第197話 公爵邸に行こう!
極スタの名称に関して、どうしてこういうタイトルに決まったのか。
これについて誤解が生じているかもしれないと思ったのでタイトル決定の経緯を簡単にまとめてみました。
『極振り拒否して手探りスタート! 特化しないヒーラー、仲間と別れて旅に出る』というタイトルにどう決まったのか、という経緯を語っておこう
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885207682/episodes/1177354054898687060
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次の日は朝から外に出て検証の続きをしてみた。
実験は二つ。オリハルコンの指輪に魔力を流してどうなるかの実験と、操土の魔法の実験だ。
まず、オリハルコンの指輪に魔力を流してみた。が、特になにも起こらなかった。つまり魔法武具ではない、という可能性が高いと思う。僕が知る限り、魔法武具とは魔石や人の魔力によって動く機械のような仕組みのモノだからだ。となるとアーティファクトなのか、という話になってくるけど、それもよく分からないので結論は保留にしようと思う。
次に操土の魔法。
「大地よ、この手の中へ《躁土》」
魔法の発動と同時に足元の地面が五センチぐらいボコリと盛り上がった。
「……う~ん」
なんとも言えない微妙な効果。これだとスコップで掘った方が早い気がする。やっぱり他の生活魔法と同じく適性外で無理に覚えたせいなのか限定的な効果しかないのだろう。
しかし水と風の生活魔法は物質をその場に呼び出したのに土の生活魔法は存在する土を動かしただけ。この違いはなんなのだろうか?
「そういや、ホーリーアースでも聖石が出来たよね」
なんとなく『神聖魔法だからなんでもアリなんでしょ』と考えてしまっていたのか今まであまり気にしてなかったけど、こうなってくるとホーリーアースもちょっと不思議な気がするよね。あれも手の中に物質が現れてるわけだし。
その後、操土の魔法を繰り返し試してみた感じ、半径一メートルぐらいの範囲にある土を一瞬ほんの少しだけ動かせることが分かった。そしてこの魔法が石や岩には効かないことも。
もし石材にも効果があるなら石壁をくり抜いて穴を掘ったり壁を壊したり出来たのだろうけど、それは無理そうだった。予想以上に使い道が少なそうな気がする。もしかすると、レベルが上がったりすればもっと効果がアップするのかもしれないけど。
◆◆◆
翌日、朝起きて身だしなみを整え、一階の食堂へ向かう。そしてそこで皆と合流してクランハウスを出発した。
今日はついに公爵様と会う日だ。
軽く世間話をしながら大通りを西へ歩く。
「うぉぉぉぉあ! 緊張してきた!」
高そうな店が建ち並ぶエリアに入ってきた頃、シームさんが叫んだ。
「やっぱり皆も公爵様に会うのは初めて?」
「そりゃそうだ! 遠くから見たことはあるけどな」
サイラスさんがそう答えた。
まぁ、そりゃそうだよね。普通は貴族と関わることなんてそんなにないだろうし、公爵という高位貴族なら尚更だ。普通にしてたら一般人は話す機会なんてないよね。そう考えたら僕も緊張してきたかも!
