ザンツ王国編

ルバンニの町へ

第263話【SS】アルッポの鍛冶屋と町のその後【&ご報告】

SSを書きました。

同時にKSP限定でも別のSSを公開しています。

【限定公開SS】ザンツ王国の商人

https://kakuyomu.jp/users/kokuiti/news/16817330653133837305

2つ共に次の章に繋げるための内容になっています。

どちらもWEB限定になる予定です!


そして、こちらでの報告が遅くなってしまいましたが、小説版5巻が2022年12月28日に発売しました!

WEB版での262話までが収録されている本ですね。

書籍版の情報や追記内容についての詳細は↓にまとめています。

https://kakuyomu.jp/users/kokuiti/news/16817330649705308956

5巻発売記念SSも↓書いています。

【限定公開SS】クアンルンガの背に乗って【極スタ5巻発売記念】

https://kakuyomu.jp/users/kokuiti/news/16817330650930595722


また、漫画版の5巻も2022年10月7日に発売しております。

こちらは書籍版3巻の内容に突入した頃の話になっています。


それでは長くなってしまいましたが、WEB版、書籍版、漫画版、共によろしくお願いいたします!

(近い内にWEB版、再開します!)



――――――――



「親方、次回の仕入れですが、どうしやす?」


 裏口の横でいつもの出入り業者と話していた三番目の弟子がそう聞いてきたので『親方』と呼ばれた男は「……んなもん決まってんだろ」とイスに座ったまま左手を適当に振ってあしらった。

 三番目の弟子は『だってさ』と言わんばかりに両手を小さく広げ、出入り業者を見る。

 出入り業者の男は少し焦ったように三番目の弟子をチラリと見た後、意を決したように親方の方に近づいていき、最後の説得を試みた。


「親方、そんなこと言わないでくださいよ……長い付き合いじゃないですか」


 親方はそれを片目でチラリと確認した後、出入り業者の方を向いて「あのなぁ……」と喋り始める。


「お前、ここに来るまでに町をちゃんと見てきたのか? それなら分かるだろ、この町がどんな状況なのかを」

「……それは、見てきましたがね」

「裂け目のダンジョンが消滅したんだ。冒険者の数も激減してやがるし鍛冶屋の客も激減しちまった。うちはギリギリ持ちこたえちゃいるが、それでも仕入れなんざ出来るような状態じゃねぇよ」

「いや、勿論それは理解してますがね。でもいきなり取引を止めるなんて……もうどうしたらいいか……」


 親方は爪先で机をトントンと叩きつつ、なにかを考えるように天井を見上げ、そして「はぁ……」と息を吐く。


「……俺だって悪いとは思っちゃいる。そっちの先代からのアレだしよ、薄い付き合いじゃねぇしな。だが俺にどうしろってんだ? もうこの町じゃ以前のように武具を買いたがる客はいなくなっちまったんだぜ」

「それは……」


 出入り業者の男は言いよどみ、うなだれる。

 このアルッポの町が発展した理由でもある裂け目のダンジョンが消滅した以上、アルッポに滞在していたダンジョン目当ての冒険者は別の町に消えるわけで、武具の需要が減るのは必定。そうなれば武具の材料である金属やモンスター素材の需要が消滅するのは当然の流れである。

 出入り業者の男もそれは分かってはいたが、それでも長年、商会を支えてきた販路のいきなりの消滅は受け入れ難いモノがあった。


「大体、これまでの状況が特殊すぎたんだ。ダンジョンなのに武具素材がほとんど出ないなんてな」


 親方はそう言って出入り業者を見る。

 旧アルッポのダンジョンは別名『アンデッドダンジョン』と呼ばれるぐらいアンデッドが多く、そのため武具に使える素材がスケルトン等の剣を潰して作る底質の屑鉄とアシッドフロッグなどのカエル類のなめし革ぐらいしか存在しなかった。そしてこの国では三公爵の仲が悪い。なので素材は他国からの輸入に頼るしかない状態が続いていたのだが、その状況が特殊だったのだ。


「それは勿論、分かっています。しかし……どうにかなりませんか? このままだとザンツ王国にあるうちの商会も潰れてしまいます……」

「そうは言われてもな……」


 なんとか出来るなら考える余地はあるが、そもそも町の人口が減ってしまっている状態では需要自体が存在しないので工夫でどうにかなる状況ではなかった。


「まぁ、悪いが今回は帰ってくれや。また面白いモノでも作りたくなりゃぁ呼ぶかもしれねぇからよ」


 親方はそう言いながら踵を返し、店の奥へ歩いていく。

 親方のその背中が店の奥に消えてしまったら、出入り業者の男が先代から受け継いだ大口販路が消滅してしまい、彼の店が大打撃を受けることは確実。

 出入り業者の男は考えた。考えて考えて考える。

 男の脳が経験したことがないレベルの集中状態に入り、神経が研ぎ澄まされ、男の視界の中で親方の動きがスローになっていく。

 男の額に汗が滲む。

 状況を打開するため、彼の眼球が店の中の四方八方をさまよい、情報を収集していく。

 そしてその瞳がある一点に止まった。

 店の棚に置かれていた真っ黒い金属製の大きな棍棒――オーガメイス。以前、親方が自信満々に披露してくれたが、重たすぎて誰もマトモに扱えず、売れ残ってしまった一品だった。

