第215話 裂け目のダンジョンの姿
Twitterで自前挿絵を公開しています。
https://twitter.com/kokuitikokuichi/status/1433938527947874305
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町の中に入ると最初に目に飛び込んできたのは円形の広場。直径は二〇メートルぐらいだろうか。周囲には露店が並び、冒険者や町人がそこで物の売り買いをしている。
が、なんだか少し違和感のようなモノを覚えた。
パッと見た感じはよくある町並みだし、おかしな部分は見当たらないけど、どこかおかしい。
「……そうか」
おかしいのは冒険者の姿だ。
大体の冒険者は鎧を着て剣か槍か弓あたりを持っている。ところがここの冒険者は、棍棒やメイスを持っているのだ。
目の前を横切った大男は巨大なハンマーを背負っていたし、左側を通り過ぎていった猫耳のお姉さんはバットっぽいなにかを腰から吊るしている。屋台のおばちゃんは棍棒っぽいモノを握りしめているし――ってこれは調理器具か……。
おばちゃんはウシガエルの五倍はありそうな巨大なカエルの足の肉に棍棒をバスバス叩きつけながら叫ぶ。
「寄っとくれ~! マッドトードの叩き焼きだよ!」
……とにかく、剣や槍を持つ人もいるけど、ここでは少数派みたいだ。
まぁ、地域によって色々と事情が変わるのかもしれない。他の地域では勇者の伝説の聖剣に憧れて子供達が剣を握るけど、この地域の子供達は屋台のおばちゃんに憧れて棍棒を握る、みたいな状況だってありえるし。
……いや、ないか。
気を取り直して周囲を散策しながら冒険者ギルドを探す。
大体の傾向だけど、冒険者ギルドは比較的分かりやすい位置に置かれやすい。町の中央部とか、門やダンジョンの前とか。そして貴族がよく住んでいる高級エリアには置かれない。
なのでこの場所にあってもおかしくはないのだけど……。
「ない、かな……。すみません、冒険者ギルドはどちらですか?」
「ギルドなら町の北側だ。この道を真っ直ぐ行けばダンジョンが見える。そこまで行けば分かるはずだ」
「ありがとう」
「あぁ、また寄ってくれよ」
屋台のおじさんに礼を言い、指示された大通りを進んでいく。
この町は他の町と同じように石の壁に包まれているけど、内部は同じ規模の町より整備されていないというか発展していない感じがする。道はほとんど石畳が敷かれておらず、土がむき出し。馬車の車輪による轍が残っている。建物も木製がほとんどで、急造したような簡易的な建物もちらほら見える。ここの領主があまりお金をかける気がないのか。或いはこの町がまだ出来て間もないか。
少し気になるけど、今の僕にはあまり関係ない話かな。
そんなことを考えつつ、少しうねった大通りを歩いていると、ついに目的の場所にたどり着いた。
「……これが、裂け目のダンジョン?」
大通りの先は五〇メートル以上はありそうな大きな広場になっていて、その周囲を取り囲むように建物が建っている。広場の中には屋台や露店がいくつもあって、沢山の冒険者達もいる。
そして、広場の中央にある裂け目。裂け目だ。
まるで空間を左右に引き裂いたように縦に裂けた空間。高さは五メートルぐらい。幅は広い部分で二メートルぐらいはあるかもしれない。裂け目の中は赤紫のような黒のような不気味な色に染まっていて、中央部ではそれらの色がグルグルと渦を巻いていた。
「いや、でも……」
どうしてむき出しなんだろう?
