第60話【エピローグ】この道、僕の旅
それから、負傷者の救助やすぐに退ける必要のあるガレキの撤去など、こまごまとした作業をを終え、そこからはこの西門前で宴会になった。
補給物資として、焼き網や葡萄酒が既に用意されていた事でそうなったのだ。
そして僕にとって一番の収穫で、新しい発見だったのが、グレートボアの肉の旨さだった。肉を焼いていた中年の冒険者によると。「モンスターはランクが高いほどうめぇんだ。Bランクの肉なんざ並の冒険者じゃめったに食えねぇぜ。当然、ランクが高くとも食えねぇヤツは食えねぇんだがな」だそうだ。
これは本当に楽しみな情報を得たと思う。仕方がないとは言え、この世界の一般的な食文化のレベルからして冒険者が色々な食を楽しむのは難しそうだと思っていたからだ。
しかしランクの高いモンスターが旨いなら話が変わる。僕が強くなれば日本でも食べられなかったような美味しいものを沢山食べられるようになるかもしれない。
ちなみに、男爵の兵が加勢に来なかった理由だけど、北門にも人形のモンスターが現れて大変だったから、らしい。それが本当なのか嘘なのか、それは僕が得られる情報では判断出来ない。それにそんな事は今となってはあまり意味のない話だ。
◆◆◆
スタンピードから数週間。町の復興に多少ながらも貢献しつつ、時を過ごした。
グレートボアによって壊された壁も修復され、街道に残るモンスターの残党狩りも行われ、他の町との行き来も再開された。今でもまだ少し普段よりはモンスターの量が多いらしいけど、調査の後、領主と冒険者ギルドによってスタンピードの終息が発表されている。
スタンピード発生のメカニズムについてだけど、複数の説があって、完全には解明されていないらしい。
しかし今回のスタンピードについては、森の奥から移動してきたグレートボアが浅い森を荒らしたせいでモンスターが大移動してスタンピードが起きた、と冒険者ギルドは発表している。
それが正しいのかどうかは分からない。そのあたりは偉い学者さんにでも調べてもうらしかない。
そして……。
その日、僕は皆に「話がある」と言い、宿の下の酒場へと集まってもらっていた。
宿の階段を下り、酒場へと向かい、皆を見付けて空いている席に座る。
「で、そんなにあらたまって、話って何なんだ?」
「なんか真面目な顔しちゃって、どうしたのよ」
席についても話し始めない僕に、ダンとメルの方から聞いてくる。
「あぁ……うん。いや、ちょっと皆に確認しておきたい事があってさ」
僕はそこで言葉を切り、今から話さないといけない事を頭の中で冷静にまとめていく。
そして数秒で考えをまとめ終え、話し始める。
「これからの話なんだけど、皆はこれからどんな冒険者活動をしていくつもりなの?」
僕のその質問に、今度は皆が言葉をつまらせた。
「うーん……どんな、っていきなり聞かれても、な?」
「そうよね。普通に冒険者としてやってくだけよね」
「……」
三人がそれぞれ顔を見合わせ、困惑した顔でそう答える。
うーん……質問が抽象的すぎたかもしれない。
「何と言えば良いのかな……。皆の冒険者としての目標とか、このパーティで今後どういう事をやっていくのかとか、そういう将来の話を聞きたいんだ」
僕の言葉にしばらく考えた後、ダンが答えた。
「まず全員がCランクになる事。それならこの辺りの森の奥まで入れるしな。あとは……出来るなら、またグレートボアが町に現れても、俺達で何とか出来るだけの力が欲しい」
ダンのその言葉に二人も頷いている。
そうか……やっぱり……。
予想はしていたけど……少し気分が沈んだ。
そして、僕は確信に迫る質問をした。
「ねぇ……皆は他の町に拠点を移す気はないの? 例えばダンジョンのある町なら力もつきやすいって聞いたけど」
冒険者ランクは基本的には冒険者の能力で決まる。そして能力を上げるには技術を磨くかレベル上げ――女神の祝福――が基本になる。
女神の祝福は自分より格下のモンスターを倒しても得にくい。その事はこの世界に来たばかりの僕でもすぐに気が付いた。当然、冒険者の間でも常識だ。
そして、このランクフルトの町の周辺にいるのはDランクまでのモンスターで、森の奥にまで行くとCランクのモンスターがいる。
だから、この町にはCランクまでの冒険者しかいないし、Cランク冒険者の数は少ない。この場所ではそれ以上には上がりにくいからだ。
積極的に上を目指す者は高ランクモンスターが出る場所やダンジョンへと旅立つ。
そして――
「んー……。この町を離れる気はないな。俺達はまだこの町でも成長出来る。それに生活基盤もコネもこの町にはある。それを手放してまで他所へと移るほどのメリットを感じない」
「私は……父さんが許してくれないかな。護衛依頼で他の村に行くのもあまり良い顔はしないし」
「……」
……やはり、そうだ。
皆は、この町から出る気がないんだ。この町で冒険者を続ける事を第一に考えている。
皆にとってこの町は生まれ故郷で、親も兄弟もいる。色々な伝手やコネもあるし、ここの商人とも関係が深い。そしてこの町は産業もそれなりにあって治安も良いし、モンスターも少ない。環境は凄く良いと思う。
でも、僕は……。
「僕は……世界を見てみたい。ダンジョンに行ってみたいし、遺跡も見てみたい。この国だけじゃなくて、別の国にも行ってみたい。……出来るなら伝説に残るような場所も探したい。だから、僕は他の町に行きたい。そう、思ってる」
そう言って、僕は皆を見た。
暫く、沈黙の時間が続く。
他の冒険者がワイワイと騒ぐ声や、カウンターの中でマスターがカチャカチャと食器を準備する音が妙にはっきりと聞こえる。
「気付いてた」
いきなり意外な方向から声がして驚いた。
ラキだ。
彼は僕の方を向いて、言葉を続けた。
「ルークが色々な場所に行きたがってるのは分かってた。二人もそうでしょ?」
そう言って彼はダンとメルを見た。
ダンとメルは顔を見合わせ、そしてダンは息を吐き、「まぁ……そうだな」と言った。
「気付いてたんだ……」
「そりゃあ、毎日一緒にいたからな」
「そうね……」
「うん」
また暫く沈黙が続き、そしてダンが口を開いた。
「俺達は……この町が好きだ。だから離れられ、ないんだろうなあ……」
ダンは自分でも確かめるようにそう言い、そして言葉を続ける。
「冒険者はな、二つに分けられるんだ。片方は食うために冒険者をやっている奴。そしてもう片方は上を目指すためにやっている奴だ。……ルーク、お前は後者なんだろう。……行ってこいよ。俺達の代わりに世界を見てきてくれ」
「ダン……」
僕は今、どんな顔をしているのだろうか。
何かが胸にまでせり上がってきて、皆の顔が見えない。
「なーに揃ってしみったれた顔してんのよ! ほら! 飲もう! 今日は飲もう! おっちゃん、エール四つ追加で! こういう時はね、笑うのよ!」
メルに肩を叩かれ、そして乾杯した。
これからどれだけ時が経っても、僕は今日の事、皆の事を忘れないだろう。
彼らは、僕がこの世界に来て初めてのパーティ。初めての仲間。たとえ進む道が違っても、その事には変わりはない。
もう既に、ちょっと寂しくなってきているけど、後戻りはしない。
前に進むと決めたのだから。
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