第201話 出発しよう

 翌日はサイラスさんらと打ち合わせをしたり買い出しをしたり、資料室で黄金竜や黄金竜の巣に関しての情報を集めて過ごし、その次の日の朝、四人で揃ってクランハウスを出た。

 念の為、サイラスさんに確認しておく。


「待ち合わせ場所は東門から出た先にある大きな木の下で間違いないよね?」

「あぁ、それでいいはずだ」


 町中で集まるのは目立つということで、町の外で待ち合わせをすることになっているのだ。

 町中を進み、東門を抜け、暫く進むと大きな木の下に一台の馬車が停まっていた。

 馬車はシンプルな幌馬車で、商人が荷物を運ぶ時に使う馬車に似ている、どこででも見るやつ。


「来ましたね。とりあえず乗ってください」


 幌馬車に近づくと中から顔を出したミミさんがそう言った。

 それにうなずき、馬車に乗り込んでいく。

 どうやら僕達が最後らしく、僕達が乗るとすぐにミミさんが御者に合図を出し、馬車がゴトリと動き始めた。


「全員揃いましたので、改めて今回の任務について説明しておきますね」


 と、ミミさんが説明してくれた内容は以下のモノだった。

 今回の任務は黄金竜の巣の探索。

 黄金竜の巣とその周辺を調べ、黄金竜が飛び立った原因を探る。

 黄金竜の素材を持ち帰る。

 あとは優先度は低いけど、黄金竜の巣の周辺のモンスターや植生などを調べること。

 帰ってきた黄金竜を刺激しないように、出来る限り痕跡を残さないこと。

 今回の任務に関する話は外部には漏らしてはいけないこと。

 その後、ミミさんが軽くメンバーの紹介をしてくれた。

 まず僕達四人。それにミミさんとゴルドさん。ここまでがクランからのメンバーで、公爵家からはダリタさんとトリスンさん。モス伯爵。そしてザグさんという名の細身でヒョロっとした男性が御者をしていると紹介されると、前方の御者台の方から薄い顔をした印象の薄い男性が顔を出し、軽く目礼した。


「大まかには以上です。なにか質問はありますか?」

「あの、食料などはどうするのですか?」


 気になったので聞いてみた。

 というのも、馬車の中には僕達一〇人がいるだけで、それぞれ背負袋やリュックサック的な鞄は持っているものの、物資的なモノが見当たらないからだ。


「食料に関しては私が魔法袋で持ち運んでいますので安心してください」

「あぁ、なるほど」


 そうか、魔法袋か。

 他の人が魔法袋を使っているところを見たことがなかったので頭の中から消えていたけど、やっぱりクランとか公爵家とかにはこういう時に使う用に魔法袋は準備してあるんだろうね。

 しかし驚いたのはダリタさんだ。まさかダリタさんが来るとは思わなかった。公爵家の令嬢がこんな任務に参加してくるとは。……いや、彼女は『令嬢』という感じではないけどさ。

 そう思ってダリタさんを見たら、彼女と目が合ったので軽くお辞儀をすると、ダリタさんはイタズラっ子のような目をしたまま口を開いた。


「父上がなにやら面白い話をしていたからな、強引にねじ込んでやった! 黄金竜の巣なんてこれを逃せば一生見れねぇしよ! だが、それでセム爺まで引っ張り出しちまったぜ!」


 と言って豪快に笑う彼女の横でセム爺ことモス伯爵が腕を組みながら軽く息を吐き、ゴルドさんが「相変わらずお転婆な嬢ちゃんだぜ!」と笑った。

 どうやら僕達以外は昔からそれなりに面識があるっぽい。

 まぁそれもそうか。と思いながら背もたれに体重を預ける。

 僕は少し前にここにきたばかりだけど、身分と実力のある彼らはそれなりにこの町では関わることが多くて繋がりがあるんだろうね。

 と考えながらシームさんを見ると、サイラスさんの肩に頭を預けながらグースカ寝ていて、ルシールの方を見ると、彼女は馬車内なのに本を読んでいた。

 どうりで静かだと思ったよ! でも、いくら本が好きとはいっても馬車内で本なんて読んだら乗り物酔いするよ?

 しかし……。


「なんでミミさんはここでもメイド服なんだろ?」


 隣のサイラスさんを見ると、彼は「さぁ?」と言って肩をすくめた。


◆◆◆


「着きました」


 ゴトゴト馬車に揺られて数時間、気が付くと少し見覚えのある村に着いていた。

 ここはタンラ村、僕がボロックさんと会った洞窟から出て最初に立ち寄った村だ。


「少し荷物の受け取りがありますので暫く自由にしていてください。あまり目立たないようにお願いします」


 そう言ってミミさんは馬車を降り、どこかに行ってしまった。

 あまり目立たないように、と言われても商人でもなさそうなこの人数の団体が村に現れたら嫌でも目立つ気がするけど。と思いながら僕も馬車を降りると、他の皆もゾロゾロと降りてきて体を伸ばしたり商店に入ったりと自由に行動し始めた。

 僕も以前に利用した商店に入り、果物をいくつか買っていく。町では買う時間がなかったので丁度良い。

 店の角に吊るしてある不快な白い輪切りの乾物が目に入った気がするけど、記憶からデリートしておく。

 そうしていると、どこからともなくルシールが戻ってきた。


「どこ行ってたの?」

「お母さん」

「んん?」

「実家がある」

「えぇ!」


 ということは、僕が幽霊と間違えた例の人か……。やっぱりあれは勘違いだったんだよね、ということを改めて実感する。

 あの幽霊――彼女は、誰だったのだろうか?


 暫くするとミミさんが戻ってきて「それでは行きましょうか。ここからは歩きです」と言った。

 どうやらザグさんはこの村で馬車の番をするらしく、ここでお別れとなるようだ。

 九人で村を出て、ドワーフの里に続く洞窟がある道を進んでいく。

 まさかここにまた戻ってくるとは思ってなかった。いや、戻ってくることがあればいいなと思って目印はつけていたのだけどさ。


「確かこの辺りのはずなのですが……」

「あぁ、ここですよ」


 さっそくその目印が役に立った。

 太い幹を持つ大きな木につけられたバツ印の傷だ。


「なるほど、そういえば……ルークさんはそうでしたね。助かります」


 地図を見ながら先頭を歩いていたミミさんはそう言ってバツ印のある木の脇を通り抜け、森の中へ入っていった。それに全員で続き、暫く歩くと例の洞窟の入口が見えてきた。

 懐かしいかも。以前はここでシオンが遊んでいた。僕も久し振りに見た太陽が眩しかった記憶がある。


「ルークさん、光源の魔法をお願い出来ますか? 私は苦手なもので」

「分かりました。光よ、我が道を照らせ《光源》」


 ミミさんは光源の魔法が空中に浮かぶのを確認すると振り返った。


「それでは洞窟に入りますが、準備はよろしいですか?」

「あぁ」

「問題ない」

「大丈夫です」


 その声を確認すると、ミミさんは軽く頷き洞窟の中へ足を進めていった。

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