第210話

209話をちょっとだけ修正しました。

読んでみて逆の意味に解釈されかねない文章になってしまっていたので。

簡単に説明すると、ジョン・トランボは北の諜報員の情報を盗み聞きして情報をクランに持ち帰る仕事をしていました。

けど、ジョン・トランボが諜報員と内通しているようにも受け取れる文章になっていたので修正しました。


―――――




 その日は朝からソロで仕事に出かけることにした。

 いつもの大通りを抜け、いつもと変わらない町並みを通り過ぎて冒険者ギルドの扉を開ける。

 朝のギルドはいつものように冒険者達で溢れていて、今日も繁盛している。

 ランクフルトとかエレムでは毎日のように通っていた冒険者ギルドだけど、この町ではそんなに行けてない。クランからのあれこれで忙しかったしね。

 扉を入って左側にある掲示板を誰かの肩越しに覗く。

 えぇっと……『ポナ草採取、完璧に採取出来る方限定』『外郭拡張工事作業員募集、未経験歓迎』『外郭拡張工事護衛、Dランク以上』う~ん、やっぱりあんまり良さそうな依頼はないっぽい。今回も適当に外で狩りでもしようかな? と思って踵を返すと意外なところから声がかかった。


「あっ、ルークさん。ちょっといいですか?」

「エリナンザさん。おはようございます」


 彼女はエリナンザさん。僕がこの冒険者ギルドで冒険者登録をする時に担当してくれた人だ。それからもギルドに来た時はお世話になっている。

 エリナンザさんに連れられてギルドの端っこに移動すると、彼女は小声で話し始めた。


「実はですね、ギルドの方ではルークさんのランクをDに上げたいと考えているのですが」

「いきなりDですか?」


 これは少し驚いた。飛び級ってことなんだけど、いいのだろうか? いや、確か冒険者のランクは一定以下まではそれぞれのギルドの裁量によって決められたはずだし、問題ないのか。ん~……それ以前に僕はここの冒険者ギルドではほとんどなにもしてないけど、大丈夫なのだろうか?


「えぇ、ルークさんの実力と実績については黄金竜の爪の方からの推薦がありましたので、なにも問題ありません。しかし――」

「しかし?」

「その……黄金竜の爪側からはルークさんの具体的な実績の内容は開示出来ないと言われまして……」

「あ~……」


 僕の実績って、黄金竜の毛の発見と黄金竜の巣の調査だろうしなぁ、それは外には漏らせないかも。


「それでですね、冒険者ギルドとしましては、一応、理由として書けるモノが一つは欲しいなと」

「なるほど」

「なので一つ、依頼を受けていただけませんか?」


 それからエリナンザさんに一通りの説明を受け、依頼を引き受けてギルドを出た。


「この町にも慣れてきたなぁ」


 と、しみじみ感じながら町を出て、森に入ってマギロケーションを発動。標的を探す。

 慣れてきたのはいいことだけど、今はただ目の前の状況に対処するだけで先のことがあまり見えていない。


「これでいいのかなぁ……」

「キュ?」

「いや、なんでもないよ」


 肩の上にいるシオンにそう返し、頭を撫でた。

 様々な面で成長したいとは思っているけど、なにをどう頑張ればいいのかが難しいのだ。

 情報を集めたり勉強をしようと思っても一般人では得られる情報や資料が少なすぎて学びにくい。そして情報が少ないから目標を見付けることも難しい。

 女神の祝福でレベルアップを狙うのがシンプルで分かりやすい目標なのだけど、それも最近は停滞している。エレムにいた頃はダンジョンでガンガンレベルが上がっていたけど、それも一〇回目のレベルアップあたりから速度が落ちてきて、最近はほとんど上がらなくなってきた。


「まずレベルアップのシステムがよく分からないんだよなぁ」


 強いモンスターを多く倒せば女神の祝福を得やすい。これは様々な冒険者の意見を聞いても一致している。

 しかし、ランクフルトでのグレートボア討伐の時も、死の洞窟の中で黒い巨大スライムを討伐した時も女神の祝福は得られなかった。つまり格上モンスターを倒しても巨大な経験値は得られない、という可能性が高い。


「もしかすると抽選方式なのか。あるいは経験値キャップがあるとか……」


 モンスターを倒す度にレベルアップの抽選が回り、自分とモンスターの強さの差によって確率が変わるみたいな感じとか。自分より強いモンスターを倒すと経験値を多く貰えるけど、それには上限が設定されてあって強すぎる相手を倒しても意味がない、とかさ。この辺りは昔やったゲームであったシステムだ。


「経験値以外に条件があるのかも」


 一定以上の筋力量が必要だとか、特定の動作を規定回数以上やっている必要があるとか。こういう設定があるなら睡眠時に女神の祝福を得ることがある理由も説明出来るかもしれない。