ダンジョンは稀に大量のモンスターを外に吐き出すことがあるらしい。それが起きる条件はよく知らないけど、そういうことがあるからダンジョンの周囲に町を作る場合はダンジョンそのものを壁で囲むことが多いらしい。
エレムのダンジョンなんかはその典型だろう。あそこは何重もの高い壁を作り、もしモンスターが溢れても町に被害が出ないようにしていた。しかしここには柵すらない。モンスターが溢れない確信があるのか、止める自信があるのか、それとも……。
まぁ、今は考えても分からないか。ダンジョンは後回しだ。
周囲を見渡すと左側に冒険者ギルドを見付けたので中に入る。
中の構造はよくある冒険者ギルドと同じで、右側に酒場と冒険者の休憩スペース。左側に依頼などが張り出される掲示板があり、正面にはギルドのカウンターがある。中途半端な時間だからか冒険者の数は少ない。
扉を開けた瞬間からの視線と探るような空気を無視しつつギルドカードを取り出し、カウンターに差し出した。
「すみません。今日からこちらでお世話になるつもりなのですが、ランクアップの基準とか教えていただけますか?」
受付嬢は「はい」と答えると僕のギルドカードを手に取り確認し、机の中から資料を取り出した。
「CランクへはCランク魔石一〇〇個納品が基準です。依頼を成功させた場合に関しましては、その難易度から当方で独自に査定して評価に組み込むよう努力しております」
なるほど『努力しております』か。つまり基準はあるけど振れ幅はある感じね。F、E、Dランクまではそれぞれのギルドの裁量で昇格させられるらしいし、Cランクは一部の限られた町のギルドではギルドマスターの裁量で昇格させられる。Cランクまでは誰をどう昇格させるかは個々のギルドに委ねられているので基準に文句は言えない。
そして魔石一〇〇個という基準は比較的妥当なラインだと思われる。
エレムのダンジョンに潜っていた頃は一日に一〇体や二〇体のモンスターを狩っていて、そのペースで考えると一〇日もかからずDランクに上がれるはずだけど、それはあの時の僕がソロで、しかも人が少ないアンデッドエリアで狩りが出来たからで、通常はもっとモンスターの取り合いになって狩れる数は少ないし、パーティを組んでいるので取り分は等分されるからもっと実入りは少なくなる。それにエレムのような迷宮型ダンジョンではモンスターの剥ぎ取りをする必要がなく、ドロップアイテムも少ないので運搬の手間も少なくて済んだ。
実際、ランクフルトにいた頃、ダン達のパーティでエルシープを狩っていた時は一日に一~三体ぐらいが限界だった。エルシープは全身が素材で丸々全て持ち帰る必要があったので時間がかかったのもあるけど、あのペースで考えると魔石一〇〇個までにはどう計算しても一〇〇日以上はかかったはずだ。
「なるほど。この辺りの冒険者って、やっぱりダンジョンに潜る人が多いんですか?」
「そうですね……。基本的にはダンジョンを目的にされている冒険者の方が多いと思います」
などと話を聞いていると後ろの扉がカランと開く音がして、何人かの足音がコツコツと響いた。その足音は真っ直ぐにカウンターの方へ向かってきて、僕の隣のブースで止まる。
少し気になってチラリとそちらに目線を動かす。
歳は今の僕より少し年上ぐらいの男性。背は僕より少し高く、顔立ちは比較的整っていて、金髪とギラギラとした瞳が内なる闘争心を表しているような雰囲気を持ち。そして、その金髪と合わせたような黄金色の鎧がキラキラピカピカと輝いていて……。
うん、これはどう見ても廃課金プレイヤーです。本当にありがとうございました。
「冒険者登録をしたいのだが」
「はっ、はい!」
隣の受付嬢が慌てたように返事をした。
と思ったら今から冒険者登録だと? リセマラ組か?
「これをギルドマスターに渡してほしい」
「これは……公しゃ――失礼いたします」
隣の受付嬢は大きく頭を下げると、その勢いでBボタンを押したかのような全力ダッシュでギルドの奥にすっ飛んでいき、すぐに戻ってきてまた頭を下げた。
「ギルドマスターがお会いになるそうです。奥の応接室へご案内いたします!」
「分かった」
キラキラした男はそれだけ言うと、さも当たり前のように受付嬢の後に続いてギルドの奥へ消えていった。
「一体なんなの……」
「さあ?……」
僕のつぶやきに、前にいる受付嬢が気の抜けた言葉を返した。
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