第199話 騎士団と従士団
どこまで行けるか分かりませんが、暫くまとめて連続でアップします。
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「すみません、案内してもらって」
「そんなこと気にすんなって!」
公爵様の部屋を出て、ダリタさんに案内されながら公爵邸の裏側にある練習場に向かっている。
ダリタさんは既にいつもの口調に戻っていて、なんだか逆に違和感がある。公爵様の前のようにちゃんと喋れるのに、何故こんな感じになっているのか謎だけど、こっちの方が僕は話しやすいから助かるかも。
他の皆とは公爵様の部屋で別れた。シームさんは今頃、豪華な食事をご馳走になっているはずだし、ルシールは書庫で本を読んでいるはずだ。サイラスさんは公爵様がもう少し話をしたいと言っていたので、部屋に残っている。なにを話しているのか少し気になるけど……これは後で聞いてみよう。
高そうな壺や絵が飾られた廊下を抜けて裏側の扉から屋敷を出て、花が咲き乱れる庭を通り抜けた先。金属を編み込んだ鉄格子のような門を抜けると土がむき出しの殺風景なグラウンドが現れた。
クランホームと構造が似ているかもしれない。クランホームも中庭の奥にこんな練習場があったし。
グラウンドでは金属の鎧を着た二〇人ぐらいの騎士達がそれぞれの得物で練習試合をしていて、その傍らでは銀の鎧を着た白髪の騎士が腕を組んで彼らを睨めつけていた。歳は六〇か七〇ぐらいだろうか。筋骨隆々で、まだまだ現役感がバリバリ出ている。
「ここが第一騎士団の練習場だ」
「凄いですね。これが公爵様の騎士……様ですか」
騎士についてはよく分からないけど、とりあえずそれなりに身分のある職業っぽいので『様』を付けておくことにした。
「ん~……それは少し違うぞ。ここにいる騎士達はカナディーラ共和国の騎士だ」
あれ? さっきサイラスさんは『公爵様の騎士にしてほしい』と言ってなかったっけ? でも公爵様の騎士ではない?
「元々、騎士は国王によって任命されてたんだがよ、今のこの国には国王がいない。だから替わりに公爵家が任命しているだけで公爵家には仕えてねぇんだ。……形式的にはな」
「……そうなのですね」
なんだかややこしい事情がありそうだ。
形式的には国に忠誠を誓う形は取ってはいるけど、この国には国王がいなくて三公爵によって治められているため、実質的には任命した各公爵の子飼いになっている。そういう感じだろうか。
ファンタジー作品に出てくる騎士って、お姫様に仕えていたり、王様に仕えていたり、貴族に仕えていたり、色々あった気がするけど、どうやらこの国ではちょっと特殊な感じに仕えているのかもしれない。
「あの……騎士についてよく分かってないのですが、例えば門の前を守っていた方は騎士様なのですか?」
「門って外のか? あれなら公爵家が抱えている従士だぜ」
「従士、ですか?」
「あぁ、騎士は騎士爵を与えられた貴族のことで、従士は直属の兵士だな。カナディーラじゃ貴族が騎士を抱えることは許されていないしよ。だからどこの貴族も従士を雇って従士団を作ってんだ」
なるほど。なんとなくこの国での騎士という職業がどんなモノなのかが見えてきた気がする。
つまり騎士とは爵位の一つで、騎士団に所属し、騎士として戦うことで国に貢献することを求められている人。そしてこの国では実質的に騎士爵を与えたそれぞれの公爵の配下になっている、と。
騎士って兵士の上位互換のような感じに考えている部分があったけど、この感じだとそういうモノではないっぽいよね。これは騎士になってしまうと後々身動きが取りにくくなりそう。辞めたいと思っても簡単に辞められそうにないし、これはならなくて正解な気がする。
「では他の国では貴族が騎士を抱えることがあるのですか?」
「貴族が騎士を任命出来る国もあるし、貴族が貴族を配下に持てる国もある。制度は国によって違うからな」
う~ん、どうやらこの世界では画一的な貴族制度はなく、国によってかなり勝手が違うっぽい。恐らく国によって貴族や騎士の身分や権限もかなり違うんだろうね。これは別の国に行く場合は注意しておかないといけないかも。
「おう、姫様ではないか。今日はどうした?」
「おうっ、セム爺! 今日は客を連れてきた」
白髪の騎士がこちらに歩いてきてダリタさんに声をかけた。
間近で見るとデカい。一九〇センチ以上はあるかもしれない。この人が騎士団長なのだろうか?
