第180話 再び
「……」
まどろみの中から意識が覚醒していく。
ゆっくりと目を開けると部屋は真っ暗闇の中。天井も見えない。
頭の中がはっきりとしないまま、どこかで感じたことがあるデジャヴ感に包まれて次第に嫌な予感が大きくなっていく。
心を落ち着けるようにシーツから右手を出し、お腹の上の重みをワシャワシャと撫で。そして勇気を出してドアの方を見た。
「……」
白い肌。長い髪。メイドさんのような服を着た女性。間違いなく昨日も出た幽霊だ。
うん、まぁそうだよね、昨日と状況はなにも変わってないし! また出るよね!
どうしようかなと考えながら、とりあえず体を起こしてベッドに座る。
暫く考えた後、勇気を出して彼女に聞いてみることにした。
「えっと、僕になにか用事でもあるの……かな?」
幽霊と話そうとしてはいけない、と昔どこかで見た気もするけど、そうも言ってられない。
すると彼女はクルリと後ろを向いて滑るようにドアへ進み、スルリとドアをすり抜けて消えていった。
「えっ!?」
せっかく勇気を出して話しかけたのに、なにも言わずに消えちゃうの? いや、もしかして、ついてこいってことなのか? う~ん……どうしようか……。
と、考えてみたけど答えは決まっている。こうなるともう行くしかない。
「その力は全てを掌握する魔導。開け神聖なる
右手から溢れ出した波動が周囲に広がって世界に浸透する。
夜中に明かりを使うのは目立ちすぎるので光源の魔法はナシだ。
ドアの奥へと意識を向けると薄くあやふやながらマギロケーションに反応するモノがあった。やはり彼女はドアの向こう側にいるみたいだ。しかし反応が薄すぎて捉えきれない。マギロケーションの範囲を縮小していき、近距離の解像度を上げるとなんとか彼女を感じ取れるようになってきた。
シオンをベッドの上にそっと置き、机の上に置いてあった指輪を手に取りドアを開けると、彼女は滑るように廊下を進み階段を下りていくところだった。
「やっぱり、ついてこいってことか……」
出来るだけ物音を立てないように慎重に歩きながら彼女を追う。
階段を下り、廊下を進み、扉を開け、中庭に出る。
彼女はフワフワと中庭の中央付近へと進んでいく。
月明かりに照らされた中庭は幻想的で、若い男女で来たならきっと良い感じになるだろうな、と思わせる雰囲気があった。……よく考えると今は若い?男女で来ているのか。僕に関しても彼女に関しても『若い』かどうかは議論の余地がありそうな気がするけど。
そんなことを考えている間に彼女は中庭の中央にある東屋の中に入り、その角で止まったかと思うと――そこで消えた。
「……マジでか」
彼女はその場から完全に消えたのだ。マギロケーションにも反応はない。以前、戦ったゴーストの場合、壁の中に潜むことはあっても存在が消えることはなかった。しかし今、彼女はこの場から消えた。
「どういうことだ?」
彼女の存在がどういうモノなのかも不明だし、マギロケーションの仕組みも完全には分からないから判断が難しい。
仕方がないのでそのことは後回しにして、彼女が消えた場所まで進み床を調べる。床には一辺が七〇センチぐらいの四角い石のブロックが隙間もなく綺麗に敷き詰められていて、ここを作った職人の技術力の高さが窺えるけど……彼女が消えた場所のブロック、その部分だけマギロケーションに反応があった。
「下に空間がある?」
ブロックが分厚いのか、ピッタリはまっているからなのか、ブロックを叩いてみても他と音が違うようなこともない。しかしマギロケーションにはしっかりと空間の反応がある。
暫くそのブロックを押したり持ち上げようとしたり試行錯誤していると、壁側に押し込んだ瞬間ゴリッと二センチぐらいスライドした。そこからはいくら押してもスライドしなかったけど、諦めて隙間に手を突っ込んで持ち上げると意外と簡単に持ち上がり、蓋が開く。
ブロックの下にあったのは階段。それは数メートル下まで続いていた。かなり深い。マギロケーションで見る限り階段の先は通路になっていて、どうやら町の西側へと続いているようだ。でも先が長すぎてどこに繋がっているかまでは確認出来ない。
「さて……まぁ行くっきゃないよね」
もうここまで来たら最後まで進むしかないよね……。
覚悟を決めて一歩一歩、階段を下りていく。
「うわぁ……」
どうも長いこと誰も使っていなかったようで、いくつか蜘蛛の巣らしき物体がマギロケーションに映る。仕方がないので戻って中庭の木から小さな枝を一本拝借し、それで邪魔な蜘蛛の巣を巻き取りながら進んだ。
通路は横幅一メートルぐらいの一本道。全面、石で覆われていて崩れる心配はなさそう。
しかしこの通路はなんなのだろうか? 入口の感じから考えると隠し通路だし、設置されている場所から考えると日常的に使うことは想定されていない気がする。中庭の真ん中に設置された隠し通路なんて普段から使っていればすぐにバレてしまうからだ。
「だとすれば……」
どういった目的の隠し通路なのだろうか? 非常時のための脱出路。あるいは……。
そんなことを考えながら歩いているとマギロケーションが通路の先に階段を捉えた。
既にクランハウスからはかなり歩いている。マギロケーションは分厚い壁は抜けないので地上のことはまったく分からないし、ぶっちゃけちょっと不安になってきていたので一安心。
階段をゆっくりと上り、蓋になっているタイルをいじっているとゴリッと横にスライドした。
どうやら入口と作りが一緒らしい。
音を立てないようにゆっくりと蓋になっているブロックを持ち上げ、外に出る。
「ここは?」
目の前に飛び込んできたのは巨大な家。お屋敷と言った方がいいだろうか。そのお屋敷の壁沿いの地面に敷かれたブロックの一枚が出入り口になっていたらしい。
マギロケーションの範囲を拡大しながら周囲を探っていく。
お屋敷の逆側には月明かりに照らされた木々……というか大きな庭なのかな。お屋敷の中には多くの人々を感じるし、そこら中に見張りの兵士っぽい人が巡回している。どう考えてもお金持ちか権力者の屋敷だ。
「さて……」
どうしようか? 彼女に導かれるままここに来たのはいいけど、ここからどうすればいいのか分からない。兵士らしき人が巡回している中であてもなくこの屋敷の敷地内を探索する気にはちょっとなれないし……。
仕方がないので、とりあえずこのお屋敷の特徴を覚えてから、今日のところは引き返すことにした。
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