第290話 町の状況を調べよう
夕方になって夕食を食べに食堂に行くと、今日はいつもより客が多くてザワザワしていた。
食糧不足の件が噂になってきているのかもしれない。
いつものカウンター席に座って注文しようとするとブライドンさんの方から話しかけてきた。
「お前、知ってたのか?」
「はい?」
「食糧不足だよ。知ってたから今になって長期予約したんだろ?」
ブライドンさんはそう言いながら僕の目の前にごった煮を置いた。
「あぁ……いや、知りませんでしたよ。可能性はあるとは思ってましたけど」
やっぱり食糧不足になってたのか……。
「まったく、抜け目ねぇヤツだぜ。まぁうちは保存が効く食料は暖かい内にストックしてあるから当面は大丈夫なんだがよ。このままだったら先は分からねぇな」
「……食糧不足になった原因って聞いてます?」
「あぁ……なんでもコット村との交渉に失敗したんだとよ」
「交渉に失敗? そんなこと、今までにもあったんですか?」
ブライドンは少し考える素振りを見せる。
「不作の年にはそんなこともあった気がするが……。だが今年は豊作ではなかったが例年並みだしよ、よく分からねぇな。……まぁ、その内また条件追加で交渉して買ってくるだろ」
ブライドンさんは「そうなったらどこかの誰かが三〇日分先払いした意味はなくなるな!」と続けた。
ごった煮を頬張りながら片手を振って適当にそれに応えておく。
意外と思ったより楽観的だ。事前に保存食をストックしてあるから大丈夫なんだろうか。
食糧不足にはなってるけど町の住人が危機感を持つレベルではない、という感じ。いや、そこそこ普通の暮らしが出来ている中流層はまだ余裕があっても、その日暮らしの低ランク冒険者なんかには大きな問題になっている可能性はありそうだ。その辺り、少し調べてみるか。
そう考えながら寝て翌日。朝から町を歩きながら情報収集していく。
「やっぱり食料品はほとんど売ってないな」
大通り沿いの店を見てみても食料品なんかはほとんど売っていない。置いていても先日より倍近くに値上がりしている。
やっぱり食糧不足自体は酷い。これがインフレってやつなのかな?
冒険者ギルドに入って中を確認するも、やっぱり人は少ない。
掲示板を見ると、昨日は通常価格で買い取っていた他の店も買取価格を上げたようで全体的に高くなっていた。
少し残っていた冒険者を捕まえて話を聞いても――
「肉が高く売れるからな。儲かりまくってるぜ――」
と言う冒険者もいれば。
「いつもの宿がいきなり今日から値上げとか言いやがってよ――」
と不満を漏らす冒険者もいた。
現時点ではインフレの恩恵を享受している冒険者もいれば、それを悪い方に受けている冒険者もいて、半々という感じだろうか。印象としてはCランクとか比較的高めのランクの冒険者にはメリットが大きいが低いランクの冒険者には厳しくなっている感じか。
冒険者ギルドを出て町の外に向かうため門の方へ歩いていると、それだけでもいつもとは違うことが見て取れた。まず門に近づくにつれ周囲の冒険者の数が激増していった。そして門の近くは人でごった返していて、冬とは思えない状況になっている。
外に出ようとする冒険者。その冒険者にいつもの数倍で物資を売ろうとする露店。
冬になってからは見なくなっていた賑わいがそこにはあった。
「安いよ! 干し肉、一束で金貨二枚だ!」
「ホーンラビットの肉、金貨一枚で買い取りだよ! 狩ったらこっちに持ってきてくれ!」
辺りでそんな声が飛び交っていて、ダンジョン前のような状態になっている。
人混みをかき分けて門の外に出ると、そこにも人だらけでいつもの数倍はいた。
「……これじゃ狩りなんて無理でしょ」
どこにこんな冒険者がいたんだ? ってぐらい数がいて、四方八方に散らばっている。
いや、よく見ると、マトモな装備を持たない一般人っぽい人も参戦しているし、スラムから参戦してるっぽい人もいる。もう完全にお祭り状態だ。
「おい! お前ら、ついてくるんじゃねぇよ!」
「なに言ってやがる! てめぇらこそ消えやがれ!」
人数が増えすぎると狩り場の争いも増えるようで、そこら中で言い争いが起きている。
「これは、ダメだな……」
狩りにならないし、いらぬ問題も起こりそうで怖い。
もう少し槍を実戦で慣らしていきたかったけど、今は無理そうだ。
――と思いつつ、マギロケーションでなんとか見付けたホーンラビットを一匹だけ狩り、町に戻る。
そして教会に向かい、孤児院の方に顔を出した。
「あぁ! お兄ちゃん、久しぶり!」
「シオンだ!」
「遊ぼうよ!」
シオンを出して床に置くと子供達が群がってきて、シオンを触ったり抱き上げたりワチャワチャしている。
「ジョンはいる?」
「部屋にいるよ~」
小さな女の子にそう教えてもらい、彼らの部屋に入る。
「兄貴!」
「元気にやってる?」
部屋の中にはいつものメンバー、ジョン、サム、ノエ、ブーセの四人がいて、ベッドに腰掛けたり寝転んだりしてダラダラやっていた。
「最近どう?」
「あまり良くないっすね。鉱山の仕事も減っちまって……。昨日は思いきってホーンラビット狩りに出たんすけど、人が多すぎて無理っす!」
「一匹も狩れなかったね……」
やっぱりランクの低い冒険者には難しい状況になっているようだ。
「鉱山の仕事ってまだ減ったままなの?」
「前より悪くなってるっすよ!」
「……理由は聞いた?」
「誰かが掘っても売れないとか言ってたような……」
掘っても売れない、ね……。
金属の需要が減ったのか、それとも……。
っと、忘れるところだった。
「このホーンラビット、孤児院で食べて」
ホーンラビットをジョンに渡した。
「あざっす! うちのチビらも喜ぶっすよ!」
部屋を出て、もみくちゃにされてるシオンを回収してから教会の方にも顔を出す。
そしていつものようにテスレイティア像の前で祈る。
膝を突き、手を合わせ、目を閉じて祈る。
しかしこの状況、本当に大丈夫なのだろうか?
様々な情報を総合して考えると、この町が良い方に向かっているとは思えない。
でも、それは僕がどうにかしなきゃいけないような問題でもないし、僕がどうにか出来る問題でもない。それでも、自分は関係ないからと座して待てばいい問題……とまで突き放して考えたくもない。
なんとも言えない、出来ない微妙な感じ。
目を開き、立ち上がる。
「なにかお悩みですかな?」
「悩み……」
司祭様の言葉に暫し考える。
これは悩み、なのだろうか?
そして逆に質問する。
「司祭様は、この町の状況をどう見ているのですか?」
「そうですな。あまり良い状況ではないかもしれませぬな……」
そう言って司祭様はテスレイティア像を見上げる。
「しかしこの世の摂理は振り子のようなモノ。一方に強く振れるからこそ逆側に振れる力も強くなる。悪い方に振れるからこそ次に良い方にも振れるのです。我々はその振れの中で各々が出来ることを精一杯やるのみですな」
分かったような分からないような……。
「各々が出来ること……」
「教会では毎年、冬になると炊き出しをしております。残念ながらそれだけでは多くの人々を救うことは出来ませぬが、それで救える人もいるのです。そういった小さな積み重ねで動くモノもあるのですぞ」
「炊き出し、ですか」
「えぇ、有志から寄付を募って貧しい人々に炊き出しをするのです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます