第213話 エピローグ+
遅くなりました。
pixivに挿絵を公開する事にしました。
https://www.pixiv.net/users/42913718
極スタの設定資料集を作りました。
不定期で更新&追記するので、たまに見ていただければと。
https://kakuyomu.jp/works/1177354055538793443
―――――
「はぁ……さて……」
大きく深呼吸し、周囲を見渡してみる。
荒れ果て陥没した地面。薙ぎ倒された木々。そして地面に横たわる人。
さっきまでここにいたはずの多くの人々はいなくなっている。
ある者は負傷して町の中に運び込まれ。ある者は黄金竜に吹き飛ばされ。ある者は黄金竜に敵わないと気付いた瞬間、全速力で逃げ去った。
「目撃者が少ないのは良いことだけど……」
う~ん、仕方がなかったとはいえ、神聖魔法を人前で堂々と使ってしまった。今後どうするのか早急に考えないとヤバい気がする。
そう考えていると、遠くの方でモス伯爵が声を張り上げ、事態を収拾しようとしていた。
「引き続き警戒を怠るな! 動ける者は負傷者を回収しろ! 敵軍は追わなくていい! 公爵様に事の次第を報告!」
その声に騎士達が立ち上がってバタバタと動き始める。
以前ランクフルトでグレートボアを倒した時のような浮かれた空気は、そこにはなかった。
彼らを眺めなら腕の中のシオンを撫でていると、ボロックさんがこちらに歩いてきた。
「その様子じゃと怪我はなさそうじゃな。しかしルークよ、あんな切り札を持っておったとはの。お前さんにはなにかあるとは思っとったんじゃが、あんなモノは想像しておらんかったわい」
「切りふ……そうですね。それなりに色々とありますから」
長いこと冒険者をやっていると誰でも切り札の一つや二つは持つようになる、と聞いたことがある。
毎回使うにはコストが高いアイテムだったり、持っていることを他人に知られたくない特殊な装備だったり、そして使えることを知られたくない魔法だったり。
確かに神聖魔法は僕にとっての切り札だ。
「で、ルークよ、さっきのアレはなんじゃ?」
「サラッと聞いてきますね……まぁ、僕のとっておきの切り札ってことで」
「そうか。なら仕方ないのぅ」
冒険者の手の内を必要以上に聞こうとするのはマナー違反だ
しかしボロックさんがこうやって聞いてくるということは、ボロックさんレベルの人物でも神聖魔法を知らない、という予想の補強になった。
やっぱり神聖魔法はそれだけレアなのだ。
そのことを確かめられたのは良かった。……と思っておくしか今はない気がする。
「それで、お前さんはこれからどうしたいんじゃ?」
「……どう、とは?」
「アレは少々、目立ちすぎじゃったからの」
「まぁ、そうですね……」
ディバインシールドが目立ちすぎだったのは自分でも理解している。
黄金竜のブレスを防ぎきったのだから。
「ところで、地位や名声に興味はあるかの?」
「あまり、ありませんね」
現時点においては、地位や名声はデメリットの方が大きい。
それだけ注目されたことで起こり得る問題を跳ね返すだけの実力が僕にはまだないからだ。
「ふむ……」
ボロックさんはそうつぶやき、腕を組んだ。
「ならば別の町に移る方がええかもしれんのぅ」
「別の町、ですか?」
「シューメル公爵の庇護下に入るなら、なんとでもなるんじゃがの。それは嫌なんじゃろ?」
「そうですね」
シューメル公爵の庇護下、ということは子飼いになるということだろう。
う~ん、今は国に縛られたくはない。
まだ僕は、世界を見ていないのだから。
「ボロックさん。僕がこの町に残ったら、具体的にどうなりますか?」
「そうじゃのぅ……まぁ、おまえさんのことを調べようとする連中は増えるじゃろうて。シューメル公爵を筆頭にの」
「あー……」
それは良くない。
ぶっちゃけ、この世界の実力者に本気で調べられた場合、どこまでバレてしまうのか読めないのが大問題だ。もしかすると僕がまだ知らない諜報向きの魔法やアイテムがあるかもしれないし。
それに、そういう相手から調べられるような状況になって、息の抜きどころがない生活になるなんてまっぴらごめんだ。
「それに、今回はグレスポ公爵方の騎士も見ておったからのぅ。それがどうなるか」
「う~ん……」
グレスポ公爵側との戦闘の中で目立ってしまったことで、あちらに注目されてしまった可能性もあるのか。
もしかすると変に恨まれたりする可能性も……。
どんどん気分が重くなってくるぞ……。
「……もう少し考えたいと思います」
「そうか。まぁ、どちらを選んでもワシがやれることはするつもりじゃからの」
「どうして、そこまでしてくれるのですか?」
「そりゃあ、命を救ってもらったしの。それに今回は町もじゃろ」
「あれは……」
黄金竜は僕を狙った、という言葉が口から出かかり、寸前で止まる。
それは言っても仕方がない。
「ありがとうございます」
◆◆◆エピローグ
「わが呼び声に答え、道を示せ《サモンフェアリー》」
