アルッポ・裂け目のダンジョン編
次の町はアルッポ
第214話 アルッポの町
長らくお待たせしました。極スタ再開します!
予定としては来月までにここの章を最後までやるつもりですが、最後の設定部分がどうしても決まらなくて、困っていて、ズレるかもしれません。
カクヨムでの報告が非常に遅れて申し訳ないのですが、2021年4月5日に極スタ小説版4巻が発売されています。コミカライズ版3巻も7月9日に発売されました。よろしくお願いします!
コミカライズ版は引き続きニコニコ静画・コミックウォーカーで連載中で、毎月第1金曜日(本日)に更新されています。
現在は2巻の終盤部分、エレムのダンジョンのクライマックス部分に入るところですね!
そして、カクヨム版も勿論続きますし。書籍版に関してですが、こちらも恐らく大丈夫だと思われます。
それでは引き続き、お付き合いいただければ嬉しいです!
――――――――――――――――――――――――
ゴトゴトというボディブローを尻から受けながら薄暗い乗合馬車の中で耐える。
なんだか前にもこんなことがあった気がするけど、気のせいだろうか?
アルノルンの町から出発して数日、いくつかの村で泊まりながらひたすら西へ向かう日々。次の目的地であるアルッポの町にはまだ着かない。
しかし馬車の乗り心地はどうにかならないものだろうか。可能なら板バネでも作って馬車をもっと快適にしたいところだけど、残念ながら僕は板バネの作り方なんて知らないし、知ってても作りようがない。僕にはそんなスキルはないからだ。
「あっ――と」
そういえば、忘れてた。と考えながら胸に手をやり、黄金竜の爪のバッチを外す。
アルノルンを離れる前、ボロックさんに言われたのだ。シューメル公爵の領地を抜けたら黄金竜の爪のバッチを外した方がいいかもしれないと。
黄金竜の爪がシューメル公爵とズブズブの関係なのは国内貴族なら誰でも知っている。そしてこの国の三公爵はどうしようもないぐらい仲が悪い。それこそチャンスがあればすぐに内戦を始めるぐらいに。
先日の黄金竜騒動が良い例だろう。
まぁとにかく、黄金竜の爪のメンバーであることを表に出すメリットはあるけど、他の地域ではデメリットもある、という話。
「……」
乗合馬車の中、向かい側に座っている黒いローブの陰気臭い男がなにかをつぶやいた。
男はフードを深くかぶっていて、その顔は見えない。
一つ前の町で乗ってきたこの男、どうも思いっきり怪しい……。まぁ、怪しいからといって、どうすることも出来ないのだけど。
「アルッポが見えたぞ。門の外で降ろすから準備してくれ。町に入るには手続きが必要だからよ、間違っても勝手に門を抜けようなんて考えるなよ。その場でたたっ斬られたいなら別だがな」
そうこうしていると、乗合馬車の御者が振り返りながらそう言った。
何人かの冒険者が小さく「くくっ」と笑う。
どうやらアルッポの町にはそこそこ厳しい入場制限があるらしい。これまで訪れた町にはそんな制度はなかったので少し驚いていると、進行方向から喧騒が近づいてきて、そして乗合馬車が止まった。
「着いたぞ」
乗合馬車を降りると、そこには大きな石の壁が見え、その入口の門の前に人の行列。周囲にはいくつもの馬車がバラバラに停車していた。どうやら乗合馬車は町の内に入れないらしい。
見るからに長い行列に軽くため息を吐きながら並び、暇潰しがてら、これからのことについて改めて考えていく。
この町はアルッポ。カナディーラ共和国の三公爵の一人、アルメイル公爵が治める町。裂け目のダンジョンと呼ばれているタイプのダンジョンが町の中に存在し、大きな錬金術師ギルドがあることでも有名だ。
僕がこの町に来た主な目的は三つ。まず錬金術師ギルドで魔道具の『コンロ』の製作者を調べること。次に裂け目のダンジョンというまったく新しいタイプのダンジョンの調査。最後は単純にレベル上げだ。