 それを見た瞬間、男の頭の中でピカリと光源の魔法が放たれたような天啓が落ちてきた。


「お、おおお親方!」


 出入り業者の男は店の奥に消える間際の親方をギリギリで呼び止めた。


「あんだ?」

「親方! 面白い提案があります!」


 彼は喋った。必死で喋った。彼のこのプレゼンの出来で彼の商家の命運が決まってしまうからだ。

 これまで商人として培ってきた知識とトーク力とゴマすりの全てを注ぎ込んで必死にアピールした。

 アピールして、アピールして、アピールした。


「――ということで、これを名付けて『ドラゴン・マッシャー』と呼びます! これを一振り出来れば、かの有名な黄金竜でさえ一撃でぶっ潰せますよ! 間違いないです! えぇ!」


 出入り業者の男はそこまで一気にまくし立てた後、荒くなった呼吸を整えるように大きく息を吐いた。

 そして親方を見る。

 親方は下を向き、プルプルと小刻みに震えるように暫く立ちすくんだ後「おいっ!」と叫び、出入り業者の胸ぐらを掴んだ。

 そして吠える。


「面白れぇじゃねぇーか!」

「ですよね! 流石は親方! いやぁ、見る目が違う! いよっ! 国王様!」


 親方と出入り業者はガッチリと握手を交わし、そして熱く抱き合った。

 男と男の熱い友情が、そこにはあった。


「早速、作業に取り掛かるぞ! おいっ! 鉱石を全て買うから持って来い!」

「承知しました!」

「ちょ! ちょっと親方! その金は俺達の給料――」

「まずは型枠からだ! 木材も調達しとけ!」

「まいどあり!」

「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!」


 その日、鍛冶工房の中から弟子達の叫び声が響き渡り、久し振りに町に活気が戻ったのだった。


◆◆◆


 ○○年後。


「ママ~、あの大きなの、なに?」


 町を歩く小さな子供が指差す方にあったのは金属の巨大なメイスだった。

 かつてこの町に『アルッポのダンジョン』と呼ばれる裂け目のダンジョンがあった、まさにその跡地に設置された金属製のメイスは黒く巨大で、二階建ての建物より大きく、縦に立てれば裂け目のダンジョンの裂け目と同じぐらいの大きさがあると言われている。


「あれはね『ドラゴン・マッシャー』って言うらしくてね。昔ここにあったダンジョンのボスだったドラゴンゾンビが使ってたんだけど、大きすぎて人間には使えないからあそこに放置してあるんだって」


 子供の母親らしき女性が巨大メイスの横に設置されている石碑に書かれていた説明文を読んでそう答えた。

 それを聞いた子供は「へー……」とつぶやき、暫く考えた後に言葉を続ける。


「でも、どうして『ドラゴン・マッシャー』なのにドラゴンゾンビが使ってたの?」

「それは……」


 母親は少し言いよどむ。

 ドラゴンを倒すための武器っぽいのにドラゴンがそれを使っているのは少し変ではあった。

 しかし考えても答えは出て来ないので母親は適当に答えておくことにした。


「ほら、きっとあのメイスで倒されちゃったからドラゴンゾンビになったんだよ!」

「そっか! 確かにそうだよね!」


 よく分からないけど納得してくれたことに母親はホッとしつつ「じゃあ宿屋に戻ろうね」と子供の手を引きながら去っていった。


◆◆◆


 かつてアンデッドダンジョンで栄え、そしてそのダンジョンの消滅と共に衰退したアルッポという町があった。

 しかし、ある日その町は『ドラゴン・マッシャー』という謎の巨大メイスが町の中心に出現したことによって観光産業で奇跡の復活を遂げたと噂されている。

 町に昔から住んでいる冒険者の中には『ダンジョンのラスボスだったドラゴンゾンビが使っていたらしい』と証言する者もいて、地元の観光産業組合もその説を採用しているとか。

 だが実のところ、このメイスについて、誰が、なんの目的で作り、どんな理由でここに置いたのか、それは分かっていないのだ。

 本当にドラゴンゾンビが装備していたモノなのか。神がもたらした奇跡の産物なのか。それとも町の鍛冶屋が思いつきで作ったけど売れずに処分に困って捨てていったモノなのか。それは今となっては誰にも分からない。

 歴史の謎である。

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