むようにして広がる森の木々が邪魔をして見えないけど、太陽が上ってきたのだろう。


 魔法袋から薄い葡萄酒の瓶を取り出し、慎重に水筒へと移し替えていく。

 やっぱり、葡萄酒は無理をしてでも買っておいて正解だった。

 あの日、僕が光の魔結晶を冒険者ギルドへ売ってしまった事を失敗だったかもしれないと気付いた日。もしかすると町から逃げないといけなくなるかもしれない、と考え。その翌日、物資を買えるだけ買う事にした。

 結果、予定していたほどは買えなかったけど、それでも今は十分だ。


 それから、そのまま歩き続けて昼前には村に付いたけど、そこは素通りする事にした。

 今はこの村でゆっくりしている意味はない。夜中からずっと歩き続けて少し疲れているけど、少しでも先に進むべく今は次の町を目指すべきだろう。

 そして乾燥肉で腹を満たしながら街道を歩き続け、日が沈む前に次の村へと到着したのだった。

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