裂け目のダンジョンについては、その話を聞く限りでは凄く興味深い場所だと感じるし、ここを調べることはこれからの人生においても重要だと思う。そしてレベル上げについてだけど、ランクフルトのスタンピードの頃からずっと強烈に必要だと思っていたし、エレムでは良い感じにレベル上げが出来ていたけど例の騒動でエレムを出るしかなくなり、そこからについては流れに身を任せるままになっていた。
結果的に流れのまま戦争にも参加した。
あの時はそれで仕方がなかったのだけど、ただただ一つの駒として盤上に立ち続けていては命がいくつあっても足りない。もう少し自分で状況を変えられる力を得たい。そう思う。
「道を空けろ!」
後ろからのそんな声に列の左手を振り返ると、高そうな装備に身を包んだ騎士二人が馬に乗って現れ、その後ろから、これまた高そうな装飾に包まれた馬車がゆっくりと近づいてきた。
彼らはさも当たり前のようにノーチェックで堂々と門を抜け、町の中に入っていく。
どうやら貴族とか官僚のお偉方らしい。門の衛兵は彼らのチェックをするどころか、ただ頭を下げて見送っている。これが身分の差というやつだ。そういった身分に自分もなりたい! とは面倒くさそうなので思わないけど、そういったモノを跳ね除けられるだけの力は確保しておくべきなのかもね。
「次! 早くしろ!」
先程まではうやうやしく頭を下げていた衛兵が叫ぶ。
あまりの変化っぷりに人格が入れ替わったのかと疑いそうになるけど、ああいった職業にはそういったモノも必要なのだろう。上の偉い人にはペコペコ頭を下げ、下々の者に対しては威厳を演出しないといけない。中間管理職的なやつだ。
前に並んでいた男――よく見ると馬車の中で怪しさを振りまいていた例の男が前に進み出て、門の横に設置された水晶玉みたいなモノに手をのばす。
「あれは……」
あれは『真実の眼』だ。
以前、僕が黄金竜の巣の近くの廃墟で見付けたアーティファクト。恐らくそれと同じモノ。
真実の眼とは犯罪者を見分けるアーティファクトで、一般人が触ると青く光るけど犯罪者が触ると赤く光る。つまり――
「あっ!」
「これは!」
周囲の衛兵がざわめき、緊張が走る。
「……」
「……」
衛兵の一人がゆっくりと真実の眼に近づき、顔を近づけ、念入りに観察する。
「……どうなんだ? これは」
真実の眼は弱々しく、青っぽいような、灰色っぽいような、不思議な色を放っている。
すると一人の衛兵が真実の眼の近くにいた衛兵に走り寄り、小声で囁いた。
「恐らくギリギリ青かと。犯罪者スレスレですが。それに……こいつはギルドの錬金術師です」
「……チッ! 通れ!」
黒いローブの怪しい男は軽く頭を下げると町の中へゆっくりと歩いていった。
真実の眼は人を単純に二つに別けるのではなく、光の強さでその度合も表示する。つまりあの男はそれなりに良いことも悪いこともやっているのだろう。
「これだから錬金術師は――」
列の後ろの方からそんな声が聞こえてくる。
なんとなく、この町の錬金術師ギルドというモノが怖くなってきたかもしれない。
「次!」
僕の番が来たので緊張しながら真実の眼に手を乗せる。
次の瞬間、真っ青な光が放たれ、周囲を青く染めた。
「んん?」
なんか、前に触った時より色が濃くなってない?
自分としては、戦争で色々あったり聖獣とバトルもしたし、ワンチャン赤くなっていたらどうしよう……ぐらいの気持ちがあったのだけど、むしろ青色が強くなっている。これは一体、僕のどういう部分が評価されたのか、僕自身にも皆目検討が付かない。
「……あのぅ、もしかして教国から来られた司祭様でしょうか?」
先程まで偉そうに振る舞っていた衛兵がおずおずと話しかけてきた。
「いっ、いえ! ただの旅のヒーラーです」
そう返すと衛兵達が「えっ?」と言いながら顔を見合わせた。
そして広がる沈黙。
なにこの僕が悪いみたいな空気……。
「んん……おほんっ……。通ってよし!」
「……はい」
さっきはおずおずと話しかけてきた衛兵が偉そうに叫ぶ。
なんなんだよ、もう……。人間不信になるぞ。
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