 まぁ結局のところ、よく分からないんだよね。

 自分の経験値とかスキルとかを調べられる鑑定能力とかステータス画面みたいなモノがあれば分かりやすいしモチベーションの維持がしやすいんだけどねぇ。


「……いないなぁ」


 ターゲットモンスターを探して一時間。マギロケーションを使用しても標的が見付からない。

 人里から一時間の場所にモンスターがポコポコ湧いてたら物流の観点から考えると大問題なんだけど、冒険者の財布の観点から考えると、それも大問題だ。


「やっぱり成長するならダンジョンだろうか」


 ダンジョンなら少し歩けばポコポコモンスターが湧いて出るから経験値効率も金銭効率も凄く良い。その分、様々なトラブルが多いことは身をもって学んでいるのだけど、やっぱり現状、能力を磨くならダンジョンぐらいしか思いつかない。


「それか、学校に入るとか、誰かに弟子入りする、とか?」


 冒険者の間ではベテランが新入りに基礎的なことを教える場合もあるらしい……というか僕も最初はハンスさんに色々と教わったのだけど。でも、本格的に誰かに師事して学ぶ的なことはあまりないと聞いた。大体の人が自己流でやりながら実地で学んでいく感じ。

 それが成り立つのが女神の祝福の力。

 レベルアップでの能力アップでパワープレイ。要するに、難しいことを考えなくてもレベルが上がればボタン連打で勝てるってヤツだ。分かりやすく楽な方向があるなら人はそちらに流れるものだしね。

 学校的な施設も現時点ではまだ確認出来てないし、なにかを学ぶとなれば弟子入りとかしかない。


「う~ん」


 色々と学ぶべきことがある気がするんだよなぁ。

 この前、黄金竜の巣に行って初めて古代遺跡に遭遇したけど、結局あの古代遺跡がどういうモノだったのか僕にはよく分からなかった。これまでは古代遺跡を探索してみたいとずっと思っていたけど、実際にああやって古代遺跡に行ってみて、そこで僕がしたことといえば金銀財宝アーティファクト探しで……これでは『バカどもには丁度いい目くらましだ』と大佐に罵られても仕方がない気がしてくる。

 確かに僕は古代遺跡に行くという目標を達成した。そしてアーティファクトを発見するという目標も達成した。したけど、それはなんだか、こう……違う気がするのだ。あの場所にはもっと違う価値と面白さがあった気がする。歴史とロマンが詰まったなにかが、あそこにはあったはずなんだ。

 僕は、それを見付けられるようになりたい。


「うん! これかな」

「キュキュ?」


 シオンの頭をもう一度、撫でる。

 なんとなく、自分が進みたい方向性は決まった気がする。それが決まれば、後はとにかくそちらの方向目指して進んでみよう! まだ手探りだけどね。

 と、前方に動く物体の反応を捉えた。

 姿勢を低くし、足音を殺しながらそちらの方に進んでいくと。


「いた」


 鎧を着て剣を持ったゴブリンが三体。なにかの動物の死骸を生のままグチャグチャと食べている。

 以前、ダンジョンなどで見たゴブリンより一回りぐらい大きい。確か森の村で見たゴブリンは木の皮を食べてたぐらい食料には困っている感じで、他の生き物を狩るような実力はなさそうだったけど、このゴブリンは狩りをするぐらいの実力はあるようだ。

 ギルドでの説明によると、こいつらはゴブリンソルジャーと呼ばれているらしい。ゴブリンと同じ種族なのか別の種族なのかは謎らしいけど、普通のゴブリンがFランクの最下層なのに対してゴブリンソルジャーはEランク扱いで、普通のゴブリンより強いために一応別扱いとしているとかなんとか。

 まぁランクが変わるぐらい能力に差があるなら別物にしておかないと色々と危ないだろうし妥当なところだろう。

 さて、早速だけど例の魔法を試そうか。

 最近は大きな仕事終わりでゆっくりしてて外に出られなかったし、ここが絶好の機会だ。

 黄金竜の巣の古代遺跡で見付けたこの魔法。


「神聖なる光よ、解き放て、白刃ホーリーレイ


 右手に持った杖に意識を集中させ、一気に呪文を詠唱。

 丹田から集まった魔力が体を駆け抜け、右手に集まり杖から放出される。

 そして魔力が放たれると同時に空中で五〇センチぐらいの日本刀の刃のような、つららのような光の刃に変わり、中央にいたゴブリンを鎧ごと貫いた。


「グギャ!」

「グギャギャ!」


 二匹のゴブリンがやっとこちらに気付いて慌て始める、と同時にゴブリンに刺さったままの光の刃がガラスが弾けるようにパンッと弾けて霧散する。

 これは凄い。やっとまともな攻撃魔法が手に入った。やっぱりライトボールでは火力不足感があったしね。


「でも人前じゃ使えないんだけどね、っと! 神聖なる光よ、解き放て、白刃ホーリーレイ


 こちらに向かってくるゴブリンソルジャーに続けてホーリーレイを連射して屠る。

 贅沢を言えば、そろそろ範囲魔法的なモノも欲しいところ。こういう場面で連射しなくても一撃で倒せたら大きいし。まぁそれは今後のお楽しみということで。


「この調子でどんどん狩っていきますか」

「キュ!」


 そうしてその日はゴブリンソルジャーを狩り尽くし、僕はDランクに昇格。もとい、復帰したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る