第262話【エピローグ】一つの町の終焉

これでこの章は終わりになります。

長い間、お付き合いありがとうございました!

この続きはもう暫く時間が空くと思います。


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★極スタに出てくる『MMO仲間』をWEB版で出さなくなった理由

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――――――――――――――――――――――――――――――


「ふぅ……危ない危ない」


 僕が投げたモノを拾っている冒険者を見ながら胸を撫で下ろす。

 安全のために出来る限り遠くから投げたつもりだったけど、あの冒険者達の反応が早すぎて冷や汗をかいた。

 流石は高レベル冒険者だ。

 骸骨のボスを倒し、地下の神殿を出た後、僕が真っ先にしなければならなかったこと。それは『ゴラントンの剣』の捜索だった。

 彼等が普段、八階を中心に活動していることは以前聞いていた。そして僕がダンジョンに入る前、彼等が装備も人材も増強してダンジョンに進入するところを見た。つまり今回、ダンジョンクリアを狙う団体は聖騎士団とアルメイル公爵家と僕の三勢力ではなく、そこにゴラントンの剣をプラスした四勢力による四つ巴状態だったのだ。

 そして僕としては、彼等ゴラントンの剣の存在が非常に重要だった。


「さて、彼等が僕からのプレゼントの意味を正確に理解してくれるだろうか?」


 理解してくれることを願う。

 ……それにしても、この闇のローブとやらの能力は凄いな。

 例の骸骨が羽織っていた闇のローブ。アンデッドが着ていたモノなんてあんまり着たくはなかったし、呪われてたらどうしよう的なことも思ったけど、ヤツのダークフレアとかいう魔法で元々姿を隠すために着ていた黒いローブが燃えてしまい、その下に着ていた白いローブや鎧も損傷してしまったので、これを着るしかなかった。

 使い方に関しては、あの骸骨がやっていたように『闇よ』というフレーズで簡単に発動したので問題はなかったのだけど。


「これって、アーティファクトなんじゃないの?」


 いや、そもそもアーティファクトに正確な定義がなさそうなので、どうかは分からないのだけど。

 とにかく追々、これの性能も確かめていく必要があるだろう。

 そう思いつつ闇の中を走り続け、八階に進んだところでホーリーディメンションに帰宅した。


「ただいま」

「キュ!」


 出迎えたシオンを撫でながらホーリーディメンション内を見る。

 急いでいたこともあり、様々なアイテムが散らばっていて良くない。


「整理しないとな」


 今はその前に色々とやることがあるのだけど。


「まずは……」


 宝箱のアーティファクトを確かめたい!

 ダンジョンクリアの最大の戦利品、アーティファクト。これを確かめておくべきでしょ!

 ワクワクしながらアーティファクトが入っているであろう金色の宝箱を見る。

 横幅は五〇センチぐらい、縦幅と高さが三〇センチぐらいの箱なので、剣とか槍ではないはず。


「まぁいいか。とりあえず開けてみよう! ……いや、外で開けるか」


 あんまり考えてなかったけど、罠とかあるかもしれないしね。

 ホーリーディメンションの出入口を開け、箱を外に出し、念の為に伏せながらディバインシールドを展開して、その後ろからミスリル合金カジェルを伸ばして宝箱の蓋を開ける。が、特に罠などはなかったようで、何事もなく蓋が開く。


「よしっ! アーティファクトさん! おいでませ~」


 ワクワクしながら立ち上がり、箱の中を見てみると……。


「は?」


 なにもなかった。

 中は空っぽだった。


「いやいやいや……」


 あれだけ苦労したのにアーティファクトがない、だと?

 そんなことがあるのか? ありえるのか?

 とりあえず箱をホーリーディメンション内に入れて考える。


「いや、もしかすると……」


 この中にあったアーティファクトって、この闇のローブなのでは?

 あの骸骨が勝手に出して使ってたとか……。あると思います!

