第16話 大魔法使い爆誕

 朝、目が覚めてベッドから起き上がる。

 昨日は酷い目に遭った。


 あのあとすぐ、夕飯を食べに一階へと降りると、酒場には沢山の人がいて、皆口々に僕の顔を見ると『よっ! 大魔法使い!』と言うのだ。

 どうも二階の突き当りの部屋というのは、この酒場の真上にあるらしく、何人かの冒険者が“例のアレ”を聞いていて、それを早速、帰ってきた冒険者に端から喧伝したわけだ。酒の肴にしながら。

 こんな娯楽のない世界だ。酒と噂話は一番の娯楽なんだろう。

 僕が気がついた時には既に遅く、酒場の皆が僕の話をしていたわけで……。


 そして大魔法使いルークが爆誕した。


 まぁ冷やかされはしたが、悪い事ばかりではなかった。と、思う。

 冒険者達からはダンジョンの事やら、色々な話を聞くことが出来た。こんな出来事でもなけりゃ中々話しかけられなかったと思うし、これは良かった。

 冒険者も基本は気のいい人達だと分かったし。


 一階に降りて宿の裏手の井戸で顔を洗い、外に出る。

 今日はダンジョンに向かう事にする。場所に関してはしっかり仕入れてある。南門から出て、道沿いに少し歩けば見えるらしい。

 途中、商店で果物らしきモノを数個買い、一つ残して背負袋に入れる。今から食べる朝飯用と、昼に食べる昼飯用だ。

 果物をローブで軽くこすってから、かじってみる。

 さて、歩きながらダンジョンについておさらいしよう。

 ……いや、その前にこの果物は何なんだろうか。見た目は洋ナシっぽいのに味がバナナだ。甘味は薄いがマズくはない。しかし、もう少し甘味が控えめだったらバナナ風味のイモになってたかもな……。

 まぁいいか。ダンジョンについて考えよう。

 ダンジョンとは何か? という事については、実は誰もよくわかっていないらしい。昔からあるダンジョンもあれば、最近出来たダンジョンもある。何故かダンジョンが生まれて、そこでモンスターが湧く。ダンジョンのモンスターは倒されると消滅し、お金やアイテムや魔石を残す。最下層をクリアすれば何かしら得られる物がある。

 とまぁそんな感じだろうか。

 この南の村にある初心者ダンジョンと呼ばれるダンジョンは、そういうダンジョンの中でも最低難易度のダンジョンの一つ。ドロップは良くないが初心者の練習には丁度良いため、初心者には人気らしい。


 門を抜け、林の中に作られた道を歩いていく。

 この辺りの林はしっかりと整備されていて、木が密集しないように適度に間引かれ、木の下部の枝葉は打ち払われ、下草も短く刈り取られ、遠くまで見渡せるようになっている。

 ここでならモンスターなどにいきなり襲われる心配も少なそうだ。


 色々考えながら歩いている内にダンジョンの入り口が見えてきた。

 どんなものかと思ってたけど、地面からいきなりデデーンと岩の塊が突き出して、そこにぽっかり穴が空いて地下への階段が出来た……みたいな。そんな感じに見える。

 要するに違和感があるのだ。

 林の中の、広場のような木のない場所に、いきなり数メートルの岩があって、そこに穴が空いている。2D時代のRPGのワールドマップにある洞窟を示すマークのように、これみよがしに“ここはダンジョンですよ!”と主張している。

 ように見えて、違和感があるのは僕だけなのだろうか。この世界の人達は、これはこういうもの、という感じに受け入れているように見える。

 ダンジョンの入り口前まで来て、前を歩いていた冒険者を見送り、しばらくしてから中に入る。

 中は岩肌むき出しの洞窟、という感じで、人工的な感じはない。いや、階段とかは人工的と言えるのか。とにかく、それ以外は普通の洞窟、という感じに見える。

 まぁ普通でも変でも、洞窟なんて入った事はないから知らないんだけど。


 階段を一歩一歩、ゆっくりと降りる。

 洞窟の中は薄暗く、道幅は四メートルぐらいで、高さは三メートルぐらいだろうか。ジメジメしたような感じもなく、空気も淀んでいるようには感じない。

 そのまま数メートル歩くと十字路があった。

「うーん……これは、どうしようか」

 ここに来て僕は、ダンジョンを舐めていたんじゃないか、という考えに至る。

 こういう地下迷宮なんだし、当然ながら分かれ道ぐらいあるだろう。某ゲームみたいに一本道で迷わないなんて都合の良い話はない。道が分からなくなれば無駄にさまよう事になるし、下手をすれば出られなくなる。そんな事すら思いつかなかった。

 もしかすると、この初心者ダンジョンならば迷っても大した事にはならないかもしれない。しかしそれに賭けてみる気にはならなかった。

 今回は無理をせず、大人しくダンジョンを出て村に帰る事にした。

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