第200話 調査依頼と属性武器作成
「つーわけだからよ、黄金竜の巣の調査に行ってくれや」
「いきなりですね」
朝一番、クラマスに呼び出されて久し振りにあの部屋に入ったら第一声がそれだった。
なんだかこんなやり取りは前にもあった気がする。
「お前には元から行ってもらう予定だったんだがよ、公爵様からもお前達のパーティを参加させるようにと要望があったしな」
「僕達のパーティ、ですか?」
「今はサイラスと組んでるんだろ?」
「そうですけど……って、詳しく説明してくださいよ」
と、クラマスから色々と聞き出した話が以下のモノだ。
黄金竜が何十年ぶりに巣から飛び立ったので公爵家と対応を話し合った。
関係各所との長い話し合いの結果、極秘裏にクランと公爵家の合同で黄金竜の巣の調査を行うことにした。
黄金竜の巣への道は秘匿されているので信頼出来るメンバーを厳選する必要があった。
という話を聞いて真っ先に浮かんだのは、何故、僕なんだ? という疑問だった。
「あの……何故、僕なんですか? そんな機密性の高い依頼なら僕みたいな新入りより適任者がいると思うのですが……」
普通に考えて、そんな重要な任務を新人に任せるはずがない。なんだか少し嫌な予感がする……。
「お前、親父と会ったんだろ? ドワーフの里で」
「えぇ、まぁそうですね」
会ったというか、ボロックさんとは一ヶ月ぐらい一緒に生活していたし。
「黄金竜の巣へ続く道はな、ドワーフの里の近くにあんだよ。あそこには死の洞窟やらヤベー場所もあるから昔からずっと秘密にされてたんだ」
「そうでしょうね」
「そんな場所にお前が現れた」
「……」
もう、思いっきり、なにが言いたいのか分かってきた。
まぁ確かに、おかしいよなぁ……。
「それに親父をも救ってくれた回復魔法の腕や、親父の推薦もある。それらを総合して考えるとお前が適任だ」
「なるほど……」
「まっ、お前が何者なのかは知らねぇが、親父が大丈夫だと言うなら大丈夫なんだろうさ」
「……」
ん~これはもしかして、僕は最初から警戒されていた?
ボロックさんの手紙に全て書かれていたからこうなったのか、あの手紙でボロックさんがとりなしてくれたからこれで済んでいるのか。とりあえず秘密保持のための口封じ的な展開にはなっていないのでボロックさんには感謝しておくべきなのだろうか? 難しいところだ。
「出発は二日後だから準備しておけよ。分からないことがあればミミに聞け。分かっているとは思うがこの任務は極秘だからな」
「分かりました」
そうしてクラマスの部屋から退出した。
◆◆◆
「すみません、属性武器の作成をお願い出来ますか?」
「おや、あんたかい」
黄金竜の巣を探索するための準備を考えていて真っ先に思い浮かんだのは属性武器の作成だった。
他にももっと重要な準備はありそうだけど、騎士団の練習を見ていて僕も魔法武器とか属性武器に触れてみたくなったのだ。
魔法武器に関してはお金が足りないし、どこで手に入るのかも分からないけど、属性武器に関しては材料があるので金貨一〇枚で作ってもらえる。今は丁度、公爵様からの報奨金も入ったのでお金もあるしね。なのですぐにドワーフの武器屋に向かったのだけど、親方から「ウルケ婆さんの店に直接頼め」と言われたのだ。属性武具は錬金術師が作るので、完成している素材があるなら錬金術師に頼むのが早いらしい。
「この武器とDランクの闇水晶で明日までに作ってほしいのですが、大丈夫ですか?」
「こりゃまた珍しい素材を持ってきたものだね。まぁ、これならすぐに作れるが、金貨八枚だ」
思ったより安い。金貨二枚分は武器屋を通した時に取られる手数料的な感じなんだろうね。
財布にしている布袋から金貨を取り出してカウンターテーブルに並べた。
ウルケ婆さんはそれを拾った後テキパキと準備を始めた。
「いいかい、属性武器にするってことは武器に属性を融合させるということだからね。一度属性を付けてしまえば二度と取り外し出来ないよ」
「はい、分かりました」
属性を付けたり外したりしたくなるモノなのだろうか? ……いや、確かに貴重な高い剣にBランク魔結晶で属性を付けた後、Aランク魔結晶を手に入れたりしたら後悔するかも。そう考えるとDランクの魔結晶で属性を付けるのってもったいないのかな? せめてCランク魔結晶で作るべきなんだろうか? でも、そんなモノいつ手に入るか分からないし、お金もない。今はこれしかない、か。
そんなことを考えている間にウルケ婆さんは闇魔結晶を手に取り、刀身に押し当てていった。すると以前見た時と同じように、ウルケ婆さんの指先から赤紫の紐が出てきて短剣と魔結晶に絡みつき、そして魔結晶がズブリと沈み込んだ。
闇水晶の短剣が闇色に輝く。
「これは凄いね。Dランク魔結晶でここまでエーテル化が進むとは、やはり水晶は魔力との相性が良いよ」
「エーテル化?」
「そうさ。これは武具と属性の融合なんだ。より魔力との相性が良い素材と、より高濃度な魔結晶を融合させるほど、その存在はエーテル化――つまり、より魔力に近い存在になるのさ。聞いた話では、最高の素材と最高の魔結晶で作った属性武具は完全にエーテル化し、物理的な存在ではなくなると言われているがね」
「物理的な存在では、なくなる?」
なんだか話が難しすぎてよく分からない領域に入ってきた。
物理的な存在ではなくなるとは、つまり実体がなくなる? 存在する物ではなくなるということだろうか? いや、それって武具なのか? どこぞの裸の王様が着ている透明な服と変わらないのでは?