 知能があるモンスターだったし、そういう可能性もある。


「まぁ……考えても分からないか」


 落胆からテンションが下がるのを自覚しつつ、今は時間もないので切り替える。

 とりあえずこの箱も豪華そうな見た目だし、貴重品入れにでもするかな……。

 捨てるのももったいないし、ダンジョンクリアの記念に置いておこう。

 そう決めて、ダンジョン攻略で余ったポーション類などを箱に入れて部屋の隅に移動させる。


「あとは、コレか」


 例の骸骨を倒した後、その骨の中に埋まっていたペンダント。

 銀色の金属で出来ていて、ダイヤモンドみたいな宝石が埋まったコインのようなモノがついている。

 宝石が埋まったペンダントを確認する。

 色々といじくり回しながら様々な角度から観察していくが……。これがどういったモノなのかはよく分からなかった。


「結局、良いっぽいアイテムが手に入っても、それがなにかが分からないんだよなぁ……」


 オリハルコンの指輪の時もそうだけど、どういった効果があるアイテムなのか調べにくいから困るんだよね。

 高ランク冒険者ってこのあたりどうしてるんだろう?

 見ていても分からないのでペンダントを宝箱に入れてその蓋を閉めた。

 なんか、こう、ダンジョンをクリアしたのにスッキリしないというか、納得出来ないモノを感じつつ、その日は横になった。


◆◆◆


 それから数日後。

 僕はアルッポの町に戻ってきていた。

 八階を抜けてからは昼夜問わず、寝ている時間以外はダンジョンの外に出ることを優先して走った結果、迅速なる帰還が可能となった。

 恐らく現時点では、八階や九階にいる三勢力は全て、ダンジョンが誰かにクリアされたことに気付いているだろう。

 ここで重要になるのが、ダムドさんから聞いた話。この裂け目のダンジョンの仕組みについての話だ。

 裂け目のダンジョンは最下層にいるボスを倒すと『最下層から順に機能を停止していく』らしい。

 機能の停止とは、モンスターのリポップがなくなることと、特殊効果の停止、つまり九階の毒とか八階の赤黒い霧とかも消えていってるはずで。それを見れば、彼等もダンジョンのクリアを察するはず。

 そして機能を停止したダンジョンは倒されたボスを再生させた後、ダンジョンの機能を復活させ元に戻る。なので、ボスをただ倒しても、それだけではまたボスが復活してしまうのでダンジョンクリアにはならない。

 それらを統括しているのが『ダンジョンコア』になる。

 ダンジョンコアとは、ダンジョンの最下層に安置されていたバレーボールサイズの透明な玉で、裂け目のダンジョンを全て動かしているモノらしく、これを破壊することでダンジョンの機能を完全に停止させ、破壊することが出来ると。

 なので、裂け目のダンジョンのクリアとはボスの討伐ではなくダンジョンコアの破壊であり、ダンジョンクリアの証とはダンジョンコアの欠片なのだ。

 だからこそ彼等に、ゴラントンの剣にダンジョンコアの欠片を半分プレゼントした。


「ちゃんと気付いてくれたら嬉しいんだけどなぁ……」


 彼等が賢明なら、わざわざ謎の第三者がダンジョンクリアの証であるダンジョンコアの欠片を投げてよこした理由を察して、それを上手く利用してくれるはずだ。

 つまり――


「おい! 大変だ! ダンジョンがクリアされた!」

「なんだって!? 誰がやったんだ?」

「それが、ゴラントンの剣らしいぞ」

「マジかよ……。聖騎士団はどうしちまったんだ?」


 昼間っから宿の酒場で葡萄酒を飲みながらそんな話を聞き、ホッと息を吐く。

 良かった。彼等はちゃんと、こちらの好意を利用してくれたみたいだ。

 僕が考えていたこのアルッポのダンジョンクリア、最後のピース。それは僕の代わりに『ダンジョンをクリアした!』と宣言してくれる人材だった。

 でも、僕がその役を押し付けられる人材は条件が厳しく、限られていたのだ。

 まずダンジョンのクリアが可能である実力のある団体。次に、ダンジョンのクリアを名乗り出られる団体。そして、ダンジョンをクリアしても僕に不都合がない団体。最後に、自分達がクリアしてなくても『ダンジョンをクリアした!』と宣言する団体、という感じだろうか。

 その辺の冒険者にダンジョンコアをプレゼントしてもひっそりとネコババされて終わるだけ。

 アルメイル公爵家を恐れず、ダンジョンクリアを公表することにメリットがある団体が必要だった。

 条件的に一番揃ってそうだったのが聖騎士団だったけど最後の条件が問題で、つまり聖騎士団にダンジョンコアの欠片をプレゼントとしたとしても、彼等が人の功績を横取りするような行為を容認するかが疑問だった。彼等の立ち位置的には、正直に『何者かがダンジョンコアの欠片を投げてよこした』と発表してしまう可能性の方が高く、この身代わり計画を断念したところにゴラントンの剣が装備と人材を増強してダンジョンに入るところを見た。