クランハウスにある自室の中、いつものように立体魔法陣が割れてリゼが飛び出してきた。
「こんにちは!」
「やあ、こんにちは」
「キュ!」
なんだか久しぶりにリゼに会えた気がして、少しホッとする。
最近は色々あったもんね……。まだまだ問題は継続中だけど。
「ルーク! だから喧嘩しちゃダメって言ったのに!」
「あー……あっ! 確かにそう言われてた! ごめん! いきなりのことで動転してたんだ」
「もー!」
そうだ。以前、リゼを召喚した時、確かに黄金竜と喧嘩をしてはダメだと聞いたはず。
その時は黄金竜と喧嘩なんて成り立つわけがないと思っていたから真剣に聞いてなかったかも……。
「ドラゴンさん、ちょっと怒ってたんだからね!」
「そうか……。また会う機会があれば謝っておかないとだね」
もう二度と会いたくない気もするけど……。
「それで、さ。これから西に旅に出ようと思うんだけど、リゼはどう思う?」
「いいと思う!」
「そっか」
これまで、重要そうなことをあまりリゼに質問しないようにしていた。
いくらリゼの言葉が当たるとは言っても。
いくらこれまでリゼの言葉に助けられてきたとしても。
誰かの言葉で自分の行動を決めるのは良くないからだ。
誰かの言葉で行動して失敗したら、その誰かを責める心が生まれてしまうかもしれない。
それが怖かったんだ。
でも、今回は聞いてしまった。
「ありがとう。決心がついたよ!」
「うん!」
それからすぐ、ボロックさんに会いに行った。
「決まったかの?」
「はい。この町を離れようと思います」
「そうか……寂しくなるのぅ。まぁ、ワシはいつも一人であの洞窟に住んどったんじゃがの」
そう言ってボロックさんはガハハと笑った。
「もう町に住めばいいのでは?」
「実はの、そうすることに決めたんじゃ。あの洞窟は、埋めることにした」
「そう……なのですね」
「あの洞窟は……危険すぎる。死の洞窟もそうじゃがの、今回のことで黄金竜の巣の問題も増えてしもうた。このままにしておけば、いつかあの洞窟が新たなる問題を引き起こすじゃろう。その前に埋めるべきじゃよ」
そうかもしれない。
僕にとってもあの洞窟は思い出深い場所だけど、僕よりも強い愛着を持つボロックさんが決めたのなら、僕が口を出せる話ではないよね。
そう考えていると、ボロックさんが後ろの棚から布袋を取り出し、机の上に置いた。
「これは?」
「黄金竜の巣の調査の報酬じゃよ。それと、アーティファクトの代金もな」
その布袋を持ち上げてみると異常な重さを感じ、慌てて中を開けてみる。
「金貨六〇〇枚ある」
「ろ、六〇〇ですか?」
「アーティファクトの代金じゃからの。そんなもんじゃよ」
桁外れの金額にビックリするも、ありがたく受け取っておく。
「黄金竜の爪には席は残しておくからの。いつでも戻ってきていいんじゃぞ。ほとぼりが冷めたら戻ってくるのもアリじゃよ」
「ありがとうございます!」
ボロックさんに礼を言って別れ、鍛冶屋の親方やウルケ婆さん、ダリタさんやミミさんなど、会える人には会って報告していった。
そしていつものように食堂にいたサイラスさん達の元に向かい、ここでも別れの報告をした。
「そうか……寂しくなるな」
「えぇぇ! ルーク、別の町に行くの?」
「……そう」
仕方がないけど、なんだかしんみりした空気になってしまう。
でも、旅をすると決めた時点で、こういった別れをいくつも繰り返していくのは分かっていた。
分かっていたけど、やっぱり寂しいものだよね。
「いつ発つんだ?」
「急だけど、明日には出ようと思ってるんだ」
「そうか……。まぁ、冒険者には出会いと別れは付き物だ。今日は飲もうぜ!」
「そうね! 飲もうよ! シオンもね!」
「キュ!」
「いや、シオンはダメだろ」
「それじゃー、ルークの門出に、乾杯!」
そうしてその日は飲み明かし、翌朝。
よく晴れた青空の中、サイラスさん達やボロックさんが門の前まで見送りに来てくれた。
「これが今生の別れというわけじゃないんだ、また会おうぜ」
「そうだね! またどこかで会おうよ! シオンもね!」
「うん! また会おう!」
「キュ!」
サイラスさんとシームさんと握手を交わす。
「……ルーク。その、色々とありがとうね。ルークのおかげで色々と知ることが出来たから……」
「うん」
「またね」
「またどこかで」
ルシールとも握手を交わす。
「ここから西に進めばアルメイル公爵の領土に入るじゃろう。そちらなら比較的過ごしやすいはずじゃ。達者でな」
「ボロックさんもお元気で」
ボロックさんと握手を交わし、乗り合い馬車に乗る。
馬車がガタリと動き出し、皆が少しずつ小さくなっていく。
何度経験しても別れというモノには慣れそうにない。
馬車が門を超えた時、ボロックさんが右手を上げた。
「ヨーホイ」
その言葉に懐かしさを感じながら僕も右手を上げ、言葉を返す。
「ヨーホイ」
その言葉を残し、馬車は進み続ける。
次の目的地はアルメイル公爵が治める町、アルッポ。
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