そうこうしている内に気が付いたら見覚えのある場所に来ていた。ここは……例のお屋敷だ。
幽霊騒動の時、地下道の先で見たお屋敷を地上から探しに行き、そして見付けた場所。公爵様のお屋敷。
あの時はお屋敷と門だけ確認して戻ったけど、今日は堂々と中に入れるのだ。そう考えるとなんだか不思議な感じがする。
「本日、謁見の許可をいただいたサイラスです。お取次ぎ願いたい」
「報告は受けている。案内しよう」
門番らしき兵士にサイラスさんが話しかけるとあっさり門が開き、その先へと兵士が案内してくれた。
う~ん、ここは門番が横柄な態度で突っぱねてきて一悶着あり、そして後でザマァな展開につながるのが王道パターンな気がするけど、現実ではそんなことはないらしい。そりゃ全ての客に最初に対応する門番がヤバい人間だとマズいことになりまくるだろうし、それなりにちゃんとした人が選ばれているのだろうね。
兵士に案内されるまま、剣を構えた騎士の石像や花壇が左右に並ぶ石畳の道を進むと屋敷の大きな扉が見えてきた。
歩きながら周囲をキョロキョロと見回す。
左側に何本も木が生えている場所が見える。恐らく、あちらが地下道の出口と東屋があった方だと思う。ふと、隣を歩いているルシールを顔を覗くと、いつも無表情な彼女がいつも以上に表情がなく、なんだか緊張しているように見えた。ここに到着するまでは軽く雑談しながら歩いていたけど、今はそれもない。まぁ、そういう雰囲気ではないしね。前を歩くサイラスさんとシームさんも緊張しているように感じるし。
扉の前に着いた兵士が扉をノックすると、中から執事らしき初老の男が顔を出す。兵士はその執事に一言二言なにかを告げた後、こちらに軽く一礼しながら「それでは」と言い、門の方へ戻っていった。
「お入りください。公爵様がお待ちです」
案内されるまま屋敷の中に入りつつ、執事の動きをチラッと観察する。
先程、この執事さんが一礼をする際、お腹に軽く右手を当てた。それにさっきの兵士も同じようにしていた。これはこの国の正式な礼儀作法なのだろうか? ちょっとまだ断定は出来ないな。
誰一人として喋らず無言のまま屋敷の中を歩き続け、突き当りの扉の前に着くと、執事がクルリと振り返る。
「こちらが公爵様の執務室でございます。……よろしいですかな?」
そう聞かれ、四人で顔を見合わせ一斉に身だしなみを整えた後、サイラスさんが「お願いします」と言った。
執事が軽く頷き、コンコンと扉をノックする。
「入れ!」
「失礼いたします」
重厚そうな扉がガチャリと開けられ、豪華な部屋が現れる。
赤い絨毯が敷き詰めら得た床。そして木製のガッチリした机。と、そこに座る赤髪の男。
その男は机の上で指を組み、その鋭い目でこちらを見ていた。
この人が公爵様なのだろう。確かにダリタさんと似ているかもしれない。そしてルシールとは……あまり似ていない気がする。
執事が部屋の中に入り、公爵様に向かって深々と頭を下げながら「お客様をお連れしました」と言う。
執事の右手は胸の前に置かれている。
「黄金竜の毛を入手したらしいな」
「は、はい! これです」
サイラスさんが懐から綺麗に折りたたまれた布を取り出し、いつの間にか横にいた執事にそれを渡した。執事はそれを受け取って公爵様の隣まで進み、公爵様に渡す。
どうやら貴族というモノは、こういうバケツリレーが形式的に必要らしい。
公爵様は受け取った布を開き、中にあった金色に輝く糸――黄金竜の毛を手に取って確かめていった。
「確かに、黄金竜の毛に間違いなさそうだ」
「父上、それはあたしが事前に確認していると言ったではないですか」
声がした右側を見ると、豪華な応接セットに座って白磁のティーカップを傾けるダリタさんがいた。
公爵様に意識が集中していて気付かなかった。
それにしても、ダリタさんの喋り口調がいつもとは少し違い、ちょっと違和感がある。いつもはべらんめえ……もとい、もっと砕けた感じで喋っていたはずだけど。やっぱり公爵様の前ではちゃんとしているのだろうか?
「それはそうだがな。こういうモノは自分の目で確認する必要がある」
「クランの人間がそんな下手な詐欺はしません」
ダリタさんが少し怒ったようにそう言うと、公爵様は一呼吸置いてから「そうかもな」と返し、それからこちらを向いた。
「さて、お前達、よく持ってきてくれた。黄金竜の素材の流出が避けられたのは喜ばしいことだ……。褒美を取らそう。なにか望む物はあるか?」
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