 ゴラントンの剣は前回の戦争で弱体化したグレスポ公爵家側の団体ということで余裕がなく、今は他人から譲られた名誉であっても飛びつくのでは? と予想したのだ。

 僕は『名を捨て実を取る』し、彼等は『名を得て実もちょっとだけ取れる』から、両者に得がある。

 僕からのその無言の提案を彼等はちゃんと読み取り。こうして契約書も口約束もない契約が成立した。

 恐らく彼等は『ダンジョンをクリアしたいけどアルメイル公爵家などに恨まれるのは面倒だと考える高ランク冒険者からの提案』と考えただろうし、この事実を誰にも言わないだろう。言っても現時点ではメリットがないだろうし。

 まぁ、ということで、とりあえずは一安心という感じかな。


「ゴラントンの剣がダンジョンから出てきたらしいぞ!」

「見に行くか!」

「おうっ!」


 酒場の中にいた冒険者達がワイワイ騒ぎながら出ていく。

 なのでその後を追って僕も酒場を出た。

 そして裂け目の広場に行くと、ゴラントンの剣の面々が整列し、演説をしているところだった。


「我々、ゴラントンの剣が、このアルッポのダンジョンをクリアした!」


 ゴラントンの剣のリーダー、リスタインさんがそう叫ぶ。

 周囲からは「おぉ!」という声が響く。


「そしてこれが、ダンジョンクリアの証、ダンジョンコアだ!」


 リスタインさんはダンジョンコアの欠片を天高く掲げた。

 ダンジョンコアの欠片が陽の光でキラキラと輝く。

 それを見て、多くの歓声が上がった。多くの人々がゴラントンの剣を褒め称える。


「これからアルッポのダンジョンは崩壊するだろう。我々が知る限り、既に九階へ続く裂け目は消滅した。五階村の住民も退去を始めている。内部のモンスターもほぼ殲滅し終わったはず。もうダンジョン内に入らない方がいいだろう」


 リスタインの言葉に歓声が上がる一方、暗い顔の人も多い。


「さーって、これからどうしたもんか……」

「俺も身の振り方、考えねぇとな」

「おいっ! うちの宿は五年前に建てたばかりだぞ! どうしてくれるんだ!」


 この町は、まず間違いなくダンジョンで維持されていた。ダンジョンが消滅すれば冒険者が減り、店が維持出来なくなって商人も減る。この町に投資していた人にとっては災難でしかないのかもしれない。


「おいっ! そのダンジョンコアを渡せ!」


 彼等の後ろの裂け目から出てきた男――ポーリが、リスタインの持つダンジョンコアを見付けてそう叫んだ。


「お断りしますよ。これは我々、ゴラントンの剣がダンジョンをクリアした証です」

「なにっ! 貴様、まさか断って無事にこの町を出られると思っているのか?」


 ポーリのその言葉に周囲の空気が一瞬にして変わる。

 アルメイル公爵家側とゴラントンの剣側が向かい合い、いつでも戦闘態勢に入れる空気が作られていく。

 あぁ……やっぱりこうなるよね。ぶっちゃけダンジョンをクリア出来たとしても、この町はアルメイル公爵の勢力圏内。出入りも他の町より制限されているし、バレてしまえば脱出が不可能になるんじゃないかと思ってたんだ。


「これは何事だ!」


 裂け目から聖騎士団が現れ、その先頭の男がそう叫んだ。

 それにより緊迫した空気が薄れていく。


「チッ……」

「それでは我々は失礼させていただきます」


 ポーリが舌打ちをする中、リスタインがうやうやしく頭を下げ、全員を引き連れてこの場を去っていった。

 ポーリがそれを見て一瞬動こうとするも、周囲から制止され足を止める。


「……」


 聖騎士団が介入すると、アルメイル公爵家でも強引な手は取れない、か。

 う~ん……しかし、やっぱり色々と大変だ。

 アルメイル公爵家から恨まれるのも大変だけど、それ以外から恨まれるのも大変すぎる。


「まぁでも、これで一段落、かな」


 アルメイル公爵家にダメージを与えることが出来た。

 僕はダンジョンをクリアすることが出来た。

 功績と厄介事を福袋にして他の人に売りつけることが出来た。

 色々とあるけど、僕はここで自分がやれるだけのことをやったと思う。


「そろそろ、次の移動先を考えようか」

「キュ?」

「そろそろ旅をしようかって話さ」


 それからの町は急激に変化していった。

 ダンジョンが機能を停止したことでモンスターのリポップが止まり、食い扶持を失った冒険者が町から流出していった。冒険者ギルドでよく見ていた顔も見なくなり、朝になると大きな荷物を持って外を目指す人々の姿を見ることも増えた。