でも確かに、闇水晶の短剣の透明感が増したような気がする。色は薄くなってないけど、まるで存在感が薄くなったような感じ。これが物理的な存在ではなくなっていく、ということなのかな?
「ほら、持っていきな」
「あっ、はい!」
カウンターテーブルに置かれた闇水晶の短剣を手に取る。すると、剣に淡く黒いオーラのようなモノが薄くまとわりついてきた。
これが闇属性の魔力なんだろうか? 先日、見たダリタさんの剣と雰囲気が似ている気がする。普段は普通の剣っぽいのに、人が持つと色付きのオーラを纏うところとか。
凄く気になって、恐る恐る刀身に触ってみた。が、なにも起こらない。
「あぁ、あんたは魔力が見えるんだったね。その剣を覆っている魔力に実害はないよ。魔力は魔法じゃあない。例えば火の属性武器を触っても別に火傷したりしないからね。大体、そんな影響があれば防具を属性武具化出来ないじゃないか」
「なるほど……確かにそうですね!」
あぁ、そうか。この黒いオーラみたいなの、他の人には見えてないんだ。
見えるのは魔力が見える目を持っている人だけ。普通の人には属性武具も普通の武具もほとんど同じに見えるんだね。
「でも、武器としての能力はちゃんと上がっているから安心しな」
「はい!」
ウルケ婆さんにお礼を言い、店から出た。
今はすぐにでもこの属性武器を試してみたい! ……けど今はそれよりも準備をしないとね。
市場に向かい、乾燥肉とか保存食を多めに買い込んでいく。
今回は非常用の食べ物と塩の補充ぐらいにして葡萄酒は少なめにしておく。最悪、水はなんとかなる目処は立ったし、食料なんかはパーティで用意するらしいからだ。
「あとは、なにか必要な物は……と」
なにかあるだろうか? 野営に必要な準備はランクフルトで大体揃えてるし、他に必要な物はないと思うけど。
「こんなものかな? よしっ! 試し斬りに行こう!」
南門から外に出て、近くにある森を目指す。
相変わらず草を刈り取っている冒険者が複数いるので、マギロケーションで周囲を確認しながら人の気配がないエリアに移動した。
周囲を目視でも確認し、腰の短剣を引き抜いて魔力を流していく。
淡い闇色のオーラに包まれた闇水晶の短剣が次第に黒いオーラを帯びていった。
「ふむ……」
確か属性武器化する前に使った時は赤黒い魔力の色を纏っていたけど、今回は黒い闇の色を纏っている。
「これは、闇属性の魔力が流れるようになってる?」
闇属性の魔力に変換されているのか、そのあたりの仕組みはよく分からないけど、属性武器化したことで魔力を流すと自動で闇属性の魔力になるようだった。確かにこれではその属性以外の魔法は使いにくそう。
「光よ、我が道を照らせ《光源》」
闇水晶の短剣の剣先から光源の魔法を発動しようとしてみる。
「……?」
しかし、魔力が短剣のグリップに到達した瞬間、魔力が止まってしまい、魔法が発動しなかった。確か属性武器化する前は使いにくいけど辛うじて魔法は発動出来ていたのに、今回は発動すら出来ないようだ。
次に魔法袋からオリハルコンの指輪を取り出して装着する。
「闇よ、我が身を掴め《重量軽減》」
とりあえず近くにあった岩に向けて剣先から闇属性の重量軽減を使ってみると、前に使った時よりすんなりと発動するような感覚があった。
「なるほどな~」
これは完全に闇属性専用の武器になったっぽい。はっきり言って僕とは一番相性が悪い無縁の武器な気がする。……なんでこんなモノを作ってしまったのだろうか? 金貨八枚も使って。いや、単純に興味が湧いてしまったからだ。これは仕方がない。
気を取り直し、闇水晶の短剣に魔力を流していく。そして一〇センチぐらいの木に向かい、真横から振り抜いた。
スパンという軽い音と共に両断された木が地面にドスンと落ちて倒れる。
「うん、確かに威力は上がっている」
以前より抵抗なく切れるようになっている気がする。Dランクの魔結晶でこれなら多くの武人が属性武器を求めるのも分かる気がするよね。
やっぱり属性武器を作ったのは正解だろう。確実に戦力はアップしたしね。
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