第61話【閑話】そして彼は己を知る

 彼は部屋に入り、扉を閉め、閂をかけた。

 そしてベッドに寝転がる。


「片方は食うために冒険者をやっている奴。そしてもう片方は上を目指すためにやっている奴……か」


 彼は自分自身が言った言葉を思い出した。



 冒険者になろうとする人は大きく分けると二種類いる。仕事が見付けられず、何とか食べていくために冒険者になろうとする人。そして、国への仕官や、貴族を目指したり、ただ強さを求めたり……とにかく何かの目的があって冒険者になろうとする人だ。


 前者は、食べていくために仕方なく冒険者を始める。

 この世界では基本的に、人を雇うならまず親戚の中から探す。だから親や親戚が何か商売をやっていれば、その店で働ける場合がある。親が大きな店に勤めているなら、その伝手で就職出来たり、親の跡継ぎとして入る事もある。

 しかし全ての子供がそうやって働き口を見付けられるわけではない。

 親の店が小さければ全ての子を雇うような余裕はないだろうし、跡継ぎは一人だけだ。親の伝手で職を探すのにも限界がある。一組の夫婦から二、三人の子供が生まれるこの世界では、下の方の子供は割を食う事が少なくない。結果的に、そういう人が冒険者になるしかなくなるのだ。


 後者については単純だ。

 騎士や貴族になりたいなら何かで功績を上げなくてはならないが、平民がそれを狙うのなら冒険者になるのが一番ハードルが低い。たとえ孤児でも実力をつけ、冒険者ランクを上げていけば騎士への道は開けるし、そこから騎士として名を残せば貴族にもなれる可能性はある。

 他にも、強くなるために、年がら年中モンスターを倒す事でお金を得ている冒険者は色々と都合が良いし。何かやりたい事のための時間を確保するため、自由に働く時間を調整出来る冒険者になる事もあるのだ。



 彼は自分の事について記憶を振り返った。

 幼少期の頃。仲間との出会い。鍛冶師としての修行。冒険者登録。仲間とのパーティ結成。

 そして冒険者になろうと思った理由。

 鍛冶は嫌いではなかったが、父に違う町に修行に出るように言われて、それを拒否して冒険者になった。

 ランクフルトの町は好きだし、仲間もいて、離れたくなかった。どこへも行きたくはなかった。

 そしてそれに、仲間もついてきてくれた。


「そうか……。結局、俺は前者でも後者でもない、中途半端だったんだな」


 食べるために仕方なく冒険者になったわけではない。

 野心や向上心から冒険者になったわけでもない。

 ただ、都合が良かったからそうしただけなのだ。


「もう一度、ちゃんと考えないと、な……。それから、メルとラキと話し合おう。……親父とも」


 そう呟き、月明かりの中、彼は目を閉じた。

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