 五階村の面々が馬車に資材を積んで戻ってきたらしく、酒場のマスターや冒険者ギルド出張所の親父やヒボスさんもアルッポの町に戻ってきたらしい。

 町はどんどん、その姿を変えていった。

 そして僕は、まだこの町に留まって情報収集していた。


「おう、久し振りじゃねぇか」


 冒険者ギルドで情報収集していると、久し振りに会ったヒボスさんに話しかけられた。


「久し振りですね。最近どうしてるんです?」

「あぁ、色々と準備が忙しくてな」

「準備ですか?」

「別の町に移る予定だ。ここじゃもう稼げねぇからな」

「そうですか……」


 仲良くなった人がこうやって別の町に去っていくのを見るのは、やっぱり寂しいものがある。


「おいおい、そんな顔すんなよ。冒険者なんてそんなもんだぜ」


 ヒボスさんは「またどこかで会おうぜ」と続け、冒険者ギルドから出ていった。

 彼をこの町で見たのはそれが最後だった。恐らくもう別の町に旅立ったのだろう。

 それからアドル達親子とダムドさんにも会ったけど、彼らは暫くこの町に残り続けるらしい。やっぱりこの町には色々と思い出があるのだと思う。町が衰退すると分かっていても、簡単に捨てられるものじゃない。

 宿の部屋に戻り、しっかり戸締りを確認してホーリーディメンションを使う。


「それは新たなる世界。開け次元のホーリーディメンション


 中に入り、物資なんかを整理していく。

 棚とか欲しいけど、それを買ってると怪しいので、とりあえず布袋を沢山買ってきて、それに小分けすることで整理している。やっぱりそのうち棚は欲しいよね。

 整理しながらこの次の行動を考えていく。

 次に僕がやりたいこと。それは装備の充実だ。お金に換金可能なアイテムは沢山あるし、そろそろ本気で装備を整えるべきだと思う。それに、骸骨のダークフレアとやらで装備品もやられたままだ。このタイミングでもっと良い装備に買い替えたい。

 それに個人的には早くこの国を出たいと思っている。

 アルメイル公爵家にもグレスポ公爵家にも少し因縁っぽいモノが出来てしまったので、問題はないと思うけど、ほとぼりが冷めるまで暫くは別の国に出ていたい気持ちが強い。

 そう考えると方向的には、元々、行く予定だった南側の国、アルムスト王国を目指すか、それとも西か北を目指すか……。さて、どうするか。


「ん?」


 宝箱の中を整理していて、その中のネックレスを触って、おかしなことに気付く。


「……温かいだと?」


 このネックレスは金属製で、触り続ければ体温が移って人肌に温まるけど、当然ながら放っておけば常温に戻るはず。今は寒い時期だし、すぐに冷たくなるはずだ。最近、朝にミスリル合金カジェルを握ると冷たくてビックリすることがあるし、このネックレスもそうなるはず。確か、前にこの箱を開けたのはダンジョンの中だったし、それだけ時間があれば冷えてるはず。


「これは、ネックレスの特殊効果……いや、待てよ」


 急いで背負袋から鍋を取り出し、水滴の魔法で水を入れ、そこに火種の魔法を入れて沸騰させた。

 そしてその熱々の熱湯が入った鍋を宝箱の中に入れ、すぐに蓋をする。


「もし、これで正解なら……。これはとんでもないことになるぞ」


 その日はそのまま眠って翌朝、はやる気持ちを抑えてホーリーディメンションを開き、中の宝箱を開いた。


「っお!!」

「キュ?」


 立ち昇る白い湯気。不思議そうなシオン。

 鍋を取り出し、手を近づけてみる。

 しっかりと温かい蒸気が手を温めていく。

 そう。寝る前に入れたお湯がそのまま熱いまま、この箱の中にあったのだ。


「確定だな……。これは、ヤバいぞ……」


 僕は、この宝箱を見付けた時、この宝箱の中にアーティファクトが入っていると考えた。しかし、入っていなかったので落胆した。でも、それは間違いだったんだ。

 そもそもの前提を間違っていた。アーティファクトが入ってなかったわけじゃない。この箱自体がアーティファクトだったのだ。

 この箱は恐らく、状態保存か時間停止の機能がある!