「公爵様の許しを得て騎士団を見学させていただきます、ルークです。今日はよろしくお願いします」
「見学?」
セム爺と呼ばれた騎士はこちらをチラッと見た後、ダリタさんの方を見る。
なんか、ちょっと怖いよ! この感じ、ダリタさんがいなければ一悶着あったかもしれないな。ダリタさんが来てくれてよかった。
「ウチの冒険者だ。例の黄金竜の毛を入手した冒険者でな、騎士団の練習が見学したいらしい」
「クランの冒険者か。まぁいいだろう」
白髪の騎士はダリタさんに頭を下げ「ではまた」と元の位置に戻っていった。
「セム爺……いや、セムジ・モス伯爵は騎士団の指南役で剣術を教えている。わたしも昔は世話になった」
「あの人が……」
彼が騎士団で剣を教えている一族の人なんだろうね。しかも伯爵ときた。やはりこの国ではかなり重要な人物なのだろう。
「よしっ! 仕切り直しだ! 相手を変えろ!」
モス伯爵の声で練習試合をしていた騎士達が一礼した後、相手を変えてまた練習試合を始めた。
「いいか! 初めて戦う相手だと思え! 相手の力量と武器の性能をすぐに見極めろ!」
騎士達はジリッジリッと距離を詰め、牽制するように剣で突きを入れたりフェイントを入れたりしている。
そういう時間が暫く続いた後、やっと幾人かの騎士が剣で相手を攻撃し始めた。
カツンカツンと剣を盾で弾く音が響く。
どうやら相手の攻撃を基本は避けつつ、避けられない攻撃を盾で弾くのがセオリーっぽい。盾で受け止めるというより受け流すようなやり方。なるほど、確かに基本的には僕が習ってきた日本の武術に近い感じはする。勿論、盾があるのでそこは別物だけど。
と、一人の騎士がバランスを崩し、避けきれなかった攻撃を右手の剣でガキンと受け止めた。
「バカヤロウ! 剣で受けるなといつも言ってんだろ!」
「申し訳ありません!」
モス伯爵が怒鳴り声を上げた。
……ん? 今のはなにがマズかったのだろう? 相手の攻撃を剣で受け止めただけで普通のことだと思うけど。と思ってダリタさんの方を向くと、ダリタさんが説明してくれた。
「相手の攻撃を剣で受けてしまうと反撃出来なくなるだろ。それに――」
ダリタさんが腰の剣を引き抜き目の前に掲げると、その剣が薄く淡い赤色を帯びる。
「騎士が戦う相手は騎士だ。騎士なら属性武器か魔法武器を持っていることが多いからな。魔法耐性のある防具で受け止めないと危ないぞ」
そう言いながらダリタさんは剣を軽く振って見せた。
ダリタさんが持ってる剣って属性武器……なのかな?
「……あの、属性武器と魔法武器について詳しく分かってないのですが、具体的にはどう危ないのでしょうか?」
「ん~、そうだな……属性武器も魔法武器も希少な素材で作られることが多いから業物が多いしよ、属性武器は属性が載る分、切れ味も鋭い。相手の力量によってはこちらの武器ごと持っていかれる。で、魔法武器は魔力をこめるだけで魔法を発動出来るからよ、物理攻撃を防げても魔法は食らっちまうのさ」
あぁ、なるほど。この世界は武具の性能も人の性能も地球人の常識を超えた高さだし、条件によっては普通に剣ごと両断されてしまう可能性があるのか……。
そう考えてブルッと震えが来る。嫌な想像をしてしまった……。
確かに、ゴルドさんの本気の斬撃を受け止めたら、今の僕だと武器ごとぶった斬られそうだ。
それに魔法武器の場合、剣での斬撃は受け止められても、その剣から発せられた魔法は受け止められない。それは恐らく、魔法耐性のある頑丈な盾などで受け止めるか避けるしかないのだろうね。
「まぁ、魔法武器を持つ騎士はほとんどいないんだけどな!」
「と言いますと?」
「まず物に魔力をこめられる奴が多くない。それに魔法武器は魔力を消費するし威力は使用者の魔法能力で決まるんだ。魔法の才能は珍しいしな。それなら誰が使っても威力の高い属性武器を使ってる方が強いだろ?」
……これは面白い話を聞いたかも。
つまり属性武器は誰が使っても武器の性能にプラスして属性ダメージが載って強いけど、魔法武器は使える人が限定されるうえにその威力は使用者のパラメーター依存。そんな感じだろうか。魔法の才能が珍しい以上、多くの人にとっては魔法武器より属性武器の方が圧倒的に有用なんだろう。
でも、これはもしかして、魔法武器って僕にピッタリな装備なのでは?
要するに魔法武器って武術と魔法能力の両方を兼ね備えた人専用の装備ってことだよね? ん~……物凄く欲しいけど、あんまり売っている店も見かけないし値段も高すぎて手が出せない。確か金貨で一〇〇枚とかそんな値段からスタートな代物だったはず。でも欲しい……。やっぱり多少無理してでも頑張ってお金を貯め込んでおくべきなんだろうか。
そんなことを考えながら騎士団の見学を終えた。
ダリタさんと別れ、皆と合流した後、サイラスさんから金貨二〇枚を渡された。どうやら公爵様からの褒美らしい。僕達の望みが黄金竜の素材とは釣り合っていないということで、それにプラスして用意してくれたみたいだ。
しかしこれでもまだ魔法武器には届かない。
良い装備を揃えようとすると湯水の如くお金が消えていく。
エレムの町で属性武器の強化を失敗して燃やしてしまった冒険者が膝から崩れ落ちた気持ちが今ならよく分かる。金貨一〇〇枚単位で買った武具が強化の失敗で一瞬で消滅するのだ。洒落になってないよね。しかし強い者達はそんなリスクを背負って自分の装備にお金をかけていくのだから本当に凄いよね。
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