「もしくは保温機能が付いた魔法瓶的アーティファクト……」


 ……ないな。それはない。それだったら泣く。声を上げて泣く。

 僕が知る限り、内部の時間を停止させるような魔法袋の話は聞いたことがないし、そういうアーティファクトの存在も聞いたことがない。これは、とんでもないお宝だ!


「でも、また人には見せられないモノが増えたな……」


 まぁ、ホーリーディメンションの中ならバレる心配はないし、大丈夫だよね。

 と僕が新しいアイテムの使い道にワクワクしていたその日、ついにアルッポのダンジョンが消滅した。

 冒険者ギルドで情報収集している最中、冒険者が叫びながら飛び込んできてダンジョンの異変を知り、ギルド職員も含めて全員でギルドを飛び出して、アルッポのダンジョンの最後を見届けた。


「こんなモノ、一生に一度、見れるかどうかだぜ!」

「ちげぇねぇ!」


 誰かがそう言った。

 アルッポのダンジョンの裂け目が大きく波打ちながら閉じていく。


「あぁ……本当に終わっちまうんだな」

「そうだな……」


 誰かがまた呟く。

 裂け目がどんどん閉じていき、やがて全ての裂け目が閉じてしまい、そこにはなにも存在しなくなった。


「おぉぉ! 魔王のダンジョンが消滅したぞ!」

「ゴラントンの剣に神の祝福を!」

「おぉ!」


 ダンジョンの消滅を喜ぶ者。ダンジョンがあった場所に走り、跡地を確かめる者。ただ、立ち尽くす者。様々な人々がそこにはいた。そうしている内に一人、また一人と、その場から離れていき、そこにはだだっ広い広場だけが残った。

 そして翌日。まるでダンジョンの消滅を見届けるために残っていたかのように、多くの人々が町から離れていった。

 こうして、ダンジョンによって生まれた一つの町がその役目を終えたのだ。


「僕達も、そろそろ行こうか?」

「キュ」


 なんとなくだけど、このダンジョンを消滅させた張本人として、ダンジョンの消滅は見届けなければならない気がして残っていたけど、もうそろそろ僕達も次に進む必要がある。

 翌日。宿を出て町の外に向かう。

 この町でお世話になった人々には既に挨拶は済ませてある。

 ここに来る時は賑わっていた商業エリアも今は店がまばらになっていて、かつての賑わいが幻想だったかのように、人の数が減っていた。

 そんな町並みを目に焼き付けつつ大通りを抜け、門に到着。

 以前は門の前には行列が出来ていたけど、今は外に出る人ばかりで真実の眼によるチェックも行われておらず、門番が暇そうに椅子に座ってダラけていた。

 なんとなく真実の眼に興味が出てきたので、彼等に話しかけてみる。


「すみません」

「あぁん?」

「いやその、ちょっとだけ真実の眼でチェックしてみていいですか?」


 そう言ってみると、門番はダルそうにこちらを向いて「まぁいいぜ、どうせ暇だしな」と言いながら手をヒラヒラと振った。

 許可を貰ったので真実の眼の前に立ち、そっと手を触れてみる。

 以前、触った時は青く強い光に包まれたのだけど、今回は果たして……。


「んん?」


 触れた瞬間、真実の眼から真っ青な光が発せられ、辺りを包む。

 これは確実に前回よりも光が強くなっているぞ!

 それを見た門番が驚いて椅子を蹴飛ばしながら立ち上がり、僕の顔をまじまじと見た。


「あ、貴方は! 以前、物凄い光を出した人!」


 ありゃ? もしかして、前にチェックした時にいた人なのかな?

 というか、覚えてたのか……。


「あのう……やっぱり、貴方様は教国の物凄く偉い大司祭様なのでは?」


 なんだか以前も似たようなことを言われた気がするけど……。僕はそんな偉い存在じゃないんだけどね。


「いえ、ただの旅のヒーラーですよ」


 そう言って踵を返し、門を抜けた。

 門の外には森と平原が広がっていて、気持ち良い風が吹いていた。

 旅立ちの朝にはピッタリだ。


「さて、行きますか!」

「キュ!」


 そうして僕等は旅立った。次の町に